■菊地凛子さんの熱演で話題の「バベル」(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督)DVDを先日買った。え??中国では、もううっているの??と、驚きの方、中国では、ありとあらゆる海賊版DVDがうっている。いちおう、映画好きとして、映画界振興を願うものとして、海賊版DVDは基本的に買わない。捜しても、取り寄せても、正規版を買う努力をしている。が、ちょうど産経新聞で連載していた知財権企画「知はうごく」を読んで、ちょっと北京の海賊版DVDってどんなものか、調べてみようと思っいたったのだ。今回買った海賊版DVDの映画は、日本に帰ったときにちゃんと正規版買うから、許してください。
■それにしても、北京の海賊版DVDの質は最近、悪くなる一方だ。このほど買った海賊版は「バベル」「デス・ノート1,2」「日本沈没」「男たちの大和」。これらは一枚5元の安さで、夕方の地下鉄駅構内とか、路上の屋台で売っている。
■たとえば、「デス・ノート」。表紙に主演・赤井英和、と書いてある。「デス・ノート」の主演ってなにわのロッキーだったけ??と思いつつみてみる。なんか画像がへん・・って、これってひょっとして、日本のテレビ放送を録画したものか??コマーシャルにあたるところがぶちぶちきれて、ぜんぜんストーリーがつづいていない。しかも、字幕がめちゃくちゃ。尼亜(ニア)って名前になっているけれど、この人ってLって人じゃないの??それに、最後まで赤井英和、でてこないよ。
■「デス・ノート2 ラストネーム」になると、いきなり、画面に「売るな、買うな、このばかちん!!(日本語)」の反海賊版キャンペーン広告とみられる文字が現れ、放映中、ずっとその文字が消えない。しかも、字幕が、すごい。「むかし、むかし、あるところにお姉さんが、金のボールであそんでいました…」みたいな、映画と関係ないデタラメな昔話がながれている。これって、日本人が、海賊版を買う中国人をからかって造った日本製海賊版か??
■「バベル」もひどかった。日本語字幕は、日本語をすこしかじった中国人学生がつくったのだろう。「安全の銃は、日本人が男にあげます」って、意味わかんねぇ~。「コミュニケーションの不備がすべての不幸の源」という映画のメーンテーマが、意図せぬところで身にしみる。
■「日本沈没」、カバーに2006年、日本で大ヒット、主演:草なぎ剛とか書いているくせに、みてみると、すっごーく若い、いしだあゆみ、藤岡弘…。1975年版かよ。これはこれで大好きなんだが。
■「男たちの大和」、最初、字幕無しでみた私は号泣。これは、ぜひ中国人に見せたい映画、これをみれば、日本人の戦争観がよくわかるはずと思い、中国語の字幕付きで、一緒にみると、これも字幕がむちゃくちゃ。「死んだらいけん!!」という涙をさそうセリフの中国語字幕が「ご飯たべなさい」とかに変わっている。しかも、恋人関係が兄と妹になっていたり、登場人物の名前が場面ごとにかわっていたり、ストーリーが追えないよぉ。中国人の友人が「これって、泣ける映画?」ときょとんとしていた。
■このほかにも、どこかの国の船がただ沈むニュース映像が延々と流れるだけのディカオプリオ主演「タイタニック」DVDだの、「海賊版買うな、海賊版買うな」とえんえんと字幕が流れる「ロード・オブ・ザ・リング」DVDや、ロシア語吹き替え、ハングル字幕の、私にはぜんぜん意味がわからなかったチャン・ツィイー主演「SAYURI」DVDなど、買った人をおちょくるすばらしい海賊版DVDがあった。
■北京では今、海賊版DVDは急激に減っている。五輪前の取締り強化期間というだけでない。海賊版に市場をくわれないために、正規版の値下げ合戦がはじまったからだ。とくに中国映画は、新作正規版でも15元。ちょっと昔の映画となると10元だ。しかも、劇場公開後2週間もたたないうちに、メーキングやインタビュー付きのスペシャルエディション正規版がちまたに並び、本当の映画好きは、中国人でも、画質のわるい海賊版をほとんど買わなくなった。
■ただ、外国映画は別だ。とくに米国映画と日本映画は、性表現と暴力、政治性で検閲にひっかかるものが多いのと、昨今の国内文化産業保護政策のため、進出が堰き止められていることもあって、ほとんど映画館や正規版でみることができない。だから、日本映画を中国人がみようと思えば、インターネットの違法ダウンロードか、海賊版しかない。もちろん、海賊版を肯定するつもりはない。ただ、海賊版以外に、海外の映画文化に触れることができない状況が中国にはまだある。
■先日、日中合作映画に出演された俳優氏に海賊版についてうかがったところ、「俳優は映画DVDが売れようが売れまいが、ギャラは変わらないし、海賊版でもいいから、より多くの人にみてほしいという気持ちはある」と語っていた。映画はいろんな人が一緒になってつくって、いろんな思いがこもっている。著作権を守ることは大切だが、こと映画に関していえば、商業利益を追求するだけでなく、いかに多くの人が享受できるか、ということも考えなくてはならないのではないか。だって、人の生き方や思想、国際理解や世界観にダイレクトに影響する、そういうものだから。
■韓国は自国映画、ドラマを中国に流布させることが、中韓外交に役立つとみて、海賊版DVDを容認する姿勢を見せ、実際それに成功した。DVD売り上げは海賊版にくわれても、韓流ブームで、韓国スターの中国国内CM起用だとかで、むしろ収支面でも、文化交流、理解としての面でもプラス効果の方が大きかった、とみる人が多い。
■「海賊版取締り強化」の結果、地下に潜った海賊版は、今回紹介したもののように、それはそれは質の悪い、作品を誤解させるしろものが目立つ。。作品が誤解されるということは、作品の背景にあるその国の文化も誤解されるおそれがある。それくらいなら、外国映画も中国国産DVDのように、正規版を地元の生活水準にあわせて安価におさえたり、韓国みたいに海賊版が出てもいいか、くらいの甘さがあった方がいいかもしれない。実際に中国で海賊版がなくなることはあり得ないし、もし海賊版が完全に駆逐されるとしたら、それは中国の映画文化が砂漠化するということだろう。
■今年から日中関係が好転すると、これまで堰き止められてきた、日本映画の中国市場進出の機会も増えてくるかもしれない。そのときは、海賊版化されるのをいかに防ぐかだけでなく、中国でいかに多くの人にその文化的影響力を正しく享受してもらえるかを考えてほしい、と思ったのである。
福島香織さま
鑑賞おつかれさまでした。
読みながら、ほとんどギャグのような海賊版DVDの実態に、
思わず笑ってしまいました。(特に『タイタニック』と「お姉さんが
金のボールで……」の字幕はツボでした。(笑))
それにしても、中国のような国では、日本の文化を正しく伝えるためには
著作権の問題にある程度目をつむって、草の根的に「教化」していく必要も
あるのかな、と考えさせられました。
有名俳優のヌケヌケとした言い訳には、ビートたけしさんとかの「芸人は共産党でも北朝鮮でも、そこで笑いを取ってお金がもらえれば右も左もないんだよ」という言葉をさしあげましょうね。海賊版であろうが検閲されようが、ましてや支那共産党の反日キャンペーンへの加担であろうがお金の貰える仕事であればいかようにも芸を売りますという“正しい芸の道”を変な正義感に置き換えられるのはハナモチナラナイですねぇ。最も支那へゼニをばら撒いて合作するような作品がマトモなメッセージを発信しているとはとうてい思えませんですね。
そういえば、以前、A社の記者は晒されてましたよ(笑)。
http://www.wafu.ne.jp/~gori/diary3/200503282256.html
福島様、お邪魔します。
「映画DVDが売れようが売れまいが、ギャラは変わらないからね」
とんでもない方もいらっしゃるようですね。Hollywoodの一流どころだと出演料に「配給金額の×%」ってオプションもあったりしますしね。(しかし、情けない俳優さんだこと。泣ける話ですね)
To abaregumaさん
著作権保護のもんだいよりも、むちゃくちゃなDVDでいい映画が誤解されてしまうことの方が恐いですよ。
To nhac-toyotaさん
あれ?私の書き方がわるかったですね。つまり、映画人の中には、著作権にこだわるより、より多くの人に見てもらうことの方に意義を感じてらっしゃる方がが結構いるということをいいたかったのですが。ポップス歌手などにも、そういう考えの方は結構いらっしゃいます。
To ニッポニア・ニッポンさん
はは、今度ばかりは許してください。取材もかねているので。イニャリトゥ監督は敬愛しているので、日本で正規DVDが出たら絶対買いますよ。「男たちの大和」はぜひ、完璧な中国翻訳のついた正規版出してほしいですね。これ、ほんとうに中国人にみせたいです。
To starbeastさん
まあ、ギャラうんぬんのくだりは、一種の言葉のあやだと思います。ようは、中国のような国で、商業的利益より、映画を通して文化交流を深める方に意義を感じる、ということなのだと、思います。
香織さんもこれからはどんなに辛いことがあっても
自分自身に「ご飯たべなさい」と言って頑張って下
さいね。僕もそうします。
ところで、5元とは日本では百円ぐらいの感覚
ですか。日本では廉価版で内容がまともなのが
五百円ほどで売ってますから。
やっぱり日本はいい国だ。
福島さん。私が中国を去ってまだ数ヶ月、そんなに変わったとしたら激変です。北京だけかもしれませんが…。
しかし!正規版が15元と言うのも絶対許せませんね。確か、日本の業界団体が中国からの並行輸入を違法とするように政府に圧力をかけていましたよね。
中国に屈したマイクロソフトみたいで、日本の値段は何なんだ!と思ってしまいます。これじゃあ正直者がバカを見るです。
日本では高くて買えない、買うより借りてという現状が、某団体の利益が増え・販売が減るというスパイラルに陥ってる。
儲け主義の中国には日本の某団体のようなのが見事に噛み合うかと思うのですが・・・
(´・ω・)日本の値段にしたら殆ど買える人いないのか・・・
To sakuratouさん
昨年秋ごろからの変化、ときいていますが。東方広場の下のDVD CD店では、新作DVDの値段は15元から20元ですね。人気度によります。定価ではなく店の裁量による値段かも。国貿の地下のスーパーでは同じDVDが30元で売っていたりしますから。
普段、海賊版を買わない私が、海賊版を売っている穴場を知らないだけかもしれませんが、いわゆる路上売りは激変しました。知人によれば、やはり以前、海賊版DVDを売っていた店が無くなっていたとか、表に置かなくなった、という話を聞くので、やはり取締りが厳しいのだと思います。まあ、北京五輪前だけだ、という人もいますが。
中国の生活水準を考えれば、正規版15~20元というのは自称中流(つまり家庭月収5000元以上2万元以下)の人が、買えるぎりぎりのセンでしょう。制作側には非常にイタイ値段設定でしょうが、これ以上の値段だと客が海賊版に流れてしまいます。外国映画は、これでは無理ですねぇ。中国でそんなに安くうっておいて、自国民でその何倍もの値段で買わせるといのもね。ただ、正規版が進出しなくても、海賊版は出るわけで、それなら、利益度外視でも、中国で正規版をうって、文化交流、国際理解の助けとした方がいい、と韓国のやり方をまねすべきだ、という意見を業界の人からきいたことがあります。
To tomochan2002さん
5元は70円以下ですね。でも、すごく質悪いですよ。画像も、音も。字幕は学生にただでやらせているらしいです。貴重な外国映画を見せてやるかわりに、字幕つけろ、みたいな。誰もチェックしませんから、学生もめちゃくちゃつけるわけですよ。私はやはり好きな映画を海賊版で買う気しません。発禁映画や、中国上映にさいして著しくカットされた、あるいはどこどこのシーンが問題になって中国上映が許可されなかったというような、ニュース性があり、どうしても海賊版で見なければ記事が書けないような映画にかぎって、買うことはありますが。
日本のDVDは質いいですよ。字幕もほぼ完璧ですしね。
To にゃーさん
日本ではDVDは買うより、借りるが主流みたいですね。中国では、農村などにいけば、レンタルVCD店がまだかろうじて存在します。
何度もスミマセンがチョット、公の場で嘘をつくことに対して恥ずかしいとかいけないことだとか罪の意識が持てる欧米や日本の文化圏と、そんなことはなんとも思わない支那人と合作するということ。そこに引っかかり続けます。「海賊版でもいいから見てほしい」出演者で“良い”という製作側に、ある種の意図を感じてしまいます。著作権なぞ屁とも思わない支那共産党の政治的背景に通じませんでしょうか。
福島香織様:sankei.co.jpの記事
《中国、文革以来の一斉発禁 作家らネット上で抵抗》
http://www.sankei.co.jp/kokusai/china/070204/chn070204000.htm
拝見しました。こういう記事をどんどん書いて頂きたいと思います。
福島香織様
中国の俳優が「どうせギャラは決まっているのだから、ニセモノのDVDが出回っても自分の収入に関係ない」といっているそうですが、製作者や監督はどうなのでしょうか。俳優はともかく製作者は監督はやはり映画館の上映料やDVDの売り上げが収入にかかわってくるのでは。私も日本の兄弟から送ってもらったものやアマゾンドットコムで買った中国映画のほかにカナダで買った中国映画のDVDを持っていますが、中国人に正規のDVDを売ったり買うという気は全然ないようです。警察もハリウッド製のニセモノが出回ればすぐに手入れしますが日本、中国、韓国のニセモノは取り締まる気はないようです。
最近、張芸謀監督などはハリウッド進出で外国の映画会社と組むケースが増えているのは中国で作ってもニセモノがすぐ出回って収入に結びつかないからではないでしょうか。
どういうわけか、日本で高い評価を得ている中国映画でカナダで販売されているものは日本で配給されているものの正規のDVDからの海賊版が多く、DVDのジャケットも正規のジャケットのコピーと思えないような出来の良い(?!?!)ものもありますが、中にはいい加減なものもあり、「活きる」のジャケットなど「原作は、現代中国む代表すゐ作家コィネヲの大べー「活着...」などと何を言っているのか分からないものもあります。
To mapotofuさん
ある日本人監督、プロデューサーの方は、映画の商業的利益より、中国における文化的インパクトや、中国の映画人と交わることで新しい感性を生み出すことを重視されてらっしゃいました。海賊版問題は、中国においては社会・経済水準、政治的な表現、言論統制問題と深く関わり、たんなる取締り強化や短時間のモラル教育ではいかんともしがたい状況にあります。日本映画を中国人に違法に見られるくらいなら、見てほしくない、と思うか、海賊版でもいいから、日本映画を好きになってほしい、と思うかは、個人差が大きいのではないでしょうか。中国で映画をとりたい、中国と合作映画をとりたいと思う人は、中国の若い映画人がみな、海賊版を見て映画の世界を志すようになったという状況を知っているので、海賊版を絶対悪のようには思っていないみたいです。
To nhac-toyotaさん
うーん、単に純粋に親中派で、日中友好?を信じてらっしゃるだけだと思うんですが。
To aqua2020さん
ありがとうございます。これからも、応援よろしくお願いします。
福島香織さま、コメントありがとうございました。(びっくりしました)
>“日中友好?を信じてらっしゃる”・・そうなのかも知れませんね。気づいていないというか気づく環境にないのかな~と想像するに、そういった職業だよな~と一人納得してしまいました。
マルコおいちゃんさんがおっしゃるように、“朝日が東から昇るように間違いないこと”と懸念いたします。いや、“朝日新聞が偏向しているように間違いないこと”でしたっけ? 春節も近づき、都市から田舎へ人民大移動前のざわつきが感じられる季節になったと想像いたします。
スレッドの本題からはずれますが、中国のこの応対については何か情報がありますでしょうか
http://www.sankei.co.jp/seiji/seikyoku/070206/skk070206002.htm
うがった、見方かもしれませんが、これはおそらく、これまで中国の「調査船」の行動を、多くの場合、日本政府は表沙汰にしてこなかったこと、それに対して中国も「調査船」の航行上の「技術的な問題」で言い訳をしてきましたが、日本政府が安倍政権になり、積極的に公表する方針に転換した事、それに対する中国の脊髄反射かなと考えますが。
衛星破壊実験が表沙汰になり、温家宝の訪日を控え、次回2プラス2も久間氏の放言問題で延期になっている現在のタイミングで、啖呵を切るメリットが中国にあるとは思えません。イラクで手一杯のアメリカと内政問題で手こずっている安倍政権の足許を見透かしている可能性もあるでしょう。
何か、対日政策をめぐり、何か新しい評定が出たのでしょうか?
To ohrakusaiさん
この方面に関しては、私は詳しくありません。ただ、妄想するに、東シナ海の調査船も衛星破壊も軍の行動で、たとえば中国外務省が行動の事前や直後に、その内容を知らされているかというと、知らされていないと思います。胡錦濤氏は中央軍事委員会のトップですが、唯一の文民出身。専門用語の飛び交う軍事委員会で、彼は話についていけず、十分な状況説明も受けられていない可能性があります。しかし、その一方で、胡錦濤氏は軍部の腐敗取締りに着手するなど、今までタブー視されてきた分野に思いっきり切り込んでおり、軍VS胡錦濤の対立が先鋭化しているのでは??などと想像を逞しくすることがあります。胡錦濤政権が、対日外交を極めて重視していることはまちがいないと思います。しかし、軍は、党や政府の外交政策などおかまいなく、自分たちの物差しで行動している。こういう状況を日本側も理解しているので、たとえば東シナ海のガス田の生産が始まっている(海洋石油は海軍の影響力下にある企業です)にもかかわらず、中国政府が公式発表でその事実を否定すれば、日本側はあまり深く追求せずに、中国政府の公式発表を受け入れるのだと思います。
ただ、中国政府が安倍政権を甘く見ている、というのは当たっている気がするなあ。胡錦濤氏にとっては、軍と駆け引きの方が、日本政府との駆け引きより、よっぽど神経を使い、慎重にやっているような気がします。