■ちょっと、仕事がたて込んできたので、何かてっとりばやいエントリーは?というと、あれですな。没原稿収容。いわゆる完全没原稿ではないが、24日付の土曜夕刊(関西版限定)で書いた南京事件映画に関するコラム「記者が読む」は、もとはインタビュー原稿だった。ええ、かなり好意的に書いてしまったので、ナカのひとから「中国のプロパガンダに加担していると思われる」と、嫌われた原稿です。(だから、土曜夕刊のコラムに書き直してひっそりとのせました。でも、関連ブログの中には、お怒りの声もありましたから、ボツという判断は正解なのでしょう)
でも、日本製南京事件映画「南京の真実(仮題)」(水島総監督)のライバルが、どんな映画を作ろうとしているか、ちゃんと知っておいた方が、いいでしょ?というわけで、「南京!南京!」を制作準備中の陸川監督インタビューをここで転載する。一応、無意味に長い全文をそのまま。
■中国発南京事件映画、日中関係にどう影響?
陸川監督に聞く
■(転載開始)
旧日本軍による南京侵攻時の虐殺事件とされる「南京事件」から70年目を迎える今年、中国の若手監督、陸川監督による同事件をテーマにした映画「南京!南京!」が早ければ2月にもクランク・インする。(注:当局の許可がおりていないために、ずれこんでいる。)しかし歴史事実や認識をめぐり日中研究者の間で論争も続く同事件の映画化に、日中国交正常化35周年の友好ムードに水を差すとの懸念も大きく、当局の認可はまだ出ていない。果たしてこの映画は日中関係の打撃となりうるのか、陸監督の制作意図は?監督に聞いてみた。
■日本人居住者が多い高級マンション竜頭公寓の体育館の一角に「南京!南京!」制作チームの臨時作業室がもうけられていた。バスケットコートが2つくらい入る空間には、南京城市の模型や映画の絵コンテ、旧日本軍服の衣装合わせをするエキストラ…。映画制作現場特有の熱気が立ちこめる。その中を長身痩躯の若き監督は休むひまなく駆け回り、スタッフに指示を出し続ける。監督にとってはわずか3作目にして、制作費2億元(約30億円)という大作への挑戦であり、緊張感がただよっている。 (以下一問一答)
■なぜ、南京事件映画制作を?
「私が南京の大学(南京人民解放軍国際関係学院)で学んでいたとき2回ほど南京大虐殺記念館を訪れ、深い印象に残っていた。歴史が好きなんだ。『ココシリ・マウンテンパトロール』(2005年、東京国際映画祭特別審査委員賞受賞)撮影が終わってから、南京事件映画を撮ろうと思って関係する書籍、研究をたくさん読んだ。中日の南京戦の歴史、事実を多くの中国人は知らない。日本の若者も知らない。だから歴史の真実を伝えたい。
■中国人が知らない南京戦の歴史とは?
「どうして南京大虐殺が起きたかその過程には触れてこられなかった。背景には日本軍の食料が南京陥落後ほとんとつきて捕虜が養えなくなっていた事情がある。捕虜を解放すれば敵戦力が回復する。だから〝処理〟するしか選択肢がなかった。中国軍は南京陥落後も城内に逃げずに多く残っていた。多くが市民の中に紛れた便衣兵で、日本軍は市民の中から便衣兵を捕まえねばならなかった。しかし、市民と兵士の区別はなかなかつかない。当時の現地最高責任者、松井石根は南京入城式の演説で軍紀を説いた。日本軍の質は非常に高かった。しかし現実は、捕虜の〝処理〟が行われた。こういったことは中国人は知らない。また中国軍は数的に日本軍を圧倒していたのに、少数の軍に負け、南京を陥落させた。当時の日中両軍の指揮系統や軍の質を比べると、1937年当時の中国軍は日本軍に遠くおよばなかった。南京事件の背景には中国軍の弱さ、団結不足もあった」
■南京事件は死者の数をはじめ史料、史実の真贋をめぐり議論が続いているが、監督の解釈は?
「犠牲者の数については、18万人から30万人の間だと思っている。昨年春に上海の当時の日本領事が日本に報告したという非公開の機密文書史料が発見され、それには南京戦で約30万人を銃殺刑に処した、としている。(注: 陸監督はそう主張するが、そのような資料が実際にあったかは確認がとれていない) 日本兵が残した日記にも捕虜何人を捕まえ何人を銃殺した、という記録がある。それらを合計すると十数万人の捕虜が殺されたことになる。ただ死者数の論争にはあまり意味を感じない。だから映画では死者数には触れない」
■映画のテーマは?
「南京事件について調べていくうちに、映画を撮る目的、テーマは変わりつづけている。本来は歴史の再現だったが、今は“人知、人間性の真相〟が主題だ。松井石根が軍紀を説いたにもかかわらず、大虐殺が起きたのは、戦争の極限状態で人間性が失われすべての人が持つ暗黒が晒されてしまうからだ。それは銃を持つということと関係がある。お互い知り合いで普通の社会生活の中でその暗黒は決して面にでてこないが、誰も知らない外国で銃を与えられ、人の命を奪う権力を与えられると、自分が戦場の神であるかのように思えてしまう。そんなとき人の暗部が面にでてしまう。それが戦争なんだ。戦争とは、この世で最も愚かで恐ろしいことなんだ」
■ストーリーは?
「日本軍兵士と中国軍兵士の2人を主人公にし、両方の視点から南京戦を描く。日本軍兵士は、現存する兵士の日記資料から人物像をつくった」
■日中関係へのマイナス影響があると思うか?
「日中関係にとっては絶対良い影響があると思う。この映画は中国人だけでなく日本人にも観てほしい。これを観れば、南京論争は終わるかもしれない。正直いって米国は外国をののしる映画ばっかり作っており、きのう日本を悪役にしたかと思えば、あすはロシア人が悪者だ。しかしそれで2国関係は悪くならない。映画は所詮映画さ。日中関係はどうして映画ごときを恐れるのか。それは日中関係が理性的でないからだ。私はこの映画で、多くの人に理性的な関係ということも考えてほしい。私は東京国際映画祭で賞をいただき、日本という国も大好き、日本人も大好き。スタッフにも日本人のことを理解して欲しくて、日本人居住者の多い竜頭公寓に製作所を作った。日本人の子供のかわいさ、夫人や老人の礼儀ただしさなどをみてもらい、これまでの中国映画にありがちの悪鬼のような存在ではないことを知ってもらうために。」
■中国当局はこの映画制作を支持しているのか、反対しているのか。
「当局は何もいっていない。でも認可はでていない」(注:2月20日現在、認可はおりていなかった。まだおりたという知らせはない。)
■南京事件をテーマにした映画は、米国や香港でも数作準備が進んでいるが、米国人が作るものと違いはあるか?
「彼らは〝シンドラーのリスト〟みたいなものを撮りたいのだろう。外国人がかわいそうな中国人をどんな風に救ったか、みたいな。そんな映画は日中両国とって何の意味もないね。本当に意義があるのは、南京戦で何がおこったか討論することだ。この映画は日本人俳優15人が出演を予定し、副監督も日本人で日中映画人が協力して作っている。本当は日本企業に出資して欲しかったのだけれど、敏感すぎると敬遠されている。今からでも協力したいという日本企業があるのなら大歓迎だ。」
(以上転載、注はあとから補足)
■陸川監督が卒業した南京の人民解放軍国際関係学院って、俗に特務養成学校と呼ばれるヤツですかね。専門は外国語らしいが、軍史を学んだといっていた。だから、結構愛国人士かもしれない。やはり、日本人とは歴史観の大きなずれはある。でも、彼は彼なりの誠意と真剣さをもって、南京戦の悲劇にせまりたいと訴えており、インタビュアーとしては非常に好感がもてた。この好感度、やはり特務として鍛えたテクニックか?単に好青年ぶりに、籠絡されただけか?
■ただ、映画人としては見所あるなあ、と思われるエピソードが伝わっている。本人に確認したわけではないが、、彼が南京戦をテーマにした映画をとろうと思ったのは、江蘇省文化産業事業団出資のハリウッド映画「南京浩劫(南京・1937・クリスマス)」をとらないかもちかけられたのが直接のきっかけとか。台本に目を通したが、米国宣教師の目を通した南京事件、という内容について、米国視点で南京事件を撮るのはいやだ、それなら自分で撮る、といって断った、とか。
(ちなみに「南京浩劫」はトゥーム・レイダーのサイモン・ウエスト監督が撮るらしい)
■陸監督は、中国人で、南京事件の解釈も当然、日本人とは違うし、彼の映画によってあやまった南京事件のイメージがひとり歩きする可能性は否定できないが、南京事件を撮るなら、「シンドラーのリスト」みたいなのはダメ、当事者の視点で撮らないと、なんてハリウッド映画をつっぱねるなんて、敵ながらあっぱれ、と私などは思ってしまう。中国人が中国人なりに精一杯の努力でアプローチした南京事件というものを、みせてもらおうじゃないか、という気になってしまう。(おめでたいですかね)
■で、日本人は日本人としてのアプローチの仕方で南京事件映画をとって欲しいものです。片方だけみれば、いずれもプロパガンダ、と言われかねないテーマだが、それなら両方セットで見てみよ、どちらが説得力あるか、見比べてみたい、なんてね。陸川監督の脚本は、フランスのリュック・ベッソン監督も絶賛したくらい出来がいいらしい。手強いです。
■もっとも、中国当局から、その「出来のいい脚本」のままで認可がおりるか、いや例え、書き直しても、認可がおりるかどうかは、まだわからない。香港女優のマギー・チャンが出演する、なんて噂がある一方で、日本人俳優もすべて決まっているわけではない、ようだ。(敏感な映画なので、日本人俳優に敬遠されているもよう)。監督はいらだって、スタッフとのチームワークも乱れている、という話も聞いた。南京事件映画完成までの道のりは、なかなか遠いのであった。
エキストラの衣装をチェックする陸川監督 06年12月
?
インタビューに応じる陸監督
確かにインタビューを読む限り日本にも一定の配慮しているようですね。
もしかして当局が撮影を許可しない理由は、日中関係を悪化させたくないからではなく、この映画が余りにも「親日的」過ぎるからだったりして、と思ってしまいました。
福島さん、こんにちわ。
確かにインタビュー内容を見ると陸監督の人柄が表れているようですね。
私も中国人の友人を持つ身として、人間として相手を尊敬する気持ちは分かります。
ただし、「歴史を知らなかった」→「読んだもの、聞いたもの全てを真実と信じる」→「知らない人に広めなきゃ!」
は、プロパガンダと言います。歴史ではない。
それが陸監督のような社会的影響力のある人間なら尚更。
その問題と、本人の人間性の問題は全く別だと思っています。
>「だから歴史の真実を伝えたい」
歴史を真摯にまなべば、真実ってなんだろうっていう深いため息がでてくるとおもうのですが・・・。
イタイ、非常にイタイひとです。
人間としては素直な人なんでしょうけど・・・・。
映画で歴史的真実が伝えられるとおもっているなら、映画史の勉強もたりないのではないのでしょうか。
今学期、こともあろうか日本史をおしえることになりました(号泣)
真実に近づくというのがどんなにむずかしいか、歴史とはなんなのかということを初回に100分かけて話し合いたいと思います。(正解はもちろんありません)
こんにちは。
こういうインタビューのときに『当時、中国が国際連盟で「南京の死者は2万人」と演説していたことについては、どう思います?』なんて聞いちゃいけないんでしょうか?
EHカーの『歴史とは何か』によると、
”観察された「事実」をつめこんだ頭陀袋をかきまわしながら、そこから、観察された「有意味」な事実というものを選び出し、繋ぎ合わせ、一つの型に作り上げ、他方、「無意味」なものを捨てて行って、最後に「知識」という論理的で合理的な編物を編み上げる”ことで作られるものだそうです。(153頁)
To ハルカミルさん
表向きの理由は、女性の胸(乳房)がまるみえのシーンがある、というのらしいですが。
To goldenpig1000さん
歴史の真実、ということば軽々しくつかって欲しくないですね。せめてあなたにとっての、歴史の真実、くらいで。まあ、つくるというものをつくるな、とは言えないし、つくるというなら、どんなものを?と知りたくなるわけです。それが、なかなか認可が降りないというなら、なぜ?と考える。中国人が中国人らしいやり方でもとめる、中国人にとっての歴史の真実とは?この映画ができたあかつき、彼がインタビューに答えた解釈、目的がどれほど変わったかをみれば、中国当局が恐れているものもおぼろげながらわかるかもしれません。そういう個人的な好奇心からインタビューし、彼が作りたいという映画をみてみたい、とも思うのです。それが国益にマイナスだという主張もあるでしょうが、実はなにが国益にマイナスか、なんてわからないのでは。物事は人が予想できない影響をもたらすからおもしろい。
To nhatnhan625さん
彼もたかが映画ごとき、といっているわけですし、映画がエンタメでノンフィクションであるということはよくわかっているようです。歴史の真実、というのは、常套句で使われますが、使われるほどに薄っぺらくかんじますね。中国人自身がよく言っていますが、中国には歴史観なるものがないのだそうです。歴史とは何か、学生とどんな討論になるのか、興味あります。
To kakashiさん
もちろん、いいです。彼も東京裁判時に2万人説であったことは知っていたみたいです。彼の死者数の根拠は、インタビューに書いているとおり、私の知らない資料によるもののようです。
>嘘を嘘と見抜くことより
>まるで嘘のような真実を真実と見抜く方が
>はるかに難しい。
http://antikimchi.seesaa.net/article/30044171.html
■中国福建省で鳥インフルエンザが女性に感染
http://www.sankei.co.jp/kokusai/china/070301/chn070301001.htm
「鳥(家きん)→人」感染って本当? 「人→人」ではないかと。(感染が起こっていても、実際に発症するのは、軽い症状、重い症状合わせて、約半数程かと。重篤化はほんのごく一部ではないか。)
鳥→人は、ウイルスの宿主特異性から言って、まずありえないのですが…。「鳥インフル」ネタは非常に胡散臭く感じております、個人的に。思い過ごしであればいいですが…。
あっ、高山センセーだ。
http://antikimchi.seesaa.net/article/35033678.html
To ブリオッシュ或いは出べその親方さん
中国はながらくその作業をさぼってきたと思います。中国人がこういう映画をつくろうとして、なおかつ日本市場を意識したりして、日本側の視点をさぐろうと努力するということは、中国人が歴史とは何かを考える第一歩になるやもしれません。陸監督には2人の日本人の副監督がおり、日本人の南京戦の見方をアドバイスしたり、日本側資料を捜したりしているようです。この副監督たちが、どれほど南京事件を研究し、的確なアドバイスをし、監督と討論できているかが重要だと思います。
福島さん、
「国際関係学院」なら何処でも特務養成機関でしょう。北京なら、?和?近くにありましたね。今はどうか知りませんが。人を篭絡するあらゆる手段を学んだことでしょう。福島さんもトラップに掛かりましたね、うふふ。