■普通に生活していると、北京は(少なくとも外国人や金持ちにとって)物価が安く、街並みは風情があり、人の生活が比較的おっとりとし、人情があって、なかなか暮らしやすそうな素敵な街にもみえるのだが、ほんのちょっとしたことで、水面下に隠れている不安定要素というか、暗部が浮上してくる。たとえば11日に発生した愛犬家デモ。農村で数万人規模の農民と警官の武力衝突が結構、発生していることを比べれば、数百人の愛犬家と警官のもみ合いなんて、かわいものかもしれないが、犬を飼うことのできる都市の比較的裕福な人たちですら、こんな風にエキサイトして当局に抵抗するのである。それはどういうわけだろう。
■犬も歩けばデモに出くわす!?
??五輪を控えた北京につのるストレス
(ちょっとこじつけぎみだが)
■ニュース自体は小さな事件(?)だ。飼い犬規制を厳格化した北京で11日、愛犬家ら数百人が北京動物園前で抗議集会を行い、警察がこれ阻止、抵抗する愛犬家十数人を連行するなどしたという。北京では先月から狂犬病予防徹底と愛犬家マナー向上のために、一斉「ヤミ犬狩り」を実施。未登録犬や狂犬病予防注射をしていない犬、こっそり市内で飼われている大型犬(市内では大型犬は禁止)は「ヤミ犬」としてびしばし強制収容された。これら強制収容犬が、ほっとけば屠殺される、ということで愛犬家(若い女性)がインターネットで「犬の屠殺反対の署名を集めよう」と呼びかけた。
■愛犬家(七割が若い女性)らは11日の午前11時ごろから、動物園前に集合。動物園に訪れる客に「屠殺反対」のビラを配り、「命を尊重し、動物を愛し、和諧社会実現を!」「犬を飼うことに罪はない。法律がおかしい」など書いた横断幕を掲げるなどして抗議した。中国では事前に許可のない集会は違法だ。当然警察が出動。土曜の動物園前は非常に混雑して抗議の愛犬家と客が入り交じり、また人目もあるので、さすがに「催涙弾で阻止」みたいな農村の抗議集会に対するような乱暴なことはしないが、それでも警察はシュプレヒコールをあげる愛犬家を力ずくで連行。ちょっとしたもみ合いもあったとか。これをみて、周囲の動物園参観客が「(拘束者を)放せ!放せ!」との大合唱。一時は一触即発、というくらい現場は緊迫したという。
■現場に居合わせた一部外国メディアは引っ張られ、こってりしぼられたとか。ちなみに私はこの日、郊外にいて、この約3時間にわたる騒動を見逃した。北京に帰ってきてから知人らに聞いた話である。
■さてこの騒動の背景である。まず、今年の狂犬病の急増である。10月だけで、全国で326人が狂犬病で死亡しており、これは感染症による死者の首位である。ちなみに2位が肺結核、3位がエイズ、4位がB型肝炎。狂犬病の発症例は1月から9月までの累計で2254人、前年同期比30%増だ。これはインドに次ぐ世界二番目の多さ。
■狂犬病とまでいかなくとも、人が犬にかまれる事件・事故が多く、北京で犬にかまれてけがをした人は今年、すでに11万人以上。つまり1カ月に1万人以上が犬にかまれたとして病院にやってきて、狂犬病ワクチンを打っているという。よく犬が人をかんでもニュースにならない、人が犬をかめばニュースになる、などと言うが、さすがにこれだけ多いと「犬が人をかむ事件」は今や北京の大社会問題である。このほか、犬の糞便や鳴き声などのトラブルを含めた犬問題を中国語で「狗患」とよぶが、最近は「狗患」という言葉がメディアに登場しない日がないほど深刻だ。
■なぜ、狗患が急増しているのか。市民の生活水準の向上にともない、ペットブームが起きており、飼い犬が急増しているからである。いまや北京のペット市場は12億元規模。ペットの数は100万匹以上(犬以外も含む)そうだ。で飼い犬の登録数は今年10月までに累計55万匹以上で前年末より20%増。しかし、ペットブーム拡大のスピードに、愛犬家としての責任感やマナーがついてゆかず、しつけの行き届いていない大型犬を平気でせまいアパートや住宅密集地で飼ったり、青空動物市で子供にせがまれるまま飼ってきた小犬に、なんの予防注射もせず、公共の場で放し飼いにしている様なケースもしばしば目にする。
■だから、北京市がヤミ犬の取締り強化を行うのも一応の道理があるのだ。きちんと管理できないヤツが犬を飼うな。ましてやあと2年たらずで五輪という大イベントを控えている北京。人をかむような犬を放置してはおけまい。ただ、
それは飼い主の問題であり、飼い主の責任を追及すべきで、犬を収容し、あまつさえ殺す必要はない、というのが愛犬家のいいぶんである。そもそも、北京市の飼い犬条例の規定自体が、へんである、と言う声もある。
■たとえば、初年1000元、二年めから年間500元の登録料をきちんと払っている登録犬でも、強制収容されることがある。北京では市中心部で大型犬を飼ってはいけないことになっているが、その大型犬の規準が体高35センチ以上と規定されているからだ。つまり、自分の飼っている犬が、気がつけば、大きくなって、体高35センチ以上になると、強制収容され、屠殺されてしまう。この35センチが愛犬の生死をわける分水嶺なわけだ。
■あるひ突然、市当局の人がきて、犬を引っ張っていくのだという。(これは、近所の人がタレコミすることが多いらしい)。で、飼い主が、いろいろ弁解して、連れて行かないでと泣いてすがっても、無情にも犬は連れてゆかれる。これは実際に、犬を奪われた人から聞いた話である。35センチなんて、大型犬ともいえない。しつけの行き届いた犬でも、問答無用で力ずくで奪われていく。で、いったん連れて行かれてしまうと、その犬を取り戻すことは至難のわざ。どこに収容されているかわからないからだ。
■私も犬はきらいではないから、中国当局のゆきすぎた犬狩りには、ときどき怒りをおぼえる。例えば今年8月、雲南省牟定県で狂犬病対策で県内のほとんどの犬、5万匹が抹殺されたあの事件のような問答無用の殺戮は、すくなくとも犬を飼ったことのある人には耐えられない事件だったろう。
■私は今回、北京で発生したこの騒動の本当の背景は、ペットブームの急激な拡大だの、飼い主のマナー不足、といった問題だけではすまないと思う。また、英国ばりの動物愛護精神が中国にも生まれつつある、というのとも違うと思う。
■犬はふつうに愛情いっぱいに育てられていれば、あまり人をかまない。犬が人をかむ事件が急増しているのは、それだけ、怯えているか、ストレスが溜まっている犬が増えているということだ。そして、そんな風に、ストレスいっぱいの犬を育ててしまう、北京市民も、ストレスいっぱい、怯えているのではないだろうか。そのストレスの大もとは、いつ出くわすかわからない、権力の横暴である。
■ある日、突然再開発という名のもと、永年暮らしていた土地や家を取りあげられ、わずかばかりの金を渡され、どこかに行け、といわれる。ある日突然、国有企業の従業員の半分が自宅待機という名のもとでクビになる。ある日突然、かわいがっていた犬が連れて行かれ、屠殺される。
■コネがあれば、見逃されたり許されたりするのに、と思えば、それがたとえ法律に従った措置であっても、庶民の内心は不満がくすぶる。法律は、ちっとも庶民の権利を守ってくれず、庶民を管理し自由にさせないための金箍呪でしかない。そう思えば、法律遵守の気持ちも薄れる。法律やマナーを守らずに犬を飼ったり、車を運転したりする人が中国に多い理由のひとつは、庶民の法律に対する不信感ではないだろうか。
■だから、若い女性が、ネットで一声、呼びかけただけで数百人の愛犬家が動物園前に集合したのだ。法律違反の犬が悪いのではなく、法律が悪いのだ、という抗議に、多くの人が共感するわけだ。愛犬家を連行する警察にいかり、動物園参観客が愛犬家に同情して、警察の方が悪い、と思うのだ。これは「犬の権利擁護」「動物愛護」に見えて、実は人権の問題、権力が庶民の大切なものを法律とか政策とか、りっぱな建前で、無情に奪ってゆくことへの、抵抗なのだと私は感じている。
■失業中で、食い詰めて貧しい人たちだけでなく、犬を飼うような豊かな人たちも、こぎれいな若い女性も、何かのきっかけがあれば、こんな風に集団化し、当局がおかしい、法律がわるい、と声を上げ、警察とにらみあうことも辞さない。中国で、もっとも治安のよい(もっとも管理されている)北京でも、こんな現象が起こる、ということが、私は狂犬病発症例の上昇よりも、人をかむ犬の急増よりも、五輪開催にとっての不安定要素となるような気がするのだが、どうだろう。
http://epochtimes.com/gb/6/11/11/n1518264.htm
大紀元にデモの写真があります。
福島様 おはようございます。
トップを走る日本人マラソンランナーが野犬に咬まれて途中棄権になった場合、単なる偶然の事故なのか、中共の陰謀なのか、いろいろ憶測を呼びそうですね。
先日の広東省での農民反乱など、中国はどんどんおかしな方向へ進んでいて、しかも改善策がまったくおいついていないような状態ですが、この調子で事態が悪化していくと、北京オリンピックは開催できなくなるかもしれませんね。
中国の崩壊のほうが北朝鮮のそれより早かったなどという笑えない事態になる可能性もゼロではないような気にさせる事件です。
福島様
中国は大変な貿易黒字を出し(約2兆7900億円)、外貨準備高も1兆ドルを超えて世界一になりました。
しかし、普通の先進国のように内需を拡大しながら次の成長段階に移行する状況は生れないように思われます。
となれば、無限の人民への犠牲を要求する共産党に、どれぐらい中国人民は従っていく事ができるのだろう。
時間の問題のように思えますが、時間の問題は「何時か?」は不透明ですね。
ナルトさま:五輪のときは犬禁足令がでていることでしょう。北京は平和そうにみえて、ちょっとしたことが、庶民の不満の発露のきっかけとなるのが、なかなか恐いのです。
kikuti-zinn さま:経済と社会の矛盾を解決するには、荒療治ではありますが、やはり政治改革しかないのだと私はみています。とりあえず、胡錦濤政権後が、ひとつのターニングポイントかも。それまで、なんとかだましだまし、バランスをとっていくしかないみたいですね。
お久しぶりです、ぐっちです!!
登録したのでコメントができるようになりました。
馮小剛の映画『わが家の家は世界一』を思い出してしまいました。あの頃(2001年頃まで)の登録料は5,000RMBだったんですね。
北京ではこの時期になると、「犬鍋食べに行こう」と誘う朝鮮族の友人もいたので、まったく不思議な感じです。
ぐっちさん!おひさしぶりです。北京(今は東京?)カリスマブロガーまでお運び願えるとは、感謝感激です。細かいことですが、「わが家の犬は世界一」(カラ、マイドッグ)は路学長ですよ。グーヨウが主演ですが。北京は今も、犬鍋とコートを着た愛玩犬が共存する社会です。五輪のころには犬鍋も愛犬も街中から姿を消すのでは、とささやかれていますが。
福島さんお返事ありがとうございます。
馮小剛は製作総指揮でしたね、軽トラの運ちゃん役で出演してませんでした!?
ところで『夜宴』はコケちゃったと聞きましたが、いかがなものなんでしょうか?
文化系、エンタメ系のお話も楽しみにしております!!
ぐっちさん:馮小剛が制作総指揮だったんですか。どーりで馮小剛の香りがした映画だと思った。失礼いたしました(汗)。馮小剛、ちょい役ででてましたね。『夜宴』は凡作で、レビューを書く気もしませんでした。張芸某の「どーだオレって芸術家」といったナルシストぶりにもおよばず、ツイ・ハークの「わっけわからん!!でもツイ・ハークだから許す」吹っ飛び方にもおよばず。馮小剛には彼しか撮れないものを撮ってほしいです。
福島さん。
私はこの事件、中国の超格差社会を象徴する事件として受け止めました。都市部の先進国病と農村部の貧困問題が、同時に拡大している国は中国だけではないでしょうか。
私だったら、中国では猫以外のペットは禁止にしますが・・・。
その処分された大量の犬は、業者に売り飛ばされて犬鍋になったんですか?
犬鍋はお隣の韓国もオリンピックを機に制限されたと
聞きますが、中国もそれにならうのでしょう。
狂犬病はまだあるのですね。
格差社会はまだ広がる勢いで、社会体制の歪が
尚の事加速されそうです。
経済の好調さが一段落すると、一気に噴き出しそう。
政治体制は共産主義、経済は自由と両立は成り立つ
のでしょうか。
共産主義には汚職不正は付いて廻るようで
政府は躍起になっていますが、根は深くどうでしょう。
混沌とした情勢はしばらくは続きそうですね。
sakuratou さま:ご指摘、正しいと思います。知人にあとで聞いたところによりますと、今回強制収容された大型犬には、「チベットマスチフ」なども多かったとか。これは、自動車ぐらいの値段がする高価な犬で、北京の成金にとっては、ステイタスシンボル。今回の市当局への怒りは、家族の一員の犬を奪われた悲しみだけでなく、高級外車をちょっと目を離したすきにレッカーでもっていかれた腹立ちに近いものもあるやも知れません。きっとそういう高い犬は、屠殺されずに、どっかに転売されて、当局者のポケットをふくらませるんでしょうね。
koku さま:犬鍋の可能性もありますが、こっそり高価な大型犬は転売されたかもしれませんね。
kyamaga さま:五輪のときは犬料理を駆逐する、との意見は出ています。本当にできるかはさだかではありませんが。
福島香織 さま
ふむふむ、なるほど。まずペット業者に見せて、売れ残りは鍋屋にたたき売ると、資源の100%利用、Mottainaiの精神をいかんなく発揮ですね。
ところで、昨日TV番組で上村幸治(元毎日記者、中国支局、現獨協大学)氏が、最近の中国での対日方針を言ってました。BBSには日本を見直す書き込みが出てきて、安倍総理夫人のことも特集した(訪中の時のことかな)。反日活動家を公安が説教していた。など日中関係を修復する動きが目立ってきた。これからは普通の関係に移行していくだろうと。そのコーナーのタイトルっぽいのが「しっかりせんか愛国青年」w。金と技術の欲しい中国政府は反日から和諧へ移行しつつある。
そんな感じですか?
赤犬は美味しいと聞いたことがありますが
経験者はいますか?
子どもの頃、田舎の青年団が悪さをする赤犬を
捕まえて食べたそうですが美味かったと聞きました。
私は食べる気にはなりませんが。
告白します。
私は赤犬を食べました。
韓国で食べたのです。「保身湯」と書くのでしょう(ソウルの黒田支局長に聞いてください)がポーシンタンと発音します。
食べ方はすきやき風に煮てセリをたくさん入れます。これが柔らかくて脂肪分が少なく、鯨肉を食べるようで絶品!スープ仕立てのもあるようなので次回は試してみます。
気になるのはソウルオリンピック以前はだれでも食べようか?と誘い合ったのが最近は「僕はそんなものを食べないよ」と急によそよそしくなったこと。北京もオリンピックまでなのかな?
食べた青年団は「暖まる」とか言っていました。
家畜と思えばいいのでしょうね。
食べる習慣はその国の文化ですから、否定するには
当たらないでしょうが保護団体は目を剥きますね。
韓国も変わったのでしょうか。
>福島先生:
残念なことに、日本でも狂犬病による死亡者が出てしまいました(幸い、國内感染ではありませんでしたが)。
しかしながら、周辺を狂犬病発生國に取り囲まれている日本にとっては、いつ『その日』が来るか分かりません。
日本で、「犬の掃討作戦」などが行われることのないように祈るばかりです。
勝手ながら、TBさせて頂きます。
kokuさま:動物愛護精神には欠けているけれど、食べ物を大切にする気持ちは強いと。
kyamaga さま:中国の南方の男性は、犬鍋が大好物です。やはりおいしいそうです。私は一口だけ食べたことがあります。どうも受けつけませんでした。
maite391 さま:韓国は本場のようですね。ソウル在住の愛犬家の知人も、犬鍋に使われる犬は犬ではなく家畜だ、と割り切っているようです。でも、犬鍋を食べたあと、帰宅すると臭いでわかるのか愛犬がおしっこちびるくらい怯えるのだそうです。
kyamaga さま:犬を食べる事自体は食文化ですから、否定する必要ないです。ただ、狂犬病対策、特に雲南の事件は、いつの時代よ~と思うほど、あらっぽいですね。感染症対策というのは、もっと冷静にやらないとダメなのでは?
林 則徐 さま:ブログ拝見しました。おっしゃるとおり、問題点は、そこなんですね。日本とこんなに頻繁に人的交流のある中国で今、こんなに狂犬病が流行している。日本の狂犬病対策は、今どんな状況?ということに目を向けてほしいのです。犬が可愛そう、ではすまない問題です。
日本でも無駄吠えする犬を排除する法律作って、近所のうるさい犬を連れ去ってくれないかな。飼い主が糞を放置したら連れ去るってのもいいな。
中国の場合は「五輪のための逆犬公方」ってとこでしょ。福島記者、深読みしすぎかも。
To tomochan2002さん
もしかして、全部のエントリーにコメントくださるのでしょうか。この愛犬デモの背景には、もっと興味深い背景があることがわかってきました。また新しいエントリーで、紹介しようと思います。