マザータウン重慶

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 ■ごぶさたしてます。一週間ほど重慶に出張にいって、土曜夜に帰ってきました。出張にいっても出張先から、きちんとブログを更新する阿比留記者のような方もいらっしゃるので、ブログ更新の滞りの言い訳にはなりませんが、ブロードバンドも国際電話もつながらないようなホテル&移動続きで、ほんとうに、物理的にムリだったのです。メールもほとんどチェックできていません。ルーティンの原稿もいっぱいたまっています。ううっ。しかし、無理をおして長期出張したおかげで、面白い人や風景にいっぱいであいました。どれを、どの媒体(産経新聞は媒体がたくさんある)に書いて、どれをブログに書くかは、精査の必要があるので、重慶報告は後回し。ただ、ちょっと、街の印象だけ、とりとめなく。

 ■重慶の犬は、太陽を見たら吠える(太陽は滅多に見えないから)。というほど、曇り天気の多い重慶。空気は悪いし、水もきたない、ゴミだらけ、という陰鬱な街との先入観があったが、実際訪れてみると、どこか懐かしさを感じる風景がいっぱいあって、結構気に入った。山の斜面に重なるように建つアパート、深い緑と灰色のコンクリートのコントラスト、うっとおしい天気に水のにおい、ゴミのにおい…。既視感がある、と思ったら、香港に似ていたのだ。私の特派員としての初任地。
 

 ■北海道ほどの広さと3000万人以上の人口を持つ世界一の巨大都市(でもほとんど農村だが)と、東京都の半分ほどに600万人以上が暮らす香港。気候も亜熱帯の香港とぜんぜん違うのだけれど、上へ上へと伸びるような街の形が似ている。北京や上海のように、巨大な平野にのっぺりと広がる街とちがって、こういう立てに長い、蟻塚のような立体的な街は、街自体が、なんか生き物のようだ。表情があるというか。

 ■この重慶を舞台にした最近の中国映画で、「クレイジィ・ストーン」というのがある。よい映画なので、日本でもいずれ上映されることだろう。映画の中で、重慶名物のロープウェーの上で、芸術家きどりのドラ息子が、女性をナンパしようとするシーンがある。「都市とは母なんだ。俺たちは彼女の子宮に暮らしている。そんな思いにふけっているときに、君を見かけた。君には母性の息吹を感じるんだ…」とかいながら、女性の耳に息を吹きかけたところ、ハイヒールのかかとで思いっきり足を踏みつけられる。で、ロープウェーの窓からコーラの缶を落として、物語がはじまる…。

 ■このセリフは、やはりこの街をよく知っているひとが考えたのだ、と改めて思う。ミーハーな私は同じようにロープウェーにのってみたのだが、嘉陵江の上からこの薄汚れた街を眺めると、本当に、街が人や車をつつみこむように見えた。美しくはないのだが、排ガスを吐き、汚水を垂れ流し、ゴミを散らかす赤ん坊たちをあやすように、おおらかに抱く母なる都市だ。

 ■そうやって人々が甘えて、好き放題して、気がつかないうちに、母なる街は老婆のように醜く老いさらばえていく。ただ、市民にとっては、実は都市の見た目が美しかろうが美しくなかろうが、関係ないのだろう。赤ん坊からみれば、醜かろうと母親はあいすべき存在で、その手に抱かれて安心できればいいのだろう。知り合いの重慶市民に、この街は汚れていると思わないか?と聞くと、「ええっ~?ここ数年でずっときれいになったよ。十分きれいだよ」と、本当に気にしていないようだった。

 ■むしろ、排ガスと生活ゴミで薄汚れたビルやアパートの群れは、慣れてしまうと、整然区画整理されたぴかぴかの街より居心地の良いかもしれない。人が街の有機的なつながりを感じることがどきる?うまくいえないが、自分の部屋はぴかぴかに磨きあげられているより、適度に乱れている方が落ち着くみたいなものがありそうだ。淀川が悪臭を放つころの大阪にノスタルジーを感じる私としては、まったく
理解できない感覚でもない。

 ■だから、この街をきれいにしなければならない、と口やかましくいい、なれ合った人と都市の関係をばっさり斬って、美しい都市を創っていこうとするのは、きっとこの街にずっと暮らし親しんでいる人々じゃないのだろう。あとから移り住む新参者であったり、よそからきた新しい為政者であったり。

 ■そうやって新しく住む人が増え、街がキレイになってゆくことを都市の新陳代謝とでもいうのかな。香港も、そんなふうにして九龍城が消え、カイタック空港が消えていった。都市というのを、国に置き換えても同じことがいえるかもしれない。濁った空気や水の中での暮らしに慣れてしまった国民にとっては、澄みきった流れの中で暮らす方が息苦しいだろう。それをキレイにしなきゃ、という意識をもたせるのは、外国から訪れたり移り住んだりする人が増えていくから。

 ■環境問題にしろ、政治の濁りにしろ、結局外部からとやかくいわれないかぎり、本気でとりくめないものではないか。部屋の片づけと一緒だな。と、ふと思う。

 ■で、重慶から北京の自宅に帰った晩、いきなり大掃除を始めてしまったわけだ。

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「マザータウン重慶」への6件のフィードバック

  1. しばらく更新がないと思っていたら、重慶ですか。
    重慶は小生にも思い出深い土地です。
    10数年前、香港を一旦離れたのですが、そのときせっかくやから中国を見て回ろうと、2カ月近い放浪に。
    最初は雲南省各地。これは心癒されました、マジで。
    昆明から列車で約24時間、重慶へ。中国へ入って最初の大都会でした。
    とにかく7月の暑さにうんざり。湿気にヘトヘトになりながら、しびれる四川料理に昏倒寸前。
    さっさと退去したく、中国国際旅行社に駆け込み、長江下りを申し込むも、「あなたの乗る船は全員フランス人客で、案内もフラ語やけど、ええか?」。日本語船は3日後、なんでもええから早く立ち去りたい!3日間、フランス語のガイドでチンプンカンプンの長江下りも、今となってはいい思い出です。
    川を渡るロープウエーとか勾配を上るケーブルカーとか、健在なんでしょうか?

  2. 私が出て来た頃は隅田川の臭いには驚きました。
    あれから30年も経ったら奇麗になりましたね。
    重慶は汚染空気が話題でしたが、近年は良くなったと
    聞きました。
    工業の発達はまず空気汚染、水質汚染が顕著に表れます。
    中国も発展途上ですから環境は二の次ではないですか。
    東京の今から30年前に似てると思います。
    北京オリンピックには改善されるのでは。
    農村部までは無理でしょうが。

  3. leslieyoshiさま:川お渡るロープウェー、日立の技術移転によるモノレールにのってきました。重慶の夏は暑いそうですね。今の季節は体のしんにしみこむような寒さでしたが、火鍋を食べると脂肪がゴウゴウ燃焼して体温が急上昇。火鍋の威力を実感しました。

  4. kyamaga さま:重慶はちょうど、環境汚染の最悪時期を抜け出そうとしているところでしょうか。しかし良くなったといっても、街中で火力発電所がもくもく煙をあげ、硫黄のにおう空のしたで、庶民が洗濯物をほしていたりしていました。

  5. これからは重慶をマザータウンと呼ぼう。名付け親は某日本人ベテラン記者です。

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