チベット特集:プンツォク・ワンギェルはかく語りき、再び

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■20年度がおわりいよいよ明日から新年度にはいる。麻生首相は記者会見後、ロンドンに出発。私はきょうをもって総理番を卒業(?)し、明日から平河記者クラブ(自民党担当)に引っ越しする。幹事長、古賀誠&古賀派、および笹川総務会長が私の担当だそうだが、正直、まだ何をするのかわかっていない。結局番記者であることには違いない。とりあえず今よりは忙しそうである。

ということで、明日から北京・平河趣聞博客にタイトルがかわる、はず。新しい仕事のことは明日以降にエントリーするとして、3月最後のエントリーはやはりチベット特集とする。

 

 

■以前、当ブログで紹介したチベット族コミュニストで毛沢東の通訳もしたプンツォク・ワンギェル氏について、もう一回とりあげる。彼は胡錦濤国家主席にあてて2004年から2006年にかけて送った手紙でチベット問題の解決策を訴えているのだが、先日、それをまとめた書簡集を買って読んだところ、結構考えさせられた。

 

■ちなみに、この書簡集「BABA PHUNTSOK WANGYAL WITNESS TO TIBET’S HISTORY」はインド・ニューデリーで出版されている。プンツォク・ワンギェル氏自身が自分の知らない間にこんな本が出版されていた、と教えてくれたので、同書掲載の手紙は全部本物である。ネットで注文したら12ドルでインドから本が送られてきた。今はネットがあるから、世界中で出版された本がこんなに簡単に手にはいるんだな。便利だなあ。

 

 

■プンツォク・ワンギェル(プンワン)氏について、おさらいというか、あらためて簡単に紹介しておく。1922年、チベット・バタン生まれ。旧チベット政府と国民党の圧政に苦しむ東チベット・カム地方の窮状を憂い、共産主義がかかげる民族自決の理想に共鳴して共産党員となり、「東チベット自治同盟」を結成。鄧小平、劉伯承、賀竜らにラサおよびチベット地域のチベット族による革命活動の状況を報告し、中国、ソビエト、インドの共産主義者とともに革命に参加したがっている同志の存在をつたえ、いわば中国共産党の「チベット解放」への道のりを先導した歴史の重要人物である。

 

 

■1950年から南西軍事委員会およびチベット工作委員会のメンバーとして作戦に参加。チャムド作戦後は、中国共産党チャムド支部工作委員会の副書記に。また北京の中央政府と旧チベット政府の会談に同席し17カ条協定のサインの現場にもいた歴史の目撃者でもある。毛沢東の信任を得て、ラサ入城の際の5人の解放軍リーダーのうち唯一のチベット族でもあった。

 

 

■しかし、17カ条協定はいともあっさりやぶられ、文化大革命ではチベット文化や寺院が破壊され放題となった。プンワン氏は「まるで歴史の悪い冗談のようだ」と手紙の中でも語っているが、文革中は彼自身も、民族主義者として18年間、投獄されたのだ。

 

 

■彼はかつて旧チベット政府に「民主的改革」を実施するように請願書をだしたり、「東チベット自治連邦」による武力革命に失敗したことなどがあった。彼はチベット族によるチベットの体制改革をのぞんでいた。しかしその夢がかなわかったとき、共産主義の民族自決論に共鳴して共産主義運動に身を投じたのだった。しかし、中国共産党はその民族自決原則をあっさり放棄し、民族融和といえば聞こえはいいが、早い話が同化政策につっぱしってしまう。

 

 

■その後、鄧小平氏により名誉を回復し、全人代常務委員や国家民族委員会副主任などの要職も歴任。しかしダライ・ラマ14世からの信用もあり、中国共産党側のチベット族としては珍しくチベット族から支持を得ている人物である。今も北京で健在で、世界中のジャーナリストにとっては、もっともインタビューしたい中国の歴史的人物のひとりではあるが、彼はジャーナリストには決して政治的な発言をしないし、本音を語らないことでも知られる。

 

■彼の伝記を最初に出版したのは、ジャーナリストではなくて米国人のチベット学者、ゴールドシュタインだった。この本もアマゾンで買える。日本っておよそどんな本でも検閲なしで買えるからいいね。ちなみに英語の本を読みにくいと思われる方は、在野のチベット歴史学者の阿部治平氏が「もうひとつのチベット現代史 プンツォク=ワンギェルの夢と革命の生涯」が日本語書籍の中で一番詳しい。

 

 

■プンワン氏は胡錦濤氏に当てた手紙では、チベット問題についてこう説明している。ざくっと要約すると、

 

①「300年続いた政教一致の旧チベット政府が政教を分離し社会発展にむかわねばならないのは、さけられぬ時代の潮流であった」

 

②「今の中国の状態からいうと、すべての民族はもっと分離をのぞむほうがメリットがある。党の指導のもと、すべての民族は同等という前提で団結することは基本である。ならば巨大なパワーのある漢族の兄弟は、より広い心でもって、マルクス・レーニン主義の、多数は少数のために、という原則に従うべきだ。漢族大衆の誠実な支援のもと、55の民族は自ら故郷で、改革と行政を行うべきだ」

 

 

③「ダライ・ラマがチベット問題の核心だという意見には賛成しない。チベット仏教は何千年もの間、チベット社会の日常生活に生き続け、えんえんと影響を与え続けており、客観的事実として、人の心はかえられない」

 

 

④「チベット問題は、ダライ・ラマ14世存命のうちに解決せねばならない。でなければ、深刻な紛争を招きかねないという中国人作家のエッセーがあったが、われわれはこの点に最大の注意を払わねばならない。もし?経国存命中に台湾問題を解決していたら、今の台湾の陳水扁が台湾独立を主張することもなかった(手紙が書かれたのは2004年)。その経験に学ばねばならない」

 

 

⑤「ダライ・ラマ14世は過去のダライ・ラマに比して、チベット族に対しても国際社会においても影響力が強い。なおかつチベット問題解決にむけた考え方は、かつての鄧小平氏の〝独立以外のことならなんでも話し合う〟という姿勢とも合致しており、きわめて中道的である」

 

 

⑤「 ダライ・ラマを頂点とする政教一致のシステムは、ダライ・ラマ自身がその廃止を公式に宣言しなくてはならない」

 

 

⑥「ダライ・ラマおよび亡命政府が海外に存続していると、西側の

反中国勢力に〝チベットカード〟として利用される。もしダライ・ラマが帰還できれば、 膠着状態を能動的に、敵意を調和にかえるチャンスとなる」

 

■老コミュニストらしい正統派マルクス主義の民族自決論に沿った主張で、フリーチベットを主張する若いチベット族やサポーターから見れば、同意できないところも多々あるだろうと思う。しかし、ダライ・ラマ14世を否定していてはチベット問題を解決できず、ダライ・ラマ存命中に解決することが中国側にとってもお得、というのは非常に現実的で説得力がある。

 

 

■実はプンワン氏は、チベットの革命のモデルに明治維新を考えて、明治憲法を参考にチベット新憲法の草案を書いたことがあるのだという。極めて高度な文明と完成された伝統文化をもち、それゆえ国際社会の潮流に無頓着だった国家としてチベットと日本に共通点を感じていたようだ。プンワン氏は、「チベット潜行10年」などの著書で知られる木村肥佐生氏と親交があり、彼から日本の話、明治維新の話をよく聞いていたそうだ。ちなみに、そのときプンワン氏は木村のことをずっとモンゴル僧侶だと信じ、えらく日本に詳しいことを不思議に思っていたとか。

 

 

 

■そう考えると、チベット族からダライ・ラマへの敬愛の心を奪うことができないのは、日本がいくら近代化し、経済発展しても天皇陛下への敬慕が消えないのとよく似ているな、と思った。

 

 

■日本の近代化は明治維新とあの戦争の二度の大きな階段があったと思うが、日本があの戦争でまけたあと、米国が、天皇陛下の戦争責任をとわなかったことが、日本の今の発展につながったと思う。日本人の精神的支柱を奪わなかったからこそ、日本は再生できたし、20万人の民間人を一瞬で殺害した原爆を落とした米国とも今、同盟国として敵意より親近感をもってつきあえるのだ。 

 

 

■逆に考えると、チベットも「解放」したのが毛沢東ひきいる中国共産党でなかったのなら、政治の実権をうばってもダライ・ラマというチベットの精神的支柱の存続を認めることができたならば、今のような状況にならなかったかもしれない。ダライ・ラマはチベットの象徴、精神文化の支柱としてチベット族に愛されながら、防衛・外交などは中国にたよる平和主義社会にとなっていたかもしれない、と。

 

 

■ダライ・ラマ14世はチベット族の精神的支柱であるだけでなく世界有数の宗教人であり平和主義者としてノーベル平和賞も受賞している。法王が独立は放棄し自治を求める、とおっしゃるから、チベット族の多くが従おうと思うわけで、この対話による問題解決のチャンスを逸すれば、再び独立気運が高まって流血を伴う抵抗がおきるかもしれないし、それを武力で弾圧すれば、中国はそれこそ国際社会の鬼っ子になりかねない。

 

 

 

■そんなふうに考えると、チベット問題もなんとなくひとごとでない気がして、一刻も早く平和な形で、ダライ・ラマの帰還が実現し、ダライ・ラマを精神的支柱としたチベットの宗教文化の存続が約束される日がくればいいと思うのである。

 

 

 

 

 

「チベット特集:プンツォク・ワンギェルはかく語りき、再び」への9件のフィードバック

  1. 失礼ながら・・・
    >■開国前の日本は、振り返れば、チベットと同じような国だった。またあの戦争の前の日本では、天皇陛下は総帥権をもった現人神であり、政教一致の国であった。
    この程度の近代日本史の認識の方が、他国情勢をどのように語られても、
    説得力は弱いでしょうね。
    江戸期日本と、独立国時のチベットとは、一体どのように共通しますか?
    当時の天皇家の窮状はご存知ありませんか?
    日本を束ねる大神主のはずなのに、
    お伊勢さんや祇園さんの下級神官より貧しい生活だったのですが。
    その家来達(公家)は、皆、内職をして糊口を凌いでいたのは、知らないのですか?
    御所の食生活は、京都の五軒の有力豪族のボランティアでまかなわれていました。
    また、維新後も、「統帥権」は法律の文面上「持っている」ことになっていただけで、
    それを天皇が使える規定は何処にもなく、現実に使っていたのは軍官僚でしょう?
    「政教一致」に至っては、笑いを取りたいのですか?
    まさか、本気で戦前日本がそうだったとお思いではないでしょうね。
    牽強付会も、ここまでずれると、無理なのではないでしょうか?

  2. 福島記者
    官邸から古賀誠っすか…所謂「人権擁護法案」推進者故に福島記者らしい切り口でバッサリ斬って頂ける事を期待して居ります…が、もうちょっと首相官邸番でいて欲しかったような…なんだか複雑な気分だ…
    > …それを可能にしたのは、米国が基本的には自由・民主の国であり、さまざまな異論・意見を吸収しながら政策を決定する政治システムをもっていたから…
    多分現時点(2009/03/31,22:30)で文章推敲中のものを公開しちゃったのか…?
    なんかオチがついてない文章のままですよ?♪
    多少アメリカを褒め過ぎだとは思いますが、中共政府に比較してという意味においてなら同意しますし、チベットの法王と日本の天皇が共にシンボリックな君主である点も御指摘の通りかと考えます。
    しかしながら、権力行使能力という意味ではかなり印象がなぁ…立憲君主制成立以前から日本の天皇というか朝廷は権力行使能力を放棄しているのに対し、チベットの場合は制圧迄それを保有していた事が中共の支配政策にとって有効な口実になっている面も有るんじゃないかな?と考えます。
    プンワン氏は中共の論理で語らざるを得ない立場であるが故なかなかその本意が伺い難いのですが、政教(祭)分離とそれを支える成文法体系の整備を目的としているのでしょうかね? 日本の欧米的近代化の基底には確実にそれがあったと考えるので。

  3. 福島様。日本人なら必読のこの書に、既に目を通されていらっしゃいますでしょうか。
    「現人神」「国家神道」という幻想―近代日本を歪めた俗説を糺す。
    http://www.amazon.co.jp/dp/4569626548/
    >「「現人神」「国家神道」とは、日本国民を狂信的な戦争へと導いた思想と制度である」との嘘八百の言説に異議あり!
    >こういったイメージが幻想に過ぎないことを、実証的歴史研究の成果に照らして明かす。

  4. To RAMさん
     ご指摘ありがとうございます。認識不足でございました。イメージとして、チベット族にとってのダライ・ラマとは、日本人にとっての天皇のようなものだ、と以前、説明をうけて妙に納得したことが、このような乱暴な表現につながってしまいました。ちょっと、書き直さなくては、と思って下書き保存するつもりが、あわてて外に出る前にまちがってアップしてしまって。訂正させてください。

  5. To RAMさん
    >当時の天皇家の窮状はご存知ありませんか?
     財政が苦しかろうが権力を待たない存在であろうが、江戸時代の将軍は「征夷大将軍」という官職を賜らないと権力世襲ができなかった存在で在るということを認識してない。
     現代のネットワークの世界なら物言わぬadministrator現実世界なら自分の女房に等しい。殴りつけて言うことを聞かせられそうに思えるが、それをやったら翌日から壊滅的な被害を被る。自分が課長で相手がただの平の担当者だから無茶しようものなら、翌日支店長に「殴られた方がマシ」な目に遭わされる。所詮自分の権限は、会社から与えられたものに過ぎないというのを思い知らされる。
     統帥権についても同様。「統帥権」は法律の文面上「持っている」で済むなら貴君の言うとおりだろうが、現実には単なる形式で済ませるには色々と問題がある。
     舐めてかかって痛い目に遭いたいのなら御勝手に。

  6. To f4phantomさん
    > 財政が苦しかろうが権力を待たない存在であろうが、江戸時代の将軍は「征夷大将軍」という官職を賜らないと権力世襲ができなかった存在で在るということを認識してない。
    *その、朝廷が、幕府からの上奏に対する「拒否権」を持っていましたか?
    現憲法下での「天皇の国事行為」と同じで、何を持ってこられても、誰を次期将軍にすると言われても、「はい」としか言えない状態で、自動的に除目をしていましたよね。
    > 舐めてかかって痛い目に遭いたいのなら御勝手に。
    *あなたが、何を言いたいのか、分かりませんね。
    私が「何を舐めている」のでしょうか?
    「痛い目」とは、どのような事でしょうか?
    で、それは、誰が私に遭わせるのでしょうか?・・・あなたですか?

  7. To RAMさん
     どうも力がないから価値がないっておっしゃりたいようですね。「ローマ法王は何個師団を持っているのかね」と発言した独裁者と似たような発想だと思います。
     力が無い、金が無いだからといって権威がないということには成りません。力もなく金もなくても歴史に裏打ちされた積み重ねがあって、人の社会は動いている面があります。馬鹿馬鹿しいようですが、それを無視してしまうと相当な騒動が起こることがあります。歴史を紐解けば「セポイの乱」など禁忌に触れる行為で大争乱に発展しています。
     イスラム教のラマダンなど、イスラム教徒以外には生産効率が落ちる馬鹿馬鹿しい事ですが、イスラム教徒にとっては守らねばならない戒律です。そういう不合理なようでも遵守せねばならないシステムで世界は動いています。
     痛い目に遭いたいなら御勝手にと申し上げたのは、そういうことです。「工場の生産効率が下がるからラマダンを無視して飯を食え。」とかやってしまえば収拾がつかない争乱に発展します。味の素の生産過程で豚を使用したことがあってイスラム教圏で騒動に発展したことがありました。このように現地の決まりを舐めてかかると、相応の痛みを味わう羽目になります。
     中国共産党は、ある程度はそのことを理解しているようですが、そういう問題を正確に認識できていないように見える面があります。それが中国共産党の足を掬うロープになるのではないかと思っています。

  8. To f4phantomさん
    > どうも力がないから価値がないっておっしゃりたいようですね。「ローマ法王は何個師団を持っているのかね」と発言した独裁者と似たような発想だと思います。
    http://ram-at-yahoo.iza.ne.jp/blog/entry/321609/
    先ず、この辺りから読んできてご覧なさい。
    ついでに、あちこちで述べていることをここで再掲すると、改憲案として
    ①天皇が国家元首である旨の明記
    ②皇室典範は皇族会議において決める
    ③天皇の国事行為に対する拒否権の確立
    を主張している人間なのですが・・・。
    > 力が無い、金が無いだからといって権威がないということには成りません。・・・中略・・・遵守せねばならないシステムで世界は動いています。
    *このizaにおいて、私にこの様なことをお教え下さる方が居られたことは、
    新鮮な驚きですね。いやいや、これは、有り難うございました。
    > 痛い目に遭いたいなら御勝手にと申し上げたのは、そういうことです。・・・中略・・・「このように現地の決まりを舐めてかかると、相応の痛みを味わう羽目になります。
    *ほう、脅迫まがいの言葉を、上手に逃げましたね。
    で、誰が、「現地の決まりを舐めてかかった」のですか?私に関係あるのですか?
    > 中国共産党は、ある程度はそのことを理解しているようですが、そういう問題を正確に認識できていないように見える面があります。それが中国共産党の足を掬うロープになるのではないかと思っています。
    *あなたは、相手を間違えていませんか?中国共産党が、いったい何なのですか?
    誰に向かって、何を言っているつもりなのですか?
    *横レスをするときは、少なくとも、相手を見ることですね。
    RAMのことを「izaでは有名人」という方は沢山居られます。
    あなたは、まだ日が浅いのかも知れませんが、それでも、ワンクリックで、
    私のプロフィールくらい見てこれるでしょう。
    1500年以上、天皇家を身近で支えてきた家系の人間に、寝言を言っているのですか?

  9. To tenyoufoodさん
    >追加)
    >
    >バンジーパパです。
    >
    >味の素の製法は、
    >その後も何も変わらず、豚由来の酵素を使い続けてるよお~
    ヨコレス
    「味の素」がだめなら「和風だしの素」は如何?(>0<)
    「カツオと昆布がもたらす“天然のうま味”」と記してあるから、
    まさかそれも豚由来の酵素を使っているではないよね。
    無いなら一石二鳥だわ、利益をもたらすだけでなく和風味も世界中に披露できるしなあ(ああ、聞き流して)

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