北京における日本の新聞に載らない程度の事件

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■中国の都市部における立ち退き問題というのは古くて新しい問題で、いまさら何の新鮮味もないとは思うのだけれど、個人的に北京のアートシーンに関心をよせ、アーチストの友人も多くいる私としては見過ごせない事件が最近あった。

 

 

 

■北京の朝陽区で芸術区(画廊やアトリエが集中する一角)といえば大山子の798が有名でもはや観光名所にもなっているくらいだが、そういう芸術区、芸術村は北京に無数にある。

 

 

 

■ところが朝陽区の再開発によってそういう芸術区の多くが立ち退きを迫られているのだ。おもだったところで20前後の芸術区が立ち退かされるみたいだ。その立ち退きの迫り方が、いつものことながら極悪非道。

 

 

■たとえば約50人のアーチストがアトリエをかまえる正陽芸術区では、9月25日に立ち退きの通達がいきなりきて、12月5日に出ていけといわれた。その芸術区は彫塑作家が多いので、そんな短期間に、新しいアトリエを探すことも不可能だし、巨大な彫塑作品のひっこしってすごくお金がかかる。無茶な話だ。

 

■しかも、話し合いもないまま、期日前の12月1日には取り壊しを開始。5日には電気がとめられ、12月13日には水道を止められた。零下9度の極寒の時期に、この横暴。アーチストらもさすがに腹をたてたが、話し合いの場をもとめようとしても、家主の企業は雲がくれしてしまった。

 

 

■実はこの芸術区のオーナー企業の社長、中央美術学院の卒業生で元彫刻家。同じアーチスト同士で信用していたため、家賃もむこう一年分先払いしたりしている。詐欺みたいなものだ。そこでアーチストらは、ひとり2000元ずつくらい出して弁護士をやとって徹底抗戦することにした。同時に、芸術区を守ろうと、立ち退き抵抗をテーマにした展覧会を開いていくことにした。一回目の展覧会は12月29~31日に開かれた。これは地元メディアも取材にきて、おおいに注目をあつめた。

 

■ところが年明けて1月7日、何者かにアトリエが壊されたり車のフロントガラスが破られるなどの嫌がらせが。ガラスを割られた

アトリエの中には、日本人アーチスト・岩間賢さんhttp://www.oh-mame.com/もいた。岩間さんは2006年から奨学金をうけて壁画研究のために留学。今は中央美術学院の彫塑科の研究生。

 

■岩間さん「ここ(正陽)は芸術区として一からつくられたんです。工場あとを利用したとかじゃなくて、アトリエ用のスタジオがちゃんと作られた場所ですから、隋建国ら中国のトップアーチストもいるんですよ」。

 

■岩間さんによると、アーチストたちは、なにも北京市政府の再開発計画に真っ向から反対しているわけではない。だがせめて、この記録的寒さの冬のさなかではなく、温かくなってからとか、代替地を用意するとか、そういう誠意ある対応を開発業者や家主企業に求めたいという。

 

■1月12日、二回目の展覧会が開かれたが、このときも身分が定かでない人間が複数乱入、展覧会を妨害。アーチストたちはスクラムをくんで作品を守ろうとするなど、現場は大騒ぎになった。

その後も展覧会の総監督である彫塑作家、張★(偉のにんべんを王に)のアトリエ備品が盗まれるなどの嫌がらせが続いている。

 

■岩間さんは「このままだと、みんな泣き寝入りになってしまう」と危機感を募らせている。張さんは何度も北京市当局に陳情にいっているが、対応はわりと丁重ながら、現実的に何かアクションをおこしてくれるわけではない。取り壊しは周辺からどんどん進んでいる。

 

 

■雲がくれしていた企業は今はみつかり、1月5日には企業の代理人とアーチストの弁護士が話し合いを始めているが、相手は金はない、と主張しているという。

 

■岩間さん「むこうが破産みたいな形でおわりなのかな。せめて市政府から開発業者に払われる立ち退き料金をこっちに回してもらえれば」

 

■岩間さんは家族もいるので、キュレーターの友人の世話で別の芸術区の部屋に移り住んでいるが、これ以上取り壊されないように、仲間のアーチストと交代で見張りに回っている。岩間さんは夏には帰国するが、もし正陽のアトリエが存続すれば、日中の芸術交流の場にできたのに、と残念がっている。

 

■五輪前までは、北京はアートバブルといわれるほど、作品の価格が値上がりし、アーチストも続々デビューし、世界中のキュレーターが集まるなどアジアの芸術の都になるや、という勢いがあった。そういう中で、本当なら立ち退き対象になっていた大山区789芸術区などの存続も決まった経緯がある。しかし、アートバブルがはじけた今、北京市政府も市民も芸術区に対する関心は薄れているようだ。ちなみに789は画廊やレストランばかりが増えて、本来の作品制作にふさわしい環境でなくなったため、周辺に正陽とか008とか新しい芸術区ができていったという。

 

■今回は当局VS芸術家という、70~80年代にあったようあむかしあったような闘争ではなく、あくまでオーナー企業・開発業者の契約上の問題で争っている。けれど、この騒動を機会に、北京市政府は北京に集まる芸術家が、北京にとって文化的財産であるという発想をもってほしいところだ。今回の一連の騒動と、それに抵抗する一連の展覧会は、経済の上海に対し、文化の北京というプライドをもう一度ゆり起したい願いも込められている。

(写真はあ

正陽芸術区のアトリエには、悪徳業者をやっつけろ、といった立ち退き抵抗のスローガンがペイントされていた。

 

 

 打ち壊された正陽芸術区のアトリエ

 

今回の展覧会の総監督もつとめる彫塑家の張★(王へんに偉のつくり)さん

 

芸術区強制立ち退きに抵抗する日本人アーチストの岩間賢さん。

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「北京における日本の新聞に載らない程度の事件」への6件のフィードバック

  1. お元気そうで何よりです。
    地元の新聞で798アートエリアのことが取り上げられていました。
    残念ながら名前は覚えてないけど、マルコメのようなびっくりした表情の子供達(?)が檻に入っているモノなど、すごくインパクトがあるアーティストの作品を記事で見ました。
    機会があったら、行ってみたい所の一つです。
    水面下ではそのようなことがあっているとは…

  2. 香織師匠
    > その立ち退きの迫り方が、いつものことながら極悪非道…
    地上げって奴はなかなか平穏に行われないものですが…前受金も返さんのかい!
    いつかの「浮遊住宅」といい、華の国は実力行使主体なのかな?
    いずれにせよ、「パトロン」と言う層が成り立たない社会に文化の進展は望めないでしょう。 駆ける獅子たる中国の首都なのにある意味こんなミミっちい話が出て来るんだなぁ…
    しかし、この芸術区ってどんな感じなのかなぁ…写真掲載待ってますね?♪

  3. バブルがはじけた、そら撤収、次の金儲けの算段だ、とっとと出ていけですか。立ち退き抵抗スローガンは、もうすこしアートで表現してほしいですね。直立歩行の犬と、アヒルみたいな犬ですね。うーん、わからん。
    GDPには貢献するのでしょうね。

  4. 福島さん
    以前のブログの雰囲気に戻ってきましたね。何よりです。
    私がいた頃の上海でも立ち退き問題はいたるところにあったようです。一例を上げると浦西のヤオハンの真向かいの再開発地域で開発反対の横断幕が長いこと掲げられていました。そんなものが直ぐに取り払われないことに逆に中国の変化振りを感じたりはしました。今は立派な商業ビルに変わっています。
    また万博の為の立ち退きでも時折住民との小競り合いの情報が入ってきましたが、報道は殆どされませんよね。地方の実情は押して知るべしですが。

  5. 福島さんへ
    北京は寒いでしょうか?こちらは大雪の後、今日は春の陽気です。
    昨日19時のNHKラジオで、馮正虎さんのことが取り上げられていました。
    中国への入国を8回試みたが、拒否されて77日間成田にいること。馮さんが日本へ入国しないので、成田空港では苦慮しているという言い方でした。
    違うでしょ!中国が帰国させないからこんなことになっているんでしょ。
    NHKも困ったものです。他のメディアではどのように取り上げているのでしょうか?
    寒さや、食べ物や、健康のことが心配ですが、支援の方はうまく回っているのでしょうか?今度東京に行く時は差し入れを持って行こうと思っていますが、必要なものは何かわかりましたら教えてください。
    よろしくお願いいたします。

  6. 記事のリズムが復活しています。
    なんだかちょっと涙が出そう(笑)。
    これまでのいろいろを考えると・・・。

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