中国「萌え」アートの台頭その4

Pocket
LINEで送る

スポンサードリンク

 

 

 ■その昔、村上隆氏作の等身大フィギュアが美術品オークションの老舗、クリスティーズで5000万円とか6000万円の値段がついたのに衝撃を受けたことがある。それまであのようなエロアニメ風人形がアートである、という認識はなかったからだ。しかしその後、世界の女性のあこがれ、フランス高級ブランドのルイ・ヴィトンまでが村上隆モデルを発表。美少女フィギュアとは無縁の若い女性にまで、世界で屈指のポップで前衛的なアーティストとしての村上隆の名が知られるようになった。

 ■その村上隆に影響を受けた訳ではないらしいが今、中国にもフィギュア作家がアーティストとして認知されはじめている。たとえば中央美術学院(日本でいえば東京芸大クラス)を四年前に卒業した28~30歳の青年三人組による制作グループ、アンマスクグループだ。

 

 

 ■ ヒーローアニメを彷彿させる三体の男性フィギュアを組み合わせた作品が多い。彼らのアトリエも北京の大山子芸術区にある。
 三人のうち最年長の匡峻さん(30、写真の右)によれば、「三人一人一人が、自分の中にある虚構のヒーローを形にして、それをワンセットで作品としている。自分自身をフィギュア化しているといってもいいかな。想像上のパーフェクトな自分」。
 必ずしも日本のアニメだけに影響を受けたわけではないという。「古典的なスターやアイドル、欧米のアニメとか中国の孫悟空とかの影響もある。もちろん日本のアニメは小さい頃からよくみていた。手塚治虫のアトムがすごく流行していたよ」。

 ちなみに写真の背景のロボットは、幼い頃のヒーロー、アトムの影響を受けた作品だ。
 


 

 ■戦闘シーンの作品が多のは、「戦争に対する現代人の見方を表現している。テレビで世界各地の戦争暴力が放送されているけれど、なんか娯楽ニュースやコンピューターゲームみたいな感覚なんだ」。暴力や残忍さが、ゲーム化されている、今という時代をアニメ風キャラクターの非現実さ、軽さをもって表現しようという試みがうかがえる。

 

 ■彼らは、フィギュアを「おもちゃ」という。「僕らの概念では、芸術は商品であるべきだと思っている。フィギュアのようなおもちゃも、アニメも漫画も、芸術を商品化したものだ。中国の現代美術界はもともと芸術の商品化という概念はなかったけれど最近、変わってきたからね」。


 


 芸術かおもちゃか?

 

 ■中国の現代美術は、前にもふれたようにもともとポリティックアート(政治的芸術)が出発点。政治的メッセージが強く、商品価値に重きを置いていない。だが、確かに最近の現代美術作家にはビジネス指向が強い。それは芸術品としての商品価値にとどまらず、いわゆるキャラクターグッズビジネスへの意欲にまで広がっている。

 なぜ中国で『萌え』アートが台頭してきているか、という理由の一つに、きっとこの商品化指向もあるだろう。中国社会では日本アニメ人気が潜在的に高く、アニメキャラ風デザインのキャラクターグッズの市場は小さくない。アンマスクグループも「中国『萌え』アートの台頭その1」で紹介した劉野も、Tシャツデザインなどのキャラクターグッズを販売している。

 

 

 ■原材料は、グラスファイバーなど。緻密な細部表現は職人芸、といってもいい。学校を卒業して間もない彼らの作品はすでに、欧米のコレクターの間で数十万円の値がついているなど、彼らの商業化指向はとりあえず、成功している。


 


こまかい!職人の仕事。 

 

 ■さて、今まで「萌え」アートを中心に中国現代美術の若手作家を四回にわけて紹介してきた。あえて「萌え」にこだわったが、中国現代美術においてこのテイストはまだまだ亜流だ。ただ大山子かいわいの展覧会場に足を運べば、芸術家の卵たちが日本アニメ、漫画、ゲームのキャラクターのような絵を描いたスケッチブックを欧米のバイヤーに見せている姿をよくみかける。彼らの中から未来の「村上隆中国版」が現れるかも。

 

 ■ただ、中国で株、不動産に次ぐ投機先として現代美術市場が急激に注目を浴びるようになって、学校出たての若い作家の作品に、いきなりびっくりするような高値がついてしまったり、作品が完成する前に市場で「先き物取引」される現状を見ると、やはり一抹の不安も感じる。これは典型的な美術品バブルではないか、と。
 海外の美術関係者の中には、中国の美術品は投機性が高い、という話題ばかりが先行して、市場に作品の善し悪しを冷静に見極め、若手を育てるだけの力が備わっていない、と憂慮する声もきかれる。こういう環境は、むしろ若い作家をつぶしかねない、と。
 

 

  ■というわけで、私の現代美術品購入計画は、まだ遂行されていない。せっかく買うのだから、市場に踊らされるのではなく、もっと気長に本当にひとめぼれするような作家と作品をゆっくりさがしてゆくことにする。掘り出し作家を見つけたら、またご報告します。
  

Pocket
LINEで送る

「中国「萌え」アートの台頭その4」への2件のフィードバック

  1. 皆さん夏休み
    お出かけ
    行く先は中国です
    福島記者、離中パーティー案内メール来ませんでしたか?
    日本では、芸術としては評価されにくいでしょうね
    職人が作る茶碗と陶芸家が作る茶碗
    数作れば職人
    数作れないと陶芸家

  2. 「中国の現代美術は、前にもふれたようにもともとポリティックアート(政治的芸術)が出発点」とありますが、出発点はアーティストたちの、「自由に表現したい」という思いだったのでは?もちろん政治は、中国現代美術のモチーフの1つにはなったでしょう。中国の現代美術を政治とすぐ結びつけるのは、あまりにも単純だと思います。アーティストはそんなに単純じゃないです。

ana5 にコメントする コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">