■長くややこしい管理規定を全部書いたら、1万字をこえてしまったよ。読んでくれた方、ありがとう!この新たな管理規定を理解するには、まず、中国における動画サイトとはどういうものかを説明する必要がある。
■中国には動画サイトが山ほどあり、福島も愛用している。2005年以降に登場。土豆(ポテト)ネット、優酷ネット、我楽ネット、六間房…もう数え切れない。500前後はあるみたいで、多くは民営企業で、ケイマンとかバージン諸島経由の謎の外資が入っているものも結構ある。アップされているのは、ネットユーザーの手による自作ビデオやフラッシュアニメ、MADムービーと呼ばれるパロディ動画などある種クリエイティブなものから、海外ドラマ、映画、アニメに中国字幕を付けたものから、中国の地方テレビニュース番組、検閲でカットされた中国映画「色・戒」のトニー・レオンとタン・ウェイの激しいベッドシーンなど、もう何でもありの、フリーダムぶりを発揮している。最近では、記事でも紹介したが、元北京テレビキャスターの胡紫薇さんの不倫暴露会見が話題をよんだ。
■私のような新聞記者にとっては、農民の暴動があったとか、住民の大規模デモがあったとか、そういう地方の事件で当局が確認に応じてくれないウワサが、ときにこういう動画サイト(youtubeなど外国のサイトも含む)の動画で確認できることがうれしい。たとえば、黒竜江省の農民の土地奪回宣言は、農民代表のインタビュー動画を見つけることができた。地方で隠蔽される不条理な事件、たとえば都市管理当局者が、露天商に殴る蹴るの暴行をしている様子とか、地方の中学校の生徒の非行っぷりがわかるイジメ現場の動画とかも、何者かによってアップされていたりする。
■中国では世界でもトップクラスの厳しい報道・情報統制、ネット検閲システムがしかれているが、動画については用語検閲のフィルターが使えないので、最も統制の甘い分野だった。もちろん、アクセス数がのびると、削除されるのだが、なにせ手作業でのチェックなので、監視の網を逃れるものの方が多い。これじゃ、ラテ総局の存在意義ないんじゃないの。中央宣伝部の指導力失墜と言われても仕方がないね、という意見はかねてからあり、動画の検閲強化を急いでいた。
■で、このほどこの管理規定を発表。ようするに、動画サイト運営も、テレビ・ラジオ局のように国有企業に限定しよう、という。国有企業というのは、国家機関が株式の51%以上を持つ国有の株式会社も含む。ついでにこの規定実施を機に、ネット動画管理の主導権は、情報産業省など電信部門ではなく、党中央宣伝部とその傘下のラテ総局が握ることになった。
■ネット動画サイトの国有企業化は、情報統制強化と同時に、もうひとつうま味が期待されているようだ。急成長市場である動画サイト市場の利益を国有企業が寡占できるのではないか、という期待だ。
■現在、中国のネットユーザーは1・6億人をこえ、2億人を突破して、世界一のネットユーザーをかかえるネット最大市場を形成する日も目前だ。中国のネット産業は、世界ネット企業の垂涎のまとであり、だからこそ、グーグルもヤフーも、中国の検閲システムに与しても、中国市場に食い込みたかった。動画市場は2010年に34億元市場(広告収入)に成長するとの研究報告がある。映画の昨年の料金収入が33億元というから、これは大きいとみられている。急成長動画サイトの優酷も広告収入が1億元を超えたとかで話題になっていた。しかし、中国ネット動画市場においても、youtubeなど外国動画サイトの人気が高く、多くのネット動画サイト企業も外資が入ったベンチャー企業だ。今回あらたに動画サイトの国有化を規定するのは、この外資が席巻する市場を奪いかえそう、という狙いもありそうな…。
■さらに、ネット動画のコンテンツも圧倒的に外国製のものが多く、国内コンテンツ産業保護という狙いもありそうな…。この管理規定の前日の12月28日には、「ネット上の映画・ドラマ放送管理強化の通知」というのも出されて、ネット動画サイトで人気のある、日、韓、米のドラマやアニメについて、許可証なしに放映することはまかりならなん、としている。これは、日、韓、米側の著作権保護の視点では歓迎することかもしれないが、中国の本音でいえば、検閲で流入を阻止している欧米、日本のただれた資本主義的価値観の映画やアニメが、ネット動画サイトを通じて勝手に流入するのは文化侵略だ!という危機感がある。
■さて、この管理規定を受けて、ネット動画サイト側の対応はいかに。一応、土豆ネットの王微CEOに取材を申し込んでいるが、春節あけまでは、忙しくて応じられないそうだ。ネット上で散見される王微CEOの態度をみるに、「静観のかまえ」。「土豆ネットはなにも変わらない」という発言もあり、31日にいきなり閉鎖、という感じではないかもしれない。土豆ネットのライバルの優酷ネットの古永ショウCEOも、「政府の関連部門と協力してゆく」と落ち着いた様子。大手ネット動画サイト企業には、事前に当局との協議がもたれたというウワサもある。
■こういう見方がある。国有化されるとしたら、主だった優良サイト企業にたいして、国家機関や国有企業による増資が行われるのではないか。目下、中国のネットベンチャー企業は、ケイマンとかバージン経由のリスクの大きい投資を受けているケースが多く、国家が国内のネットベンチャーに、大規模な資金を投入するなら、産業的には安定し歓迎すべきことではないか。
■一方で、こういう見方がある。ネットは国境の壁を超越したバーチャル空間であり、そこで国有企業だけOKとかいう発想自体が、市場経済のグローバル化に逆行している。
中国のネット市場は鎖国するつもりか。そもそも数週間で、国有化しろ、という暴力的な命令を一方的に通達するなんて、普通の法治国家ではありえない!!
■いずれにしろ、この規定がゲンミツに実施されれば、500前後ある動画サイトはかなり整理されるだろう。それにより統制管理はぐっとしやすくなろう。ただ、動画サイトが国有化されることで、中国民族系動画コンテンツ産業が発展したり、国有ネット企業が繁栄するというのは、あり得ないと思う。いや、むしろこういうつまらないおふれが徹底されれば、中国の動画サイトは、本当に中身のないつまらない内容になって、ユーザーはyoutubeなど外国サイトに一層、流れていってしまうのではないかな。
■中国が本気になれば、外国の動画サイトへのアクセスをシャットダウンするだろうし、実際youtubeはときどきシャットダウンされている。中国のユーザーを外国のサイトからシャットダウンし、むりやり国内の国有サイトだけを見せる、ということも強権を発動すれば、できるだろう。だが、そうすれば、中国のクリエイターたちは、海外の情報から刺激を受けて、自らの能力を琢磨することもかなわず、国内のネットコンテンツ産業、クリエイティブ能力はますます衰え、中国製コンテンツはますますつまらない、というレッテルが貼られてしまうのではないかな。
■中国経済の最大の弱点は、ソフトパワーの欠如、自主創造力の欠如だが、こういった時代遅れの統制をやっているかぎり、それを克服することはかなわず、所詮、大規模な市場と安い労働力を提供して外国企業をもうけさせるだけの国で終わってしまうのではないかな。
■さらに加えていえば、一度、外国の自由な情報やおもしろいコンテンツを享受した中国ネットユーザーからいきなり、それらネット上の娯楽を取りあげて、見たくもない中国産コンテンツを押しつければ、その不満は大きな社会不満となって蓄積されるのではないかな。格差拡大などからくる社会不満を、「パンとサーカス」でなだめる式の政策をとっている中国としては、国民がこれほど楽しんでいるネットの娯楽を取りあげるのは結構リスクがあると思うのだけれど。
■まあ、ひょっとすると管理規定を施行したはいいが、いっぱい抜け道のあるザル規定になる可能性もある。中国インターネットのあしたは明るいか暗いか、とりあえず31日の管理規定施行後の様子を見てから考えよう。
福島様 おはようございます。
>大規模な市場と安い労働力を提供して外国企業をもうけさせるだけの国
であるからこそ、どこもChinaの「崩壊」を望まないのでしょうね。国内があれほどひどいことなっているにもかかわらず。
■BaiduがGoogleを抜く方法【池田信夫 blog】
《中国共産党のウォッチャーも当ブログを読んでいると思われるので、ぜひBaiduのMP3検索を合法化してほしい。中国が世界の8割を供給しているともいわれる海賊DVDの映像なども検索可能になれば、Googleを抜いて世界のナンバーワンになることも不可能ではない。ここに「蟻の一穴」があけば、そこから19世紀以来のアンシャン・レジームであるベルヌ条約が崩壊し、ウェブで「共産主義」を実現することも可能だ。しかもコストはゼロである。毛沢東にもできなかった世界革命をBaiduがサイバースペースで実現すれば、21世紀は文字どおり中国の世紀になるだろう。》
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/7371b9af2d732b753926fc3aac2d692a
ご紹介まで。モノは考えようかもと・・・。
>大規模な市場と安い労働力を提供して外国企業をもうけさせるだけの国
こんな嘘も100回いえば本当だと信じる者がでる。恐ろしいことです。
福島さん。
お疲れさまです。
長~い翻訳、ご苦労様です。
やっぱ、この時点で情報統制するのは、オリンピックがあるからだと思います。
共産党にとって、国内の不愉快(愉快?)な、映像を海外へ流出しないことが、第一の目的では?と思います。
福島記者
久々の「赤字ツッコミ」だっ! ファンサービスに多謝♪
> …むしろこういうつまらないおふれが徹底されれば、中国の動画サイトは、本当に中身のないつまらない内容になって、ユーザーはyoutubeなど外国サイトに一層、流れていってしまうのではないかな。
いにしえの「革命理論=報道(情報)を制する者が国家を制する」って奴を忠実に信仰している事も一因でしょうかね?
ネットがオンデマンド型の情報配信形態である事を考慮すれば、全体主義(の国家)にとって非常に厄介な存在になり得るわけで、それ故に「ちゃいに?ず・うを?る」に多額の出費を行った中共政府ですが、動画までは流石にチェックしきれないか…
下手すりゃいずれは共産党員以外にネット使用禁止令を出しかねないですね。 日本だって携帯キャリアが青少年保護を掲げてアクセス制御を検討中ですから、ある意味「気色悪い兆候」がネットを取り巻く環境に表れ始めているのも事実ですけど。
ともあれネットの双方向通信という特性は、これからも当局を脅かし続けるでしょう…全体主義との共存なんてあり得んでしょうから。
福島様
社会主義市場経済に移行してからは、国有企業なんてどんどん解体されていっているのかと思っていたら、まだ作る動きがあるのですね。少し意外な感じです。
日本的な感覚(個人的かも?)だと、官僚の天下り先だとか、中央官庁の縄張り争い、なんて見方もできそうですが、中国においてはやはり思想統制の影響が大きいのですか?
こんにちわ。
「ざる規定になる可能性がある」そうなる可能性は高いと思います。
結局、政府と、一般ユーザーのいたちごっこになりそうな気がします。
外国のネットの世界を知ったユーザーが、それを取り上げられたとき、その不満がどこにぶつけられるか考えると怖いですね。
このネット規制はオリンピックが近いのも関係あるんでしょうか。
中国政府がオリンピック成功を一番と考えるのはわかるんですが、国民の不満解消も、それと同じくらい大切ではないかと。
福島さん
いつも楽しく、時には震えながら読ませてもらっています。
ネットの規制は両刃の剣ですね、それを解っていながらでしょうけど。
著書も買って読みましたが、その後も食の安全については色々と問題が出ているんでしょうね。
今日も、食の事件がありました。
「千葉県市川市で22日夜、中国産の冷凍ギョーザを食べた一家5人が、下痢や嘔吐(おうと)の食中毒症状を訴えて入院していたことが30日、分かった。5人とも現在、入院中で、うち5歳の女児が一時重体となったという。」
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/080130/crm0801301606022-n1.htm
どこまで続くのか、いや永遠に続くのかもしれませんね。
To thx1138さん
餃子事件、原因は何なのでしょう。製造元の天洋食品は日本への食品輸出も多い大手のはず。JTフーズさんが、日本輸入向けに注文して作らせた餃子であり、中国国内では売られていません。中国国内で報じられる残留農薬中毒でも、ここまでひどい例は最近あまり見ないです。一昔前の香港では、こういう農薬中毒よくありましたが。本当に餃子の中のニラとかが原因なのか、それともパックするときに間違って混入しりしたのか。あるいは犯罪?さっき、国家食品薬品監督管理局の報道官に電話したら「事件のこと、ぜんぜん、しらなかった。教えてくれてありがとう」とお礼をいわれました。日本側はまだ、中国関連部門や製造元に問い合わせもしていないんだね。まあ、まだ原因が中国側にあるのか、日本に来てからの問題なのかはっきりしないのだけれど。中国はぜひ早く原因究明の調査に動いて、日本の消費者を安心させてほしいものです。
国内での対企業テロのような・・・。(注射器でちゅちゅっと・・・。) この騒動で、最終的な一番の利益享受者はだれかというと、行政監視体制を強化しろという流れになって、役所の権限と組織が拡充補強、あるいは新組織がさらに作られ、っていうことは、新規の予算をあてがうということになって、結局は、騒動がおこることによって、役人組織にとっては、もっけの幸い、大助かりってなことになるのですが・・・。あまりに陰謀論すぎるようで、あいすいません(笑)。でも、明らかに、単なる過失ではない、意図的に起こされた事件でありますから、なんだかイヤ~な感じがいたします。地下鉄サリンのときのように。なかなか日本の役所のダウンサイジング(行政改革)も先に進みませんねぇ・・・。本当は企業の自分らが手がける流通製品に関する自己の安全管理と責任の問題なのですがねぇ・・・。役所の所為にもっていくのは、まんまと社会主義全体主義の企てに乗せられてしまうような・・・。
「新左翼とは何だったのか」
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/835394ca6cd5dc53b66c192e77962711
(私らの世代には、遠い花火のような感覚なんですがね・・・。まだその中で生きてる人々もいるようです。特に公務員の中に。)
同僚の方(産経デジタル 上坂元さん)も、被害にあわれたようですね。
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/crime/119297/
他にも、所沢で中毒患者が出てきてした。
千葉の女の子は、食べたとたんに気を失うほどの中毒症状が出たとか。
残留農薬でこれほどの強い反応が起こるとは、、、、、でも、軽い人も多いようですし、、、、
もっとも安全性が高いと思われているCOOPの商品での事件ですから、この波紋は飛びっきり大きくなりそうです。
To iza1211さん
その安い労働力で安い商品をつくり輸入に頼る日本が今、大騒ぎです。カメレスですみません!
To ニッポニア・ニッポンさん
百度のロビン・リー氏に取材を昨年5月から申し込みつづけているんですけど。敷居高いですね。
To iza-1kanaさん
そういう面だけではありませんが、愛国主義左派の人にはこういう批判を言う人ふえてきているようです。
To フォロンフォロンさん
心配していたのですが、いまんとこ、土豆もその他の動画サイトも運営しています。国内でも相当反発の強い規定だったので、追加に発表されるガイドラインでなんか、生き残り抜け道もできるような雰囲気ですね。続報はもう少し、様子見てから。
To 一閑さん
亀レスですみません。動画サイト、生き延びる公算が強くなってきています。ていうか、土台ムリな話しなんですよ。このグローバル経済の象徴みたいなネットビジネスの世界で。
To tokoさん
口でいうのと、実行できるか、というのとの違いはありそうですが。もう少し様子見。
To masa19861124さん
もはや、国民も多少の自由をしってしまって、それを後戻りさせるのは結構大変。私もザル規定であることを願います。
To pakaさん
影響力は大きそうです。食品安全の体制を見直すきっかけになる事件かもしれません。
To ニッポニア・ニッポンさん
事故でも故意でも、こういう事件をいかに防ぐか、被害を食い止めるか、という問題が重くのしかかってきます。