偽の偽札と真の偽札と偽の真札と真の真札。

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■あけましておめでとうございます。大晦日から正月までは、賀状書きと実家の大掃除にあけくれ、3が日はほぼ10年ぶりに一族郎党が両親の実家にあつまりローカルなお正月を迎えていました。ところでその間、世界では中国とASEANのFTAがスタートしましたね。32億人市場が登場し、人民元決済が急激に広がっていく雰囲気に。China13億のお客さまが所望すれば、そりゃ人民元決済も広がるでしょうよ。というわけで、これからは人民元をもっているヤツが勝ち組?

 

■なら、虎の子退職金をいっそ、人民元に換金して中国工商銀行に全額定期預金しちゃいませんか、というアドバイスを先日うけました。人民元はユーロのような、アジア統一通貨になるんでしょうか。円やドルの資産は今のうちに人民元に換えておいた方がお得なんですかね。たしかに、私が北京勤務になったとき、全財産を人民元に換金して定期預金にでもすれば、いまごろかなり、増えていたと思います。でも、最近とあるコラムを読んで、やはり人民元に換金してなくてよかった、と思いました。

 

■松村テクノロジーの松村喜秀社長のコラム(http://www.nikkeibp.co.jp/article/sj/20091204/199237/)です。

有名サイトなんで、読んだ方も多いでしょうが、あまりにもおもしろすぎるので、ここにアドレスをはっつけときます。

 

■松村テクノロジーというのは、世界最高水準の偽札鑑別機を作るメーカー。偽札鑑別技術は日本が世界最高水準なんですってよ。中国の偽札の量がとんでもない、というのは今にはじまった話ではないのですが、このコラムのキモは、偽の真札が中国に存在するということでしょう。

 

■なんじゃ、偽の真札というのは、とお思いのかた。中国には偽の偽札、真の偽札、偽の真札、真の真札の四種類の人民元がある、という噂ですのよ。

 

■松村社長は、おそらく中国様の体面をおもんぱかって、はっきりとは書いておられませんが、中国の本物の造幣局(?)で作られた偽札、つまり品質、価値ともに真札とかわりないけれど、中央銀行(人民銀行)が数量を把握していないお金がある可能性というのもあるわけです。今回、松村テクノロジーに持ち込まれた同じ製造番号の紙幣こそ、どう考えても、そうだろう、と誰もが内心思ったはず。でも、そうつっこめませんよね~。それは、当局が自国の製造紙幣の番号管理がぜんぜんできていないということになり、つまり経済の基本である通貨の信用が失墜する可能性につながるからです。本来なら、国家経済大パニックであります。

 

■ちなみに偽の偽札と真の偽札については、私が昔、北京春秋というコラムに書いたことがあります。もう、ネットサイトでは消えてなくなっているので、ここに再掲載。

 

[北京春秋 ニセ札天国] (2007年5月2日)

 いくらコピー王国、中国だとはいっても、携帯電話メールで堂々と「ニセ札売ります」の
宣伝が入ってくるのにはさすがにあきれてしまう。こんな事件が最近、あった。

出稼ぎ仕事の手配師2人が出稼ぎ農民らへの給料用にとニセ札を買うことにし、
安徽省のニセ札屋から20万元で100万元分のニセ札を買った。だが、帰って札束を
確認してみると、束の最初の数枚と最後の数枚だけが本モノのニセ札で、中は白紙。
途方にくれた2人が「20万元詐取された」と警察に届けたところ、2人ともお縄に…。
ニセのニセ札をつかまされたドジな悪人は笑えるにしても、銀行のATM(現金自動預払機)
からもニセ札が出てくるとなれば笑いごとではすまない。

南方都市報によれば、広州市の農業銀行のATMで、男性が5000元を引き出したところ、
100元札20枚分のニセ札が出てきたので、銀行にかけ合ったところ、「ATMでニセ札が
出てくる可能性はゼロに近い」と取り換えに応じてくれなかった。ATMから偽札が
出てくるのは、私自身も体験ずみなので、男性には大いに同情したよ。

こんな状況で金融市場の国際化をうたう中国っていい度胸!?(福島香織)

 

 

■偽の偽札というのは、どっからどうみても本物には見えない、これでは絶対に人はだませない粗悪品の偽札、あるいは白紙。真の偽札というのは、一見本物。慣れたひとがじっくりみれば偽札とわかるが、普通に市場で流通し、ときには銀行のATMからもでてくる偽札。

 

■松村社長によると、市場の人民元の20%が偽札だそうですが、この場合20パーセントというのは、真の偽札のことだと思います。

 

■で、多くの中国人の間では、これ以外に偽の真札というのがある、というのが信じられていた。つまり本当に紙幣をつくる人がこっそり横流し用の紙幣をつくる。インク、紙、印刷技術とも本物だが、マネーサプライ量に含まれていない幻の札。なぜ、そんなことを考えるかというと、マンションの一室などでこっそり売られている格安のエルメスやプラダなどのブランド商品は、まさしく本物のブランド品を作っている工場を夜中や休日にこっそり稼働させてつくった、偽の真ブランド品だからだ、そうです。これは売っている人がそういってました。もっとも、品質は本物と変わらない、という趣旨のセールストークでいうわけですから、本当のことをいっているという保証もありませんが、そう信じられている。

 

■検品チェックをうけていないので、ブランドの製造番号は架空だったり二重番号だったりするがプロの鑑定者がみても、偽物と鑑別できない、そういうレベルの商品は確かにあります。いわゆるアウトレットと同じだが、要は本社側はその数量を把握していないそうです。ブランド品でも、そんなものを作ることができるのだから、紙幣だって、そういうものがあっても不思議じゃない、というんですね。

 

■ちなみに、中国人が言う面白い言い回しに、真の偽GDPと

偽の真GDPというのもあります。真の偽GDPというのは、いわゆる水増し報告。GDP増の実態がないけど数字上は水増しして報告する数字のごまかしです。一方、偽の真GDPというのは、橋をつくる、しかしその橋が手抜き工事で竣工後、すぐ落ちた。でまた建て直すが、その橋はあぶなくて使えない。するとGDPは数字上は橋をひとつつくるときより倍になりますが、橋を造ったことの意味はないに等しい。インフラの充実だとか国民生活の向上に結び付かない数字のマジックみたいなGDP。

 

■というわけで、偽の真札の上に偽の真GDPの数字がのっている中国経済を数字上で判断するのは大変難しく、今後日本経済の牽引車としてどこまで信用し頼りにできるかは、やはりかなり注意深い観察と機敏な判断がもとめられるようです。もっとも、製造業の要である安い労働力がまだまだ底をついておらず、消費の主体となる中産階級が順調に増加していることを考えれば、世界の工場としても市場としても、力強いというのは確かでしょうが人民元が国際基軸通貨になる、というのはやはり、あと50年くらいかかるかなあ。

 

■さて年末の大掃除のときに、けっこう大量の人民元が出てきました。甥っ子や姪っ子のお年玉に使おとしたら、両親が本気で怒って反対しました。5年10年の中期では元高はまちがいないよ~、と私がいっても、こんなブログ書いてしまっているので、説得力がありません。

 

 

 

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「偽の偽札と真の偽札と偽の真札と真の真札。」への14件のフィードバック

  1. あけましておめでとうございます。
    今年も福島さんらしい視点のエントリーを楽しみにしています。
    マイペースで頑張ってくださいね。
    通貨については、中国の歴史上管理が出来た験しって無いみたいですねぇ・・・取りあえず流通している。私鋳銭が当たり前に流通し、必ずしも鐚銭(びたせん)と言うわけでもなくwww
    結局、貨幣の流通量をコントロールできない訳ですから、金融政策で将来的には苦労する事でしょう。まぁ、ドル資産の裏づけだけが信用だと思った方が良いのでしょうね。これ日本も五十歩百歩の部分がありますけどwww

  2. 結局こういうことですか?
    1)政府の監督のもとに指定印刷工場で印刷された正式な紙幣
    2)政府紙幣を一般人がまねた偽札
    3)一般人がまねた偽札に見せかけて実は偽札ですらないもの
    4)政府の監督を受けずに指定印刷工場で印刷された正式な紙幣同等品

  3. 香織師匠
    あ、年賀状未だ書いてなかった…
    > …中国経済を数字上で判断するのは大変難しく、今後日本経済の牽引車としてどこまで信用し頼りにできるかは、やはりかなり注意深い観察と機敏な判断がもとめられる…
    国際間で「決済」って奴を全て人民元の札束で行うわけでも無いのだけれど「偽の真札」はマジに怖えぇ噺ですなぁ?
    上海万博控えて「明るい中国経済」の話が日本のマスメディアでやたら語られること自体はまあええのですが、国際決済の実態とか中央銀行の通貨管理方針とかはあんまし解説しないよなぁ…ドルペッグ制続けるか止めるか未だ決めてないのもようわからんし…
    > お年玉に使おとしたら、両親が本気で怒って反対しました。5年10年の中期では元高はまちがいない…
    香織師匠の見立ては正しいと思う…が、御両親のお怒りもごもっともですな。
    お年玉はやはり貰う側が使い易い形で、だろう…と、図書カード渡す叔父が言ってみたりする…w

  4. 偽札の話をおもしろく読んだあとこう思いました
    真の真札でも刷りすぎだから米ドルは偽札なみに信頼できない
    けっきょくのところ人民元を持っている方がカチ

  5. 面白いお話ですね!!!
    やっぱり金が大事なんですね!!!
    だけど私はどうにもできないな。
    ため息です。

  6. 明けましておめでとうございます。
    今年は読者の勝手な希望としては、これまでの新聞記事やブログを元にしても書き下ろしでもいいので、できれば中国、または新聞をテーマにした「新書」を出していただければと思います(なんとなくですが、形式や市場性としてそれが一番いいように感じました)
    すでに多数の編集者からそういった提案があると思いますが、よろしくお願いします。

  7. 再三すみません。
    >人民元が国際基軸通貨になる、というのはやはり、あと50年くらいかかるかなあ。
    もうその頃には通貨単位も変わっているでしょうね(苦笑)。

  8. 福島様 あけましておめでとうございます。
    私も年末年始は奈良の実家で過ごしてきました。
    さて 偽札話ですが私も何度も出会いました。
    受け取ってしまったら出来るだけ早く夜のタクシーで使ってしまうこと。銀行などでは換えてくれませんから。
    同じ番号の札。少し短いもの。紙質が微妙に違うもの。
    銀行の窓口で受け取った札も一枚ずつ確認して疑わしい札はその場で返品交換してもらいます。ATMは出来るだけ使いません。偽札が多いので現金を使わないように、銀行カード(銀聯)で直接支払いが出来るところが多いのですね と勝手に納得。
    私はRMBとTWDとHKDで分散預金していますが、HKDは既に価値消滅の危機。RMBも海外送金が出来るようになればよいのですが。今のままでは使えないですね。

  9. 明けましておめでとうございます。
    ところで、
    >さて年末の大掃除のときに、けっこう大量の人民元が出てきました。甥っ子や姪っ子のお年玉に使おとしたら、両親が本気で怒って反対しました
    自分の娘が中国現代史の専門家であることを親御さんたちは理解したくないのですね。どこの家でも親は子供が打ち込んでいることに無理解なんですよねえ。
    でも、ご両親が健在であればそれでよしとしますか。

  10. 上海は不動産の高騰が続いてバブルと言われていますが、日本のバブル期に見られた現象の中で特に見られないのが、大卒(新卒)の取り合いとも言える採用過剰状態です。不動産や物価だけはどんどん上昇し、地下鉄やビルの建設はばんばん進められる中で庶民はあいかわらずの低賃金で生活し、有名大卒でも仕事が見つかりません。大卒の求職難が今の院生留学ブームになっています。どうして中国にはホワイトカラーの仕事が圧倒的に不足しているのか、書いていただけませんか。

  11. 初めてブログを訪れました。
    とても面白い話が満載でした。
    今後ものぞかせていただきます。

  12. 人民元は基本的にドル・ペッグですから、5年や10年じゃ基軸通貨にも成りませんよ。ドルが暴落すれば、必死に買い支えなきゃいけないのが人民元の性ですからね。要するに米国の通貨政策に、人民元が支配されるだけ。

  13. ピンバック: まと速 ニュース

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