■中国の現代美術というと、最近まで政治的なものが圧倒的に多かったけれど最近、日本のサブカルチャー風味の萌えアートが台頭している。その中でも特に萌え度というか、オタク度の高いのが「コスプレパフォーマンスアート」だろう。写真は広州出身のパフォーマンスアーティスト、曹斐さん(27)の作品だ。
■まず、どこがアート?ふつうの「コスプレパーティ」ではないか、と凡人は首をかしげてしまう。中国では、日本サブカルチャーファンが多く、日本アニメや漫画、ビジュアル系ロックバンドの手作り衣装をまとって仲間同士で集うコスプレパーティが結構流行っているのだ。
しかし、先月、北京で中国萌えアートを集めた「ジャパニメーション」展を企画した東京画廊(北京)の金島隆弘さんはきわめて真剣に「曹斐は、挑戦的なアーティストです」と太鼓判を押す。
■ここでまず先に、中国のパフォーマンスアート(身体芸術)についての理解が必要だ。
中国の現代美術の特徴は、一般に政治的であること、といわれている。文革以前はプロパガンダ芸術であり、改革開放後は文革体験をテーマにした傷痕リアリズム、さらに体制への反発や民主へのあこがれや創作の原動力とされた。
特に80年代の中国前衛芸術運動は公安による弾圧への抵抗の中で独特の輝きを放つようになっていた。この時代、芸術家らは公安に追い回されながら、その間隙をぬってゲリラ的に展覧会を開いたりしたそうだ。その過程で逃げるのに都合のいい、自らの体を使うパフォーマンスアートが盛んになってゆく。だから中国でパフォーマンスアートというと、最も反体制的かつアグレッシブなイメージがあるのだ。
■しかし、文革がおわって今年で30年目。大学生ですら「四人組って誰?」というご時世で、文革体験や政治は芸術創造の原動力に成り得なくなってきている。そこで、パフォーマンスアーティストは社会現象にインスピレーションを求めはじめた。
それが、曹さんの場合、コスプレと言うのである。
■いわく「コスプレの流行は、20年に渡って高速に発展してきた中国都市における若者の姿を象徴している。中国の都市は急速な発展と拡張によってさまざまな矛盾と現実的な困難を生み出しているけれど、若者たちはその緊迫した現実に対応するため、虚構のヒーローの姿に自らをプレイヤーとして異化させねばならないの。同時に、発展途上国におけるグローバル化そのものが、コスプレみたいなものね。中国の目下の現実は虚構世界より荒唐無稽ということよ」。
■彼女の説明はあまりに前衛的でついてゆけない部分があるが、要するに中国の若者の現実逃避ぶり、そして中国自身の現実逃避ぶりを、揶揄している、ということかな?
曹さんは、たまたま通りかかった人、老若男女に声をかけ、コスプレさせる。寺山修司の実験演劇みたいだ。「外部の人に体験させることで、コスプレのサブカルチャー現象の表層にとどまらぬ意味を考えてもらうことができる」そうだ。
■単に、日本の漫画、アニメ流行が反映されただけと思っていた「萌え」アートだが、実は、中国のアンバランスな急速発展が産んだ不条理な現実にとまどい、逃避にはしる現代中国人の屈折した心理を映し出しているのかもしれない。
■と、なんか真剣に分析してしまったが、自らネコミミをつけて楽しそうにパフォーマンスアートを振り付けている曹さんをみると、やっぱり単なるオタク?とも思ってしまった。
2枚目の写真、一番手前の黄色いスーツはキルビルでしょうか。中央の白と黒の着物姿は『ブリーチ』の『護廷十三隊』隊長クラスの死神の衣装ですネ。奥の赤い雲模様のコスは何の作品だか不明ですが…
「萌え」は中国語でなんて表現するのか気になる。北京、上海、広州などの地域差もかなりあるのでしょうね。90年代後半の中国現代アートは欧米の美術市場に熱い眼差しを向けてましたが、この「萌えアート」はどこを向いているのだろう。
可燃性さま:アニメ体験は中学生時代のガンダムでとまったままなので、実はコスプレが何をまねしているのかよくわかってません。キルビルはタランティーノの映画でしたっけ。ブリーチは漫画?日本人の私より、中国人の若者の方がくわしかったりします。
MAO@マチともの語りさま:
「萌え」は中国で「萌(マン)」といいます。「ゲーム、アニメ、漫画など虚構の美少女などに対する情動。猫耳やめがねなど、特定の部位に対して発露することもある」との説明を中国人から受けました。最近の現代美術市場は欧米中心から中国国内にシフトしつつありますが、「萌え」アートはやはり欧米に受けがいいようです。ドイツとか。
中国の現代アートが欧米で注目され始めた90年半ばに北京にいて中国当代芸術の連中とはよくつき合いました。
張大力、王晋、榮榮、馬六明、荘輝、王功新、張培力、それからアメリカへ行った張ホァン、シン・ダンウェンなどなどみんな貧乏ででも眼がぎらぎら輝いていて野心に燃えてましたね。かれらの活動をネットでレポートしてたのが懐かしい。
今はその下の世代が中心なのでしょうがその情報はあまり日本に伝わっていないので、レポートしてください。
MAO@マチともの語りさま:
ロンロン、馬六明さんとはあったことがあります。「萌え」アートの台頭、まだ続きます。アート、結構すきでそれなりに取材したのですが新聞では収容場所がなく、ブログでほそぼそとレポート。生暖かく見守ってやってください。
初めまして。
産経新聞紙上で、スパイスの効いた皮肉とちょっぴり哀愁の漂うコラムを書く記者さんとして、密かにファンでした。
ブログにコメントを残せて光栄です。
中国は、この記事で見せるような一般庶民の柔らかい部分と、対外的に見せる強面の部分のギャップを強く感じさせる不思議な国ですね。
民間レベルの交流が活性化すれば柔らかい部分が強面を柔軟にしていってくれるんでしょうか…
ドイツで中国の萌えアートが受けがよいというのは面白いですね。日本のアニメはイタリア、フランス、スペインとラテンから入っていきましたが90年代後半になってから突如、ドイツで漫画ブーム。その延長線上でしょうね。
結婚祝にもらったロンロンの写真がわが家にあります。ロンロンに会ったら野猫がよろしく、とお伝えください。
輪廻さま:
亀レスで失礼します。読んでくださってありがとうございます。社会においての日本の影響力は、なめたものではないと思います。中国ではよく、言葉に耳を傾けるより、現象をみよ、と言いますが、現象を見る限り、中国人は無意識の人も含めて日本文化好きと感じています。
MAO@マチともの語りさま:
ロンロンの奥さんというと、インリーさんでしたっけ?野猫さんで通じるのかしら。
MAO@マチともの語りさま:
インリーは日本人女性です。たぶん同じ人ですよ。インタビュアーのI女史も存じ上げてます。
社会矛盾こそがアートの原動力というのはいつの時代も変わらないですね。「萌え」をも記号化して自己表現の手段としてしまう中国のアーチストたちは逞しい。福島さんの現地からのレポートを楽しみにしています。
>「中国の目下の現実は虚構世界より荒唐無稽ということよ」。
中国人にもちゃんと分かってる奴がいるんですね。
中国の繁栄ってまさに砂上の楼閣だもの。
上海のリニアみたいに有って無きがごとし。
核兵器も自分で作ったてのはウソだろ?