「三峡好人」見た。

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 ■張芸謀監督の最新作「黄金甲」には、がっかりさせられた。チョウ・ユンファとコン・リー、それに香港映画「頭文字D」以来、なんとなく気になっていたジェイ・チョウと、これだけ好みの俳優がそろっているというのに、こんなに好きになれない映画って。ユンファ、ごめんよ、あなたは大好きだけど、映画はこきおろしちゃうよ。3・6億元かけてこれかよ!こんな無駄遣いをできるのは、張監督、あなただけ。ジェイは「頭文字D」では、その素人っぽい容姿や雰囲気がはまっていたけれど、「王子さま」には、めいいっぱい違和感。とにかく、ジェット・リー主演の「ヒーロー」と同じく、張監督が「どうだ、オレ様の美意識についてこれるかっ」てな感じの、自己陶酔型映画であった。

 ■ただ、好興行的にはかなりいい成績をあげそうだ。なぜなら、北京の映画館はいま「黄金甲」一色。ほかの映画がかかっていない。これでは、興行がわるくなりようがない。こういう政治的な手法を使って、ヒットの既成事実をつくって、「大陸で大ヒット!」なんて宣伝文句で海外に売りに行くんだろう。

 ■実は、この「黄金甲」には対抗馬があった。それが賈樟クー監督の「三峡好人」。昨年のベネチア映画祭でサプライズ上映され、金獅子賞を受賞。本当は「黄金甲」と同じ映画館で同じ公開日(12月14日から)でぶつけられる予定だった。が、実際「三峡好人」は北京の映画館から閉め出されてしまった。映画業界の人に、ウラ事情を聞くと、「あの2人(張監督と賈監督)、仲わるいからね~」。映画界の大御所、張監督(いわゆる第5世代の筆頭)と、賈監督(第6世代の旗手)の間には、どうやら因縁があるらしい??で、北京五輪の開幕式の演出も請け負う張監督は、その政治力をいかんなく発揮したわけだ。中国では映画界にも権力暗闘がつきものなのだ。

 ■というわけで、ここでは、中国映画界からはじきとばされたかわいそうな「三峡好人」をレビュー。(ちょうど三峡ダム取材から帰ってきたばかりだしね。)ちゃんと正規版DVDでみた。

 ■「三峡好人」は、三峡ダム建設で水没した故郷をめぐる、切ない人間もようを淡々と描いた、やや辛気くさい映画である。むかし張監督も愛用した、素人をそのまま使う手法のようで、演技らしい演技がない。主演の韓三明は賈監督のいとこだとか。ところどころCGをつかって、意表をつく詩的で幻想的なシーンがあって、それが第6世代だな~と感じさせる。移民問題など、当局が敏感視する内容も含まれているが、ベネチアで高く評価されたため、国内上映が認められた、という海外評価先行型の映画。でも、中国人の一般ピープル、つまり金を払って映画館にいくような生活レベルの人たちが望むような映画ではない、と思う。やはり中国人は、ハリウッド映画とかドハデな映画が好きなのだ。金を払って映画館にゆくのはひとときの夢がほしいから。映画でそんな中国の労働者の現実をみせられてもねぇ~、というところだ。先進国の外国人にとっては、中国の労働者階級の厳しさ、国威発揚の巨大ダムをつくるために、国家が人々にどれほど大きな犠牲をしいてきたか、という事実こそが、信じられない残酷なおとぎ話のように思えるのだけれど。

 ■で、感想をいうと、★5つを満点としたら2つくらいだろう。好みの映画ではない。淡々としすぎ。ただ、個人的にはツボにはまるみどころが2つあった。まず、労働者(たぶん、みんな役者ではなく本物の労働者)の筋骨りゅうりゅうとした上半身。ダムに沈む予定の建物を取り壊すため、つちを振り上げる労働者の背中。汗にまみれ陽に焼けた筋肉が、とにかくこれでもか、と映し出される。ひょっとして、賈監督、筋肉フェチですか~!!と内心叫びだしたくなるほどであった。そういや賈監督作品に労働者をテーマにしたものが多いらしい。ひょっとして、全部筋肉ムービーか??
 破壊されダム湖の底に沈む運命の街、その街を破壊する労働者の生命力あふれた筋肉の動き。いわゆる、鍛えてキレイについた筋肉ではなく、過酷な労働によって培われた本物の労働者の筋肉である。すこしずつがれきになってゆく街と、それでも生きてゆく、と語る筋肉の対比が妙に、萌え。

 ■もうひとつのみどころ。それは映画中のテレビで、チョウ・ユンファ主演の不朽の名作「英雄本色(邦題・男たちの挽歌/英文題ベター・トゥモロー)2」がちらり、とうつっている。、「マーク」(英雄本色のユンファの役名)という登場人物がでたり、ユンファのセリフが引用されていたりして、賈監督の「英雄本色」へのオマージュが感じられる点であった。もう、これはユンファ好きには、たまりません。明日の見えない底辺の生活を続ける三峡ダムの移民労働者たちは、きっと、深夜の地方局で流れる古い香港映画の中でユンファのかっこよさに、慰められたり、力つけられたりするんだろう。その気持ち、わかる、と妙に感動していた。黄金甲のユンファより、「三峡好人」にちらりと出てくるユンファの方が、なんか見ていてうれしかった。

 ■というわけで、「三峡好人」は★2つながら、筋肉フェチとユンファ好きには見る価値のある一作である。(どういう評価だ??)

「「三峡好人」見た。」への13件のフィードバック

  1. 中国映画は見ませんけど三峡ダムについては興味があります。
    自然破壊とダムその物の機能が以前ほど評価はされないし
    上流の土砂が堆積しいずれ大がかりな浚渫も必要になります。
    治水と発電、水田などの水供給が目的でしょうが、発電に関しては
    効率が低く疑問視されます。
    それよりは自然環境の破壊が問題ですね。

  2. 「大紅灯籠~」「秋菊~」「活着」「我的父親母親」…あたりまでの張芸謀は、何と素晴らしい監督か、アジアの誇りだ、と思っていたのですが、
    どうしてしまったのでしょう? 賈さんのは「プラットホーム」しか観てないですが、何かピンと来なかった。 
    昔の張さんのテイストを感じさせてくれる監督、作品が有ればまた紹介してくださいな。

  3. 中国映画はほとんど見ませんね。ポスターからして、夢や希望を与えるようなものには見えません。映画の内容は別として、興行成績を上げるためには宣材の質を高めることも必要なのでは・・・。今の中国の人たちには、ギャンブルや株、詐欺でもうけたような映画がうけるんじゃないでしょうか。スティング(ちょっと古いが)やオーシャンズ○○などは一攫千金を夢見る庶民を興奮させそうだな・・・。

  4. 福島さん
    あけましておめでとうございます。
    黄金甲私もみました。とにかく人が死にすぎ。それと
    チョウユンファとジェイチョウでは格が違いすぎて
    最初から勝てる気がしないのもはらはらしない理由
    でしょう。
    でも私の周りでは、今までの英雄と十面埋伏があまり
    にひどかった、という理由と、同じく大御所の陳凱歌
    監督の無極もケチョンケチョンなのに比べればまだ
    まし、との評価です。
    一番の収穫は、この映画で黄巣の詩を知ることができた
    ことでした。なかなか血なまぐさくてすごい詩ですね。
    待到秋来九月八,我花?后百花?
    冲天香?透?安,?城尽?黄金甲

  5. >すこしずつがれきになってゆく街とそれでも生きてゆくと語る筋肉の対比が妙に、萌え。
    香織さんもひよつとして筋肉フェチ?
    中国の映画といえば、最近テレビで『シュウシュウの季節』といふ映画を見てたら、主人公の女性がオールヌードになっちゃうので最近の中国はすごいなと思っていたら、アメリカ映画でした。登場人物がみんな中国語を喋るんだから勘違いするよね。主人公のセックスシーンが次々とあって、その度に少女の顔が女の顔になってくのよ。そして最後に死ぬときの顔が一番奇麗なんだね。老金役の俳優がK1の角田に似てたなあ。似てねえか。

  6. To kyamagaさん
    環境は、今後中国において、何ましても優先されなければならない問題となるはずです。三峡ダムが失敗であったと、認めざるを得ない時期は3年内にくると思います。

  7. To riceshowerさん
    張芸謀氏は、作品数が多いので、名作も多いのですが、じつは駄作も昔から多いのでした。大御所になってから、なんかつまらない感じがします。
    最近、いいなと思うのは、霍建起でしょうか。「山の郵便配達」の。

  8. To sekiguchiさん
    馮小剛、寧浩らは、中国の社会矛盾を笑いとばしたあとに、ちょっとほろりとさせ、中国人のたくましさをかんじさせる佳作が多いと思います。ちょっとブラックユーモア。

  9. To shimataroさん
    人が死にすぎ、というのは同感です。黄巣の詩は、私もこれで知りました。

  10. To ニッポニア・ニッポンさん
     人口の統計が信じられないと、ありとあらゆる統計がデタラメになる、と中国当局の人も嘆いていました。数字的目標って、あんまり意味ないんですよね。確かに。

  11. To tomochan2002さん
    >香織さんもひよつとして筋肉フェチ?
    え、tomochan2002さんも?
    シュウシュウの季節って、『天浴』ですか。できのいい映画かもしれませんが、ヒロインの救いようのなさがつらくって、一度しかみていません。

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