上海の結構でっかい花火!

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 ■盛者必衰のことわりか

  上海閥の落日近し

  上海経済へのダメージは?

 

 

 ■少々タイムラグがあったので、もう語り尽くされているだろうか。上海閥のプリンスと呼ばれていた元上海市委書記、陳良宇の解任事件である。外資系企業の中にも、ついに上海閥の栄華も落日のときがきたと感慨にふける方、上海市当局と浅からぬ関係があり少々びびっている向きがおられよう。何を隠そう、産経新聞とて中国総局開局までの交渉は上海閥が相手であり少なからぬ縁がある。だから私の業務留学先も上海だった。というわけでなんかヒトゴトでない気がする今回の事件。胡錦濤の追撃の手はどこまで伸びるのか。

 

 ■胡錦濤政権が来年の第17回党大会前の権力完全掌握に向けて、江沢民前主席を中心とした上海閥一掃に動き始めている。これまで小さい花火はぽんぽん上がっていたことは当ブログでも紹介ずみだが、陳良宇という大物が、6中総会(10月8から11日)前、国慶節前に片づけられるとは多くの人の想定外ではないかったか。この事件は、胡錦濤、あなどるべからず、と上海閥と連なる人々や江沢民によって今の地位についた地方トップの面々の肝胆寒からしめたことだろう。

 

 ■ここで上海閥とはなんぞや、ということをちょっとおさらい。1989年の天安門事件で趙紫陽総書記が失脚したのち、ときの最高権力者、鄧小平はその後継者に、上海市党委だった江沢民が大抜擢されたのだった。中央の権力とはまったく縁のなかった江沢民は北京にきたころは周囲からなめられ、かなり悔しい思いをしたそうだ。しかしなんと言っても党中央のトップ。人事権をふるに使い、当時上海市委副書記だった曽慶紅やら、上海市党委書記の呉邦国やら黄菊やらをばんばん抜擢し、中央政治の中に上海出身者による派閥を作った。

 

 ■この派閥をより強固なものとする事件が、第15回党大会を二年後に控えた1995年に発生した「陳希同事件」である。権力を拡大する上海閥に対し、当時「北京王国」を標榜し、江沢民と真っ向から対立していた北京市党委書記、陳希同氏を汚職を理由に解任に追い込み、当時の福建省党委書記の賈慶林を後釜に据えたのだった。この「陳希同事件」のドラマチックな内幕は小説「天怒」(陳放著、リベロ刊)に詳しく、中国政治の謀略のものすごさを理解するためにも一読をオススメする。

 ■10年あまりにおよぶ江沢民の治世の間、彼が任命した地方トップも含めれば上海閥の層は厚く広範だ。これを今、胡錦濤政権が同じやり方で平らげ、自分の派閥、つまり共青団(共産主義青年団)閥を拡大しているまっ最中である。そして、かつて江沢民が陳希同をつぶしたように、同じ汚職問題で陳良宇を排除、後釜に共青団閥の韓正・上海市長を据えることに成功した。陳良宇は中国の昇竜「上海王国」に君臨する王様で、胡錦濤が推進する経済抑制政策や内外資企業統一税導入などの政策にも公然と抵抗するなど、胡錦濤の目の上のたんこぶでもあった。

 

 ■今回の汚職というのは、市当局の公的基金(社会保障基金、32億元)をコネのある大企業に不正融資したというもので、中国人の特権階級なら誰でもやっていることである。そんなありきたりの腐敗で、陳良宇のような大物が失脚したということは、江沢民が彼をかばいきれなかったということであり、すでに江沢民の政治的影響力が失墜していることの証でもある。

 ■実際、胡錦濤が8月に開始した「江沢民文選学習キャンペーン」は、江沢民が「過去の人」であると、周囲に公言したものと同じと、受け取られている。軍関係筋に聞くところによると、江沢民は重い病(がん?)を患い、寧波の普陀山など国内の有名寺院巡りに明け暮れているとか。彼は自分の派閥を守るどころか、今や自分の一族が汚職で捕まらないように、神仏に祈っているところではないか。


 ■ちなみに曽慶紅は江沢民と袂をわかち胡錦濤との協力体制に転じている(前軍関係筋、香港筋)。沈む船からネズミは逃げ出すのだ。

 

 ■さて、この上海閥がどこまで排除されるかが、今後のみどころである。上海市の陳良宇の子飼い部下らは、一掃されるとの見通し。で、さらに黄菊・政治局常務委員と賈慶林・全国政協会議主席が危うい。ふたりとも汚職の証拠を胡錦濤に握られているという。黄菊は病気説を流しフェードアウトするかにみえたが、彼の妻、余慧文は、この陳良宇事件との関連で目下取り調べを受けているそうで、黄菊の責任が表面化する可能性はけっこう大きそう。


 ■さらに気になるのは、余慧文から江棉恒、つまり江沢民の長男の名前が出てこないとも限らないという点だ。香港雑誌「開放」は、大胆にも胡錦濤の次ぎの目標は「江棉恒」、と予測している。

 

 ■覚えておられるだろうか、2003年5月の中国銀行香港法人の総裁、劉金宝が上海大富豪の周正毅に巨額の不正融資をしたとして解任された、のちに周正毅事件とよばれたあの事件を。あのとき、江沢民の力がまだつよく、結局、周正毅は株価操作とかちゃちい罪で懲役3年の判決を受け、事件はうやむやのまま終わってしまった。

 ■しかし、「開放」によればすでにあのとき、捜査は江棉恒にも及んでいたのだという。中国科学院副院長でもある江棉恒は、その地位につく前から上海で投資会社を経営、表向き国営企業だが事実上、江棉恒の私有財産とされ、上海経済界では大ボス扱いだったという。その江棉恒は台湾実業家の王永慶と合資で宏力微電子公司を設立(2000年、総投資額64億元)。このときの資金は江棉恒が、当時中国建設銀行頭取だった王雪氷(汚職で失脚)、そして中国銀行上海支店長だった劉金宝(汚職で失脚)にコネで融資させた金だったという。


 ■さらに、周正毅事件が表面化するきっかけとなった上海市静安区・普陀区の再開発問題でも、周正毅に問題の土地の使用権を地区当局に働きかけて与えたのは、上海政府と経済界に強い影響力を発揮する江棉恒、江棉康兄弟という。周正毅は江沢民の二人の息子に一生懸命貢ぎ物をして、膨大な土地の再開発権を得た。周正毅事件は、この再開発で立ち退きを迫られた住民が中央政府に告発文を出したことにより明るみになったとされている。(開放の記事を、軍事関係筋などで裏付け)


 ■果たして、この上海閥掃討作戦は、江沢民ファミリーにまで及ぶのか。はっきりいって中国の特権階級ほぼ全員がすねに傷持つ身なので、やりすぎは地方政府のつよい反発を招きかねない。個人的には、ちょっとムリ目?え、やるの?と思うのだが、読者のみなさんのご意見は?

 

 ■ところで、今回の事件をどうせ、他国の政争でしょ、日本には関係ないもん、と言う方があるのであれば、それはちょっと違うと思う。胡錦濤VS上海閥は、単なる政治上の面だけでなく、新左派VS自由主義という経済政策の対決でもある。ご存じのように江沢民は改革開放をすごい勢いで推進し、上海への外資導入を集中させ、めざましいGDPの伸びを実現してきた。その結果、ものすごい貧富と農村経済の遅れによる社会不安が生まれた。

 ■今、中国経済は岐路にたっており、江沢民路線を引き継いで、中国市場の開放を推進して自由競争を肯定してゆくべきだという「自由主義派」と、経済抑制政策により経済成長に突っ走る都市にブレーキをかけると同時に、国内企業保護や農村の社会保障制度の充実など優先させるべきだという「新左派主義」の二つの理論がせめぎあっている。

 

 ■胡錦濤は新左派主義よりの中道路線で改革開放の方針は堅持するようだが、それでも経済過熱を抑制し、外資からしっかり税金をとって、農村建設に還元しようという考えだ。上海閥はこれに抵抗し、外資優遇政策をつづけ、開放経済の推進によって成長のエンジンを回し続けねばならない、としていた。

今回の上海政変で、陳良宇はじめ上海閥幹部が総入れ替えになり、胡錦濤に忠実な上海政権ができれば、上海経済政策はやはり変わるのでは?

 

 ■今のところ、株価にあまり影響はでていないが、今後は少なくとも今までのように上海が頭ひとつ抜けて優遇される状況は変わってゆくかもしれない。たとえば、上海ですでに始動しているプロジェクトにストップがかかったり、市が独自にみとめてきた外資系企業への優遇政策も引き締められる可能性があるかも。がんがん上海(グレート上海を含む)に投資してきた日系企業も少なからぬ戦略調整に迫られるのでは?

 

 ■いや、これは私の妄想ですけどね。でも中国では政治と経済は日本以上にダイレクトにつながっていることは間違いない。いずれにしても、みなさん、中国ですから。気をひきしめていきましょう?

 

 

参考までに以前のエントリー

http://fukushimak.iza.ne.jp/blog/entry/17799/

 


http://fukushimak.iza.ne.jp/blog/entry/11904/

「上海の結構でっかい花火!」への12件のフィードバック

  1. 福島さん。来ましたねー。大きいのが。
    そう言えば今日も鄭州で処分とか出ていましたけど、関係あるのでしょうか?目が離せませんね。私も福島さん同様、胡錦濤氏は経済発展にストップをかけ、農村重視で行くと見ています。そろそろ揺り戻しの時期ではないでしょうか。
    知り合い曰く「口先だけの江沢民とはちがい、彼はやるときにはやる」人物だそうです。台湾も経済も危険ですね。

  2. 香織さん、こんばんわ、
    凄い事になりましね、何につけ、大国のダイナミズムは凄いものですね。櫻党さんは、経済発展にストップをかけ農村重視と観ているようですが、可能でしょうか、私には中国経済は自転車操業に見えるのですが、安い土地と安い人件費だけで、国家経済は立ち行かないと常常観ておりますが、盗んだ技術がお金に変わるにはまだ時間が足りない、高い軍事費、高いエネルギー、多額の外貨準備は、国民を潤わすわけではない事は、日本が経験済み金庫に有るのは手形だけ、このままオリンピックに突入すれば、終わった後のゆり戻しは想像を絶する光景が待って居るように思います。
    中国共産党に軟着陸させる能力はありますか?
    日本に居ますと中国、韓国は急に日本に擦り寄って来ているように見えます。なんとなく嫌な感じです私だけかもしれませんが、
    北朝鮮、台湾、中国は目が離せません。
    ひとつ気になることが有るのですが小泉さんが辞めるときに中韓に対し、反日を続ければ後で後悔す、と言い放していましたが、
    彼なりの一流の感で何か見えていたのでは。

  3. 外資のツケは大きそうですね。これ幸いと地方閥があれこれ難癖つけて(フトコロに入れるための)徴税に励むと、外資は黙って従うのでしょうか?そんなメリットないでしょうから、やっぱり沈没前のネズミでしょうかね。
    左派思考で改革を進めれば、効率の悪い政治も経済もますます食べられない人民を増やすだけのような気がしますが。
    オリンピック前にはもう一度政権分捕り合戦があるように思えますね。

  4. >寧波の普陀山など国内の有名寺院巡りに明け暮れているとか<
    思わず笑ってしまいました。江同志はマルクス主義者じゃなかったのですね。
    それはそうと、胡錦涛の新左派よりの路線、我が国の高度成長時代をモデルにしてということでしょうが、社会の基本構造が全く異なる社会なのにうまく行くとは考えられません。
    ただ一点、我が国から学ぶとすれば、憲法第9条でしょう。
    中国に一番必要なのは「平和を愛する諸国民の公正と信義に(を)信頼して、われら(自国)の安全と生存を保持」する以外に道はありません。もちろん、自衛権はしっかりと維持してです。我が国は勿論のこと、アメリカ、EUも最大限の協力を惜しまないでしょう。
    福島記者の莫言さんへのインタビュー、毎朝楽しみにしています。

  5. こんにちは。
    福島さん、中国がどんな改革をしようが、あまりにも大きくなりすぎましたね。技術も資源も無い、あるのは人力だけ。
    わが国のバブルとは違いますよね、やはり自分の分をわきまえてコツコツと国民を納得させて、13億人の協力を得て今のような経済力なら恐怖ですが、我々の常識が、世界の常識が通じない国民の文化を一気に変えられるわけは有りません。
    余にも巨大になり、崩壊が始まると止めようが有りません。不安定になれば、外資がまず一番に逃げるでしょう。既にその兆候は見えていますから後は時間の問題ですね。また日本に、すがり付いてくるのは確実でしょう。
    お疲れ様です、美味いもん(日本産)食ってますか?
    身体だけは大事にしなくてはね。

  6. sakuratou さま:やるときはやる、胡錦濤ってそういうかんじですよね。あと融通きかなさそう。

  7. benkei さま:いやあ、すごいことになりました。一応胡錦濤VS上海閥、 新左派VS自由主義の構造でみていましたが、ここに新たな要素がありそうです。それは、曽慶紅VS江沢民??目が離せません。

  8. nhac-toyota さま:外資はけっこう、税金問題とか環境問題とかで絞られる気がしますね。左派の巻き返しといっても、改革開放はすすめないと、中国経済全体が失速しますから、いろいろと舵取りが難しい気がします。

  9. weirdo31 さま:江沢民夫人は敬虔な仏教徒といわれています。そして悪行のかぎりをつくした?江沢民も今は後悔して、神仏に帰依?莫言さんのインタビュー、読んでくださっているんですか、ありがとうございます。

  10. くぼた さま:日本のバブルは、あきらかに金融政策のミス。でも、中国の経済問題は体制の問題。根深さが違います。きのう、日本食レストランで、さんまの塩焼きがありました。日本産さんま68元、中国産さんま48元。検疫でヒ素が出た、といわれても日本産さんまの方が高いんですねぇ。もちろん日本産さんまを注文しました。

  11. >私の業務留学先も上海だった。
     先々週の探偵ナイトスクープで、戦前に中国にいた82歳のおばあちゃんが、子供のころ上海でよく食べた「どべちゃん」をもう一度食べたいというので、「どべちゃん」を探す話をやってました。
     そして、神戸の南京街の上海料理屋の中国人のばあさんが、「それ知ってるよ」と作って出したが、麻婆豆腐。でも、日本の麻婆豆腐とはだいぶ違ってましたね。ちなみに「どべちゃん」とは豆板醤のことでした。
    (更新のない日は前のを読みながら待ってま~す。)

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