中国報道のあした その1

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 ■最近、長い間連絡とっていなかった友人や先輩記者から電話やメールが相次いだ。「仕事大変?大丈夫?」みたいな内容だ。先週末に関西地区でのみ発行されている夕刊に掲載された「記者が読む」というコラム欄で、取材制限が厳しくってやりにくい!と愚痴みたいなことを書いていたから、心配になったという。

 

 ■二ヶ月に一度くらいの割合でまわってくる土曜夕刊のコラム欄はもう二年くらい担当しているが、こんな風に連絡もらうなんて初めて。izaができ、この欄がネット転載されるようになったから、東京の友人たちの目にも触れるようになったのだ。さらににうれしいことに、ブログによるコメントという形で読者の反応までいただいてしまった。

 「そんなことを堂々と新聞紙上で書くことができる今は報道統制の緩和が進んでいる証拠」というご指摘や、「記者の自己満足のためにニュースがあるのではない」というご意見もあって、この問題を自分の中で、反芻することができた。ネットっていいもんだ。ありがとうございます。
 

 ■それをうけて、改めて中国の報道統制の現状について考えてみた。

 今の中国の現状は、中国の報道の自由を拡大しようとするメディアおよび大衆側の動きと、それを抑圧しようという体制側の動きがものすごい勢いでせめぎ合っていて、いわば「道高一尺、魔高一丈(正義の力が強くなれば、悪の力はもっと強くなる)」の状況なのだ。だから、報道統制は緩和してきた、という状況と、統制が強化されている状況が矛盾なく同時に発生していると言える。
 この激しいせめぎ合いの中で、心ある中国人記者や言論人は今、自らの記者生命をかけて、中国の報道の自由のために、発言し行動している。産経本紙でもしばしば取り上げた中国青年報「氷点週刊」の李大同前編集長らがそのいい例だ。

 ■こういう中国人ジャーナリスト魂を目の当たりにすると、彼らより身の安全が保証されている外国人記者が情けない提灯記事は書けないな、とつくづく思う。そして、こういうせめぎ合いの果てに待ち受けているかもしれない「世紀の大ニュース」を、中国人ジャーナリストたちとともに堂々と迎えることのできる記者でありたい、と思うのだ。

 

 ■「体制崩壊」といってしまうと、不穏なイメージが先にきて、「動乱を待ち望んでいるのか?」との批判的に思われるだろうが、「世紀の大ニュース」は必ずしも動乱を伴うとは限らない。現政権が積極的に政治改革をすすめようと決断すれば、ひょっとしたら軟着陸できるかもしれないし、多少混乱がおきても、最小限にとどめることができるだろう。日本だって対岸の火事とそっぽをむくはずがない。

 体制の崩壊、というぶっそうな言葉を使ったのは、報道の自由を求める力がここまで強くなっていることを無視して、それを力づくで押さえ込もうとする今の政策のままでは、最悪の結果になるのではないか、という老婆心、中国が好きで、中国に駐在している一記者が取材をとおして感じた愛あるアドバイスである。

 

 ■現体制の方が、日本にとって安定していていい、開発独裁は発展途上国の経済成長に必要、という意見もあるだろうが、矛盾でぱんぱんにふくらんでいる今の社会、経済状況をみるに、やはり、いつかどこかで政治改革、体制の変化は必然なのだと思う。それに中国が一党独裁の巨大な軍事国家であるより、多少の混乱はあっても民主国家を目指す方が、日本にとっては長い目でみて安心ではないか。だとしたら、一日本人記者としては中国における報道の自由が拡大するように、微力ながら中国人記者らを援護射撃するような記事を心がけようと思う。


 ■先日(といっても一ヶ月以上前)、例の李大同氏とお茶を飲みながら、「中国報道のあした」について語り合ったことがある。そのとき、彼は自信をもって言った。「中国当局がいかに報道統制を強化しようと統制しきれない。中国の記者の八割以上が、報道の自由のくる日を信じているのだ。中国には百万、千万の李大同がいる」。

そして、「一党独裁のもとで報道の自由はない。報道の自由のあるところに専制政治はない」。こんな風に、熱っぽく報道の自由や自分の国の未来を語る記者なんて、日本であまりおめにかからない。

 

 ■日本だって報道に関してはかならずしも威張れるほど自由ではない。だから、えらそうに、中国には報道の自由がない、けしからん、と批判することが、こういう(「記者が読む」みたいな)記事を書く目的ではない(いちおう)。中国報道の現状をウォッチし、そのあしたを考えることで、報道の力やその役割をじっくり考えることができる、それを通じて、自分はなぜ記者になったのか、自分の仕事は何なのだろう、と振り返ることができるからだ。

 

 ■ということで、「中国報道のあした」というテーマで、何回かにわけて、中国メディアで今何がおきているか、これからどう変わってゆくかをリポートしていきたい。


 
※李大同(り・だいどう)氏については以下参照

http://duan.jp/item/037.html

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「中国報道のあした その1」への10件のフィードバック

  1. こんにちは。
    見たい・聞きたい・知りたいという欲求は万国共通だと思います。
    どれだけ当局が統制しようとしたところで限界があるでしょう。
    インターネットを全部統制しようという試みを
    本当に実践してしまう行動力はある意味驚きですが…
    その無謀さにいつ気付くのか、あるいは気付かないまま臨界点に達するのか…
    後者だと日本への影響も大きいものになりそうですね。

  2. 輪廻さま:読んでくださってありがとうございます。最近のネット統制は、統制されているとは気づかないように、統制するようにグレードアップ中といいます。これは結構こわいです。

  3. はじめまして、大陸発の記事は全部読ませていただいております。あまり品の良くない毒吐きブログで参加させてもらってます。
    >>一党独裁の巨大な軍事国家であるより、多少の混乱はあっても民主国家を目指す方が>> 
    北京発の実名記事としてはかなーり危険な要素を含んでいるのではないかとぬるま湯の日本から心配しております。
    ご存知とは思いますが、“ジャック=ライアン氏”の“キャナリ=トラップ”が、かの国では現実味を帯びてきそうです。小説の中の出来事として笑いとばさず、匿名情報源の生命を守る上でも対応をお勧めします。

  4. 中国事情は興味深く読ませて頂いていますが、日本の状況はどう報道されているんでしょう?
    以前、どっかのテレビで北朝鮮の算数の問題で日本人を銃でn人、手榴弾でm人殺しました、さて合計何人でしょうという様な問題がありました。
    子供の時からそういった教育を受ければ平気で日本人を殺せるとは思うのですが、それと同様に報道でも「靖国参拝許せん」で行くと、日本人には話しても無駄だから強硬に行くべきだ、と自然となると思います。
    この頃の中国での報道を見ていると、ちょっと気になります。
    分かってやる層は「それはそれ、これはこれ」となるんでしょうが、刷り込まれて日本人には何をしてもいいと思ってしまう若者が増えるのが心配です。
    まぁ、これを凶悪事件増加に結びつける気はありませんが…

  5. nhac-toyotaさま、トム・クランシーでしたっけ。ジャック・ライアンシリーズ。すみません、読んでませんでした。これから取り寄せて読んでみます。
    長三郎様、日本についてのの報道状況もおって、報告させていただきます。

  6. 香織ちゃん、ニイハオ
    なんとなれなれしいと怒らないで下さい。当方74歳の人畜無害の老人です。
    もう7、8年前になりますか産経大阪に編集事務がパソコン化、IT化されると言うことで記者の皆さんのおもしろおかしい奮闘談のシリーズがありました。
    他の記者のかたの記事も面白かったのですが、何故か福島記者の記事だけが印象に強く残っています。あなたのキイから生まれた中堅以上のオジサン記者の悪戦苦闘ぶりを読んで、これならワシもと思い立ったのが私のPC苦闘記の始まりです。
    つまらない話で失礼しました。福島記者の本領は古森さん、伊藤さん、斎藤さん、黒田さん(ちょっと食習慣が…)を凌駕する「資質」の持ち主だと期待しています。健康にはくれぐれもご配意を(食べ過ぎにご注意)。

  7. weirdo31さま:過分なお褒めの言葉、恥ずかしいやら、うれしいやら、穴があったら入りたい、という感じです。パソコン様がやってきた?といったタイトルだったでしょうか。あの頃の私たちは、インターネット、ITの知識に関してはサルより遅れていると、皆からバカにされておりました。それが、今ではブログやっています。あの頃書いたささやかな記事が、お役にたったと言ってもらえて、これほど嬉しいことはありません。さすがに産経特派員の四横綱と並び称されては恐縮してしまいますが、小兵ながら新聞を面白くした、と読者の皆様に喜んでいただける記者になるよう、精進してまいります。

  8. 福島香織さま
    sarahでございます
    中国報道のあした その1、その2
    に重複してTBしてしまいました
    お手数ですが適当な時に削除お願いいたします
    ご面倒ですがよろしくお願いいたします

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