中国の北朝鮮ミサイル報道

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■ごぶさたしてます。ちょっと間があいてしまったが、北朝鮮ミサイル問題などへの中国報道などの分析がほしいというリクエストをいただいたので、本日エントリーは中朝のビミョーな関係を考察したい。

 

 

■トラを贈って、トラぬタヌキの皮算用?

ミサイルより

極東アジアのパワーバランス変化の方が脅威なのだ

 

 

■4月5日の北朝鮮ミサイル発射問題に対して国連安保理は非難の議長声明を採択した。以前の日本の実力なら、きっと国連安保理の対北朝鮮対応も、プレスコミュニケ止まりではなかったかと思う。それを全会一致で議長声明にもっていけたのは、それなりに、日本の存在感もみとめられ、中国様とも「討価還価」(駆け引き)ができた結果ではないだろうか。

 

 

■でも、これで良かった良かった、とはならない。これからが、きっと大変。北朝鮮の瀬戸際外交は米国を直接交渉に引きずり込む捨て身の戦術というのがもっぱらの見方だが、捨て身だけにヘタを打てば、暴走だってありうる。そんななかで中国は6カ国協議の枠組み維持を強く説いている。非難の議長声明にお怒りの北朝鮮は6カ国協議からの離脱宣言をしているが、上海・復旦大学コリア研究センターの研究員で、ソウル在住の長安大学講師をつとめている詹德斌氏が中国紙上で披露していたヨミでは、米朝とも早晩6カ国協議に回帰してくるという。

 

 

 

■たとえ、北朝鮮が米国との直接交渉を臨んでいたとしても、米国のオバマ政権には現在、北朝鮮と直接交渉ができるほどの余裕はない。ポスト金正日政権への影響力をにらむ中国としても、6カ国協議の建前で米朝交渉にコミットし続けたいわけだし。

 

 

 

■というわけだから?中国様は国際社会の対北朝鮮非難ムードが盛り上がるなかの4月8日、平壌の機嫌をとるような特別なプレゼントをした。国家一級保護動物の東北トラ3頭とベンガルトラ2頭。5頭のトラである。実は今年、中朝国交樹立60周年の中朝友好年なのである。中国はむかしからパンダ外交というのを展開しているが、東北トラは国内生存数500頭以下で、パンダより稀少な絶滅危惧種。それを国外に出すのは、これが初めてだという。平壌は、このトラを大切に育て繁殖し、中朝の血で固めた友誼の証として、次世代に伝えていくとか。

 

 

■しかし、人民すら飢えている北朝鮮が東北トラを育て繁殖できるのかね。これは私の意見ではなく、このネット・ニュースについている掲示板に書き込みされた中国人ネットユーザーの声。「いや、捕まえた脱北者を食わせればいいのさ」とするどいつっこみが入っているあたり、さすが中国人、兄弟の本質をよく理解している。「金皇帝(金正日)に、トラの××(精力剤)をのんでもらいあと30年君臨してもらうのだ」なんていう書き込みもあったが、将軍さまならやりかねんかも…。東北トラ危うし!

 

 

■印象深い書き込みにこういうのもあった。「これは寓意だ。5頭のトラは、6カ国協議の北朝鮮以外の5カ国を象徴している」。つまり中国から6カ国協議に回帰せよ、という威嚇のメッセージが込められているという。案外、的を射ているかもと思った。

 

 

 

■さて、中国が今回の北朝鮮のミサイル発射という行為をどう報道しているか。さくっとみてみる。

 

 

■「日本が海上におちた北朝鮮のロケット・ブースターを探すのは、軍事的挑発だ、と北朝鮮は激怒」(新華社&中国新聞4月8日)

 

「朝鮮公式メディアによると、朝鮮政府は8日、日本政府に対し、北朝鮮が発射したロケットの残骸を捜索するな、と警告した。

報道によると、朝鮮軍当局は、日本が軍を派遣しロケットの分離部分を捜索することは、許しがたい挑発であり、間諜行為であると非難した」

 

 

 ■「米日の恫喝にもかかわらず、北朝鮮は衛星発射。東京は扇動的報道」(中国新聞4月8日)

「たびかさなる米日の恫喝にもかかわらず、5日、北朝鮮は衛星を発射した。(中略)朝鮮が衛星を発射したとき、東京は大騒ぎして扇動的報道をして、大敵に臨むがことく、迎撃計画の準備までした。日本は三隻のイージス艦を日本海上に派遣するのみならず、太平洋上でミサイルを迎撃するためのパック3型システムに朝鮮の‘ミサイル’迎撃に備えて配置させた。結果としては朝鮮が発射したのは衛星であり、日本は迎撃しなかった」

 

 

 ■「中国は6カ国協議継続にマイナス影響を与える安保理新決議には明確に反対なのだ」(東方早報4月9日)

 

「朝鮮はついに沈黙をやぶった。朝鮮の駐国連副代表・朴徳勲は7日、もし安保理が朝鮮の衛星発射問題になんらかの措置をとれば、朝鮮側としても強い反応を起こすであろう、と述べた。安保理がいかなるステップをとっても、それは朝鮮の主権侵害である、という」

 

「安保理の抗議はこう着状態におちいっており、日中双方の立場の食い違いは深刻であると日本メディアは報じている」

「朴副代表は、衛星発射活動への批判を非民主、不公平だと認識。どの国にも宇宙を平和利用の権利をはく奪することはできない、としている。これは一個の衛星である。誰だって衛星とミサイルの区別ぐらいできると、朴はいう」

 

「ロイター通信によると米国は必ずしも日本と統一歩調ではない。日本は安保理で孤立においちる可能性がある」

 

「米、英、仏は妥協案として議長声明を検討。その他の国はプレスコミュニケでいいとしている。」

 

「中国側は、6カ国協議にマイナス影響を与える決議には明確に反対している」

 

「ロシア外相は、朝鮮の発射活動を脅威として、制裁を行うことに反対だとしている。彼がいうには、この種の制裁はマイナス影響を起こすだけだ。ロシアは発射活動に重大な関心を示し、早く朝鮮が6カ国協議に戻ることを希望。ロシアは目下、まさに関係筋と積極的な協力を行う立場にある」

 

「韓国では、金泳三元相当が、朝鮮ロケット発射の資金は金大注と盧泰愚時代の対北支援からでていると批判した。またある韓国歌手は自身のホームページで、朝鮮ロケット発射を祝賀する歌を発表。朝鮮人民民主主義共和国が合法的主権と国際的合法プロセスによってロケット発射に成功した。同じ民族としてこれを祝賀する。核を保有することは弱小国家が帝国主義侵略に抵抗する最も効果的唯一の方法。(中略)韓国も主権をもって、核兵器と長距離ミサイルを保有すべきだ、と声をあげている」

 

 

■と、以上のように、中国の報道は当初、日本ひとりでさわぎすぎ~、というニュアンスがにじんでいる。 で、あくまで北朝鮮はロケット発射、宇宙の平和利用の権利みとめてやれよ、という建前の立場を貫いている。

 

 

■ただ日本が中国のメンツを尊重するかたちで議長声明容認に傾いたあとの報道は、環球時報(13日)が「朝鮮が周囲の忠告をきかずに朝鮮半島の核問題解決の基本線を踏みにじる行為を繰り返すなら巨大な代価を支払うだろう」といった厳しい表現の牽制にでた。

 

 

■ちなみに知識人のネット投稿サイトなどをみると、以下にあげるような論調が目につく。

 

 

ブロガー論評:フェニックスネット

「朝鮮の衛星発射で、得したのは誰?」→朝鮮と米国だ。

朝鮮は、国際社会の注意力を集めるのに成功し、ロケットとミサイルの技術力の高さを証明し、性能アップのための大胆なテストを実施できた。朝鮮産兵器の宣伝を国際社会にタダでしてもらい、小国が大国をもてあそぶ国際関係モデルも同時に樹立した。

 次に大きな受益者は米国の軍事産業界。北朝鮮のミサイル脅威とイランのミサイル脅威をリンクして大量破壊兵器拡散のおそれに油と酢を加えて喧伝し、米国と心を同じくして協力する同盟国に、さらなる軍事予算と道義的支持をとりつけるのだ」。

 

ブロガー論評2:フェニックスネット

 「朝鮮のロケット発射が平和的方法で解決したから、これで多くの人は東海は枕を高くしてねむれると思っているのだろうが、実は大間違い。日本は、朝鮮のロケット発射に対し強烈に反抗し、武力で威嚇しようとしたが、結局なにもできなかった。これには2つ理由があって、ひとつは米国の態度。米国は発射数日前に、朝鮮のロケット発射に武力行動をとらないと発表した。(中略)しかし、われわれは、ある事実をはっきりさせねばならない。つまり、日本の軍拡路線への障害はすでにとりはらわれており、未来のアジア地区のパワーバランスが本質的に変革しようとしているのだ!」

 「日本は本来、軍国主義思想の濃厚な国家であり、特に経済発展が一定程度に到達したあとは、膨張を開始しはじめた。しかし領土は小さいため先鋭的な矛盾を形勢している。日本に領土拡張の機会をあたえたのは米国の政策であり、米国は自らの覇権

的地位のために、手をつくして新興国の力量と国家台頭意識を牽制。しかし、米国自身が衰退のタームに入り、他国を利用して自己の目的を完成する必要があり、日本はその機会に新たな拡張機会を得たのである」

 

「中国は目下、平和であるが、客観的事実としては、国家の安全保障の準備をしっかりせねばならない。軍備拡張競争はやらなければ、中国は百年前の轍をふむであろう」

 

「中国は目下、海上の力を強化し、すくなくとも南海(南シナ海)のシーレーンのコントロールと東海(東シナ海)の領土的安全を保障せねばならない。同時に、客観的に敵(日本のこと?)とわれわれの力量を対比し、わが国の領土および周辺の制空権を確保して国家防衛戦略の安全をまもらねばならない」

 

 

 

■一方、掲示板などにみられる中国人読者の反応はというと。

 

・みんな死んでまえ、小日本!ぶりっこ!

・日本が衛星の残骸をさがしたら、ミサイルだったとわかるかもしれない。理由はあるんだ

・旧ソ連のガキの口先だけ脅しなんて、屁みたいなもんだ。

・どうして朝鮮がベーシックな衛星の発射をしたらダメなんだ。国際社会はすべて支持すべきだ。まさか(宇宙開発が)先着順っていうわけじゃないだろ。すべての民族はみなたゆまぬ努力をすべし。朝鮮を支持するぞ。

・ミサイルの残骸をさがすのって、罪かよ?

・日本人って憎たらしい!

・我々は過去をわすれてはならじ。技術も人も貧しくとも、志は貧しくなってはならない。

・もし日米韓が連合してきたら、最後におそれるのはわれわれ中国だ。もっか、かれらは、中国の周辺の小国家をねらっている。目をはっきりさませ。われら中国と朝鮮は鴨緑江を一本へだたところにあることをわすれるな。われらの立場は朝鮮側にあるべきで、それこそ我らの大門なのだ。門がなくなれば、結果は考えるまでもない!

 

 

 

 

 

■こういう中国におけるいろんな角度の発言をならべてみると、今回の北朝鮮の行為により、日本の〝軍国主義〝が拡張するのでないか、極東アジアの勢力図が変わる始まりではないか、という中国の懸念は依然強い。残念ながら、日本国内からみると、北朝鮮ミサイルの脅威を利用して麻生政権の求心力を高めたい考えや、安全保障面で、自民党が民主党より危機意識が高いことをアピールするのに利用したいというスケールの小さな思惑はすけてみえるけど、これを機に本気で防衛予算を増やして警戒衛星を打ち上げて防衛強化だ、なんて考えているようには、まだとても思えないから、中国にそれは杞憂だと言ってあげたい。

 

 

■中国としては、6カ国協議に半島の非核化を進める機能などないことは百も承知である。しかし、6カ国協議の目的は、すでに半島の非核化以外のところにでてきているので、これでいいのだ。はっきりいって、北朝鮮が核をもっても、中国が脅威にさらされることはない。中国の保有している核兵器の方がよっぽど多くて性能がいい。米国も脅威をまだ感じていない。ミサイル実験は失敗だった。米国に届かない。小型核弾頭もできてなさそうだし、まだ余裕。韓国にいたっては南北が統一されたらウリナラも核保有国ニダ、とか思っているかもしれない?北朝鮮のミサイルを真剣に脅威とおびえているのは6カ国のうちおそらく日本だけだろう。

 

 

■それより、今の北朝鮮の体制が早晩崩壊したのち、親米政権ができるか親中政権ができるか、あるいは親露政権ができるか、南北統一するのか。米中露の頭の中は、ミサイルの脅威よりそっちの方ではないか。おそらくいろんな裏工作がそこかしこで始動していて、スパイ大作戦みたいなこともしているのだろうと勝手に空想。そういう状況で、中国としては、日本が、安保理違反だ!非難決議ださわぐと、「KYなやつ~、今はそれどころじゃねぇよ」と言いたいところかもしれない。しかし、あんまり日本をないがしろにして、じゃあ日本も防衛強化だ核武装だとか言い出されてはこまるから、いちおう、議長声明で手を打ってみたよ、と。

 

 

■将軍さまがいつお亡くなりになってもおかしくない健康状態で、北朝鮮の政権交代の行方を占う微妙な時期に迎えた中朝友好年。北朝鮮の精一杯の瀬戸際ミサイル外交花火に対して、中国としては稀少なトラ5頭を贈って、トラぬタヌキの皮算用をしているのかもしれない。あ、ちょっとくるしいオチだ。

 

 

 

 

 

「中国の北朝鮮ミサイル報道」への3件のフィードバック

  1. >結果としては朝鮮が発射したのは衛星であり、日本は迎撃しなかった
    中国新聞の論調なんでしょうけど、衛星かどうかは確証が取れていないし
    衛星だとしても、ブースターあるいは何らかの破片が日本領土に落下して
    危害があると判断したなら迎撃したでしょう。
    >これで多くの人は東海は枕を高くしてねむれると思っているのだろうが
    これは意味がわかりません。
    東海→日本海→日本という感じで誤訳が起きたんでしょうか?
    >中国は目下、海上の力を強化し、
    中国は航空母艦を建造しようとしていますね。
    そんな国に日本はODAをする必要があるんでしょうか?

  2. >朝鮮人民民主主義共和国が合法的主権と国際的合法プロセスによってロケット発射に成功した。同じ民族としてこれを祝賀する。核を保有することは弱小国家が帝国主義侵略に抵抗する最も効果的唯一の方法。(中略)韓国も主権をもって、核兵器と長距離ミサイルを保有すべきだ、と声をあげている……
     7月に予定されている韓国の衛星打上げに対してもこの観点を忘れてはいけない。
     日本政府の発言が、合理性を失って、支離滅裂になっているのが恐ろしい。しかもそれに気がついていない。

  3. 『はっきりいって、北朝鮮が核をもっても、中国が脅威にさらされることはない』
     これ、そうなんでしょうか。ノドンの射程は北京に届くのですが。中国のほうが優勢な戦力を持っていたとしても、初撃を防げるわけでもありません。アメリカが北に融和的な態度をとるのは、敵中に味方を作ると考えると理屈にあいます。
     中国が、北に親米政権ができるかどうか気にしているのはその通りでしょうけど、将軍様万歳のあとではなく、明日にもそうならないとは限らないから、対応に苦慮している、気がします。
     今だって、別に親中ではなく、自己中なんですが。

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