中国で物権法ができたら??その4

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 ■つまらん、つまらん、といいながらも、北京で開催中の全国人民代表大会(全人代=国会のようなもの、でも相当ちがうかも)の取材でけっこう忙しく、更新が滞っておりました。で、私の全人代に関する目下の関心事、物権法について続報。先日、その最終草案と見られる第7次草案を入手、記事化して掲載したのですが、きょう8日、全人代に上程された物権法案をみると、えっ、微妙にちがう、がーん。王兆国・全人代常務副委員長の説明によると、全人代代表(国会議員のようなもの、でもかなり違う)に渡した第7次草案に、一部代表の意見を加えてさらに修正したものを最終草案としたそうです。さすが、反対派ともめにもめている物権法、最後までいじりまくります。(常務委員会で採択したものを勝手にいいじっていいんかい!!)

 ■で、今回、上程された物権法案を紹介のキモはですね、
①私有財産と国有・公有財産の法律による同等保護(これまでは公共財産は神聖不可侵で別格扱い)
②農地の使用権(土地請負経営権)の登記、つまり用益物権としての位置づけ(これまでは土地請負経営権の法的位置づけはあいまいだった)
③使用権期限満了後の使用継続容認規定(一応、規定はあったんですが、物権としての規定を明確化)
④土地収用に対する補償金支払い義務の明確化、あたりですかね。

 ■②にからみ、農地の使用権の流通が「土地請負法」に基づくというかたちで、制限つきで認められることが明記されましたが、これについては王副委員長が「(農地譲渡などの)条件はまだ成熟していない。今後の関連法修正、政策調整を残す」と、微妙な言い回しで牽制。ちなみに関連法の土地請負法では、農地使用権譲渡は、農村(あるいは郷、鎮など)の同意が必要となっていて、権利人が勝手に譲渡できないことになっています。しかし、逆にいえば、土地請負法が改正されれば、農地の市場化が広がるともいえ、これは将来の「農地開放」に向けた重要な布石、ともいえるわけです。もっとも、今後の全人代審議でまだまだ文言はいじられる可能性があるのですが。
で、物権法案の中味(今全人代審議前)をざっくり紹介。(かなり省略)

■物権法制定まで秒読み、中味は最後までいじるみたいだ!

 ■基本原則(ここでは、物権法が社会主義市場経済の維持に必要なのだ、という説明、というかいいわけ。でも、本当は私有制経済の発展を大きく推進し、社会主義イデオロギーと資本主義経済のいびつな接ぎ木の中国が、資本主義の太陽にむかって枝を伸ばそう、と決心した、その現れが物権法なのだ、とフクシマは思った

①国家基本経済制度、社会主義市場経済秩序を維持し、物の帰属を明確にし、物の効用を発揮させ、権利人の物権を保護するために、憲法に基づき同法を制定する。

②物の帰属と利用により発生する民事関係について、本法を適用する。
ここで言う物とは、不動産、動産を含む。

③国家は社会主義初級段階にあり、公有制を主体に多様な所有制経済を共同発展させる基本経済制度を堅持する。

④国家、主体、私人の物権およびその他権利人の物権は法的保護を受け、いかなる機関・団体の侵犯を受けてはならない。

⑤物権の種類、内容は法律により規定。

⑥不動産物件の設立、変更、譲渡、消滅は法律に従った規定の登記を行う。

⑦物権の取得、行使は法律を遵守、社会道徳を尊重し、公共利益と他人の合法権益を損なってはならない。

 ■物権の保護(当たり前のこといってます。でも、法治国家でない中国では守られないのも当たり前だったり

32、物権の侵害をうけたとき、権利人は和解、調停、仲裁、訴訟などで解決できる。

33、物権の帰属をめぐる争議が発生した場合、利害関係人は権利の確認を請求できる。

34、権利なく不動産、動産を占有しされていた場合、権利人は原物の返還を請求できる。

35、物権を妨害、あるいは妨害する可能性にたいし、権利人は妨害を排除し危険を排除できる。

36、不動産、動産の毀損にたいし、権利人は修理、作り直し、交換を請求できる。

37、物権侵害や権利人に害を及ぼすものにたいし、権利人は損害賠償を請求し、相手の民事責任も請求できる。

 ■所有権 一般規定(当たり前のこと。でも法治国家でない中国でこの当たり前のことも、改めて言うと新鮮!)

39、所有権人は、自分の動産、不動産にたいし、法に従い、占有、使用、収益、処分の権利を有する。

40、所有権人は、自分の動産、不動産を用益物権、担保物権に設定できる。

41、国家所有の不動産、動産は、いかなる機関、団体、個人もその所有権を取得できない。

42、公共利益の需要のため、集団所有の土地、機関・団体・個人の家屋およびそのた不動産を、法規定の権限とプロセスに従い収用できる。
収用した集団所有の土地には土地補償費を支払い、移転補助費、地上付属物や青田に対する補償費を支払い、土地収用された農民の社会補償費用を十分に準備し、農民の生活を補償、合法権益を守る。収用された機関・団体・個人の家屋などそのた不動産は、撤去補償をあたえ、その合法権益を守る。個人の住宅を収用した場合、収用された居住条件に見合う補償を行う。いかなる機関・団体、個人も汚職、横領、私物化、補償費支払いの遅延などしてはならない。(現在社会問題となっている土地の強制収用への補償義務を明確化。当たり前のことなんだけれど、中国ではないがしろにされていた。でも法治国家じゃないから、物権法でどれだけ守られるかは謎

43、国家は耕地に対し特殊保護を行い、農地の建設用地転用を厳格に制限し、建設用地の総量を抑制する。法律規定の権限、プロセスに違反した集団所有の土地収用を行ってはならない。(農地の減少が深刻な中国では、特殊保護政策で、農地確保を規定。中国の農地は18億ムー、1ムーは6・67㌃、のデッドラインを守ることを迫られている

44、危険をのぞき、災害救援などの緊急需要を理由に、法規よる権限とプロセスに従い、機関・団体、個人の不動産、動産を収用できる。収用した不動産、動産は使用後、もとの権利人に返還すること。収用時、収容後に破壊、消失した場合は補償すること。

■国家所有権、集団所有権、私人所有権(それぞれの所有権を規定しています。中国の土地制度理解のために、抄訳

45、法規に定める国家所有財産は国家所有、すなわち全民所有である。国有財産は国務院(内閣)が国家を代表し、その所有権を行使できる。(国有財産って、国民のものなんです、実は。でも、内閣は選挙で選ばれてませんから、国民の代表じゃない。そんな国務院が国有財産の所有権を行使していいのか??という疑問はさておき…)

46、埋蔵鉱石、水流、海域は国家所有

47、都市の土地は国家所有。法規に国家所有と定める農村、都市郊外の土地も国家所有(農村の土地の多くは集団所有制、つまり農民集団である村とか郷、鎮などの地方政府の所有なのだ

48 森林、山峰、草原、荒地、灘、沼地など自然資源は国家所有。法規定で集団所有とされるものをのぞく。

49、野生動植物資源は国家所有。
50、無線電波資源は国家所有。
51、法規定の国家所有の文物は国家所有。
52、鉄道、公道、電力施設、電信施設、パイプラインの基礎インフラで国家所有と法規定するものは国家所有。

53、国家機関は、直接支配する不動産、動産について、その占有、使用および法律と国務院の関連規定にしたがった処分の権利をゆうする。
都市の一等地って、国有地だけど、軍とか公安省とか外務省が直接支配していることが多いんです。国有地は全民所有のはずなのに、軍とか公安省とかが不動産売買して荒稼ぎしている状況に、いちおう物権法で言い訳。なんで直接支配できたかって?法律のない間に先に、わけわけして、占有したから。まあ、早い物勝ちさ

54、国家がおこした事業団体、機関はその直接支配する不動産、動産にたいし、占有、使用および法律と国務院関連規定による収益、処分の権利をゆうする。

55、国家出資企業は国務院、地方人民政府の法律、行政法規に従い、国家を代表し、出資人の責任を履行し、出資人の権益を受ける。

56、国家所有の財産は法的保護をうけ、いかなる機関・団体、個人の侵犯、強奪、私有化、差し押さえ、破壊などを受けない。(物権法ができたら、国有資産流出が加速する!!という反対派の声を反映して、国有財産保護の規定も結構くわしくもりこんでいます

57、国有財産管理、監督職責を履行する機関および職員は、国有財産管理、監督を法に従い強化し、国有財産の価値を保ちまたは増やし、国有財産の損失を防止する。職権を乱用し怠け、国有財産を損失させた場合、法的責任を負う。国有財産管理規定に違反し、企業改制、合弁分立、関連交易のプロセスで、低価格譲渡や談合による私物化、勝手な担保化などで、国有財産を損失させた場合、法的責任を負う。
中国の今の経済を支える私営企業家らは、改革開放後の70年代末から80年代、国有企業資産を権力とのコネにものをいわせ、ものすごい安値、あるいはタダ同然で私有化し、それを資本にして発展してきました。今はダメなのに、あのときはいいのかよ!と不満に、思う人は物権法反対)

58、集団所有の動産、不動産とは、
①法規が定める集団所有の土地、森林、山峰、草原、荒地、灘
②集団所有の建築物、生産施設、農地水利施設、
③集団所有の教育、科学、文化、衛生、体育などの施設
④集団所有のそのた不動産、動産
農村の土地などは、いわゆる人民公社が解体して郷、鎮、農村になったので、農民集団である農村の所有とされています。つまり、村の土地は村民みんなのもの。この村の大きさは、地方によって違いがあり、ひとつの農村の中に、農民集団が2つある場合もあり、複雑です

59、農民集団所有の不動産、動産は、集団の成員(つまり村民)の集団所有。そのため、以下の事項は、集団成員(村民)で法規定のプロセスに従い決定する。
①土地請負(使用権)を、貸し出す側の集団以外の機関、団体、個人に貸し出す場合
②個別の請負経営者間での、調整。
③土地補償費の使用、分配法
④集団出資の企業の所有権変更などの事項
⑤法律規定、そのたの事項

60、集団所有の土地、森林、山峰、草原、荒地、灘などの所有権行使は以下の規定にしたがう。
①村の集団経済組織や村民委員会が集団を代表して所有権行使する。
②村に2つ以上の集団がある場合、各集団内で集団を代表し所有権を行使する。
③郷鎮農民集団が所有するものは、郷鎮集団経済組織が集団を代表して所有権を行使する。
村には村民委員会など村議会みたいなものがあり、これは村民の直接選挙が建前。でも事実上は党支部書記といわれる共産党幹部の当選が既成事実化して、本当の民主選挙にはなりません。だから、結局村所有の不動産、動産は、村の共産党幹部のほしいままにされるケースが多い。この物権法では、このあたりがダメダメ

61、地方都市や村の集団所有の不動産、動産は法律、行政法規
に従い、集団に占有、使用、収益、処分の権利がある。

62、集団経済組織、村民委員会、村民グループは法律、行政法規、村民規約にしたがい、集団の財産を成員(村民)に公布する。

63、集団所有の財産は法律保護を受け、いかなる機関・団体、個人も、侵略、強奪、私有化、破壊してはならない。

64、私人は合法収入、家屋、生活用品、生産工具、原材料など不動産、動産の所有権を有する。

65、私人の合法的貯蓄、投資、収益は法律の保護をうけ、相続権そのたの合法権益を保護する。

66、私人の合法財産は法律の保護をうけ、いかなる機関、団体、個人の侵略、強奪、破壊を禁止する。

67、国家、集団、私人は法に従い、有限責任企業、株式企業などの設立に出資してよい。国家、集団、私人が所有する動産、不動産を企業に投資し、約定や出資比率にあわせて資産収益を有する。重大決策および経営管理者選択の権利、履行義務を有する。

68、企業法人は法や規約に従った不動産、動産の占有、使用、収益、処分の権利を有する。

69社会団体が合法的に有する不動産、動産は法的保護をうける。

ああ、全部書いているひまないや。

■というわけで、さきに気になる用益物権の規定を紹介。
用益物権とは他人の土地をある目的で使用する権利。農民が村の集団所有制の土地を、利用する土地請負経営権をこれにあたりますが、今回の物権法で、制限付き物権の一種として明確にされます。

■用益物権の一般規定。
 
117、用益物権人は他人の所有の不動産および動産にたいし、法律に規定する占有、使用、収益の権利を有する。

121、不動産、動産を収用された為に、用益物権が消滅したり、その行使に影響が出た場合、相応の補償が得られる。

■土地請負経営権

124、農村集団経済組織は家庭請負経営を基礎とし、二層経営体制の結合統一したものとする。農民集団所有や、国家所有の農民集団使用の耕地、林地、草地そのた農業地は、法に従い、土地請負経営制度を実行する。

125,土地請負経営権利人は、法にしたがい、耕地、林地、草地の占有、使用、収益の権利を有し、植林、牧畜、農業生産に従事する権利を有する。

126,耕地請負を30年、草地請負を30-50年、林地請負を30-70年、特殊林木地請負は、国務院林業行政主管部の批准を得て延長できる。これら請負期間は、満期後、国家関係部門の規定で継続して請け負うことができる。(ここで、土地請負の事実上の私有化の一歩といわれる永続請負への可能性を確保!

127、土地請負経営権は契約により効力を発生。県レベル以上の地方政府は土地請負経営権人に権利証明を発行し、登記し、土地請負権を確認する。(土地請負権を登記する、ということは物権として明確にする意味があります

128,土地請負経営権人は、土地請負法の規定に従い、権利のまたがし、交換、譲渡などの方式で流通させられる権利をもつ。流通期限は、請負余剰期間をこえてはならない。批准を得ずに非農業建設に利用できない。(土地請負法枠内での流通容認、だが、とりあえず土地請負法の制限内で、全面開放は今すぐというわけではない。あるいは、関連法の修正ができたら、流通容認、ともとれる微妙ないいまわし。一番敏感な部分なので、コウ逃げたか、という感じ

129,土地請負経営権人は、土地請負経営権の交換、譲渡しようとして、当事者が登記を要求し他場合、、県クラス以上の地方人民政府に土地請負経営権の登記変更を申請。登記をへずに、善意の第三者に対抗できない。

130、請負期間内に、請負発給人(村など)は、請負地の調整ができない。自然災害で請負地破壊など、特殊事情で、適切な調整が必要な場合、土地請負法に従い法律規定できる。

131、請負発給人(村)は請負期間内に発給地を回収できない。

132、請負地が収用されたら、本法にしたがい、相応の補償を得る。

133、入札、オークション、公開協議などの方式で、荒地などの農村の土地を請け負いでき、土地請負法などの法律と国務機関の規定に従い、その土地請負権の譲渡、貸し出し、株式化、抵当権化、などの方式で流通できる。(この部分は、農村の土地の市場化の一歩。農民が自分で請け負い、開墾した土地に関しては流通可能。土地請負法にもありますが

自分の興味のあるところを中心に、抜き出してみました。一応、参考まで。

■これが全人代審議、どういじられて、票決でどれだけ反対票や棄権票がでるかが、みものです。

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「中国で物権法ができたら??その4」への5件のフィードバック

  1. 法治の執行が人治に依る、というのが問題の根源だから、条文を弄くっても詮無いことですね。
    と言って、指導者層にカリスマ性(の如きもの)、即ち“時に法治を超えて、身を賭して果断に行動する”風でなければ、国民の畏怖(今の中国では、これが無ければ、無学、無教養な大衆は率いれないだろう)を得ることは出来ない。
    李登輝さんが、“(70年代前半頃)多党制やむなしと考えたのは、国民党一党独裁では、衣食住が足り、市民意識を持ち始めた国民の要求に対応しきれない。 安定を維持するためにこそ、複数政党制が必要と認識したから”という趣旨の発言をされていた。 
    “(徳を体現する)善き君主風人物を戴く(そんなの居ねぇか)共和制”みたいなのが今の中国には相応しいのかも知れないですね。

  2.  こんなに詳しく中国の物権法について書けるのは、日本人では福島さんぐらいでしょう。ますます高嶺の花になっちゃうなあ。

  3. To riceshowerさん
     政治改革論議で最近、「台湾モデル」という言葉を聞きますが、①?経国とか李登輝さんとか、ああいうカリスマ・強人が登場しないと、むつかしそうですね。鄧小平ならやれたかもしれないが、やらなかったし。

  4. To ブリオッシュ或いは出べその親方さん
     そんなことないですよ。でも、こだわりはじめたら、ちゃんと最後(制定)までみとどけようと。

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