■南京事件から70周年を迎える来年の公開を目標に、同事件を題材にした映画制作の噂が浮かんでは消え、消えて浮かんでいる。最近上海紙で報じられたのが、「南京・クリスマス・1937」改め「南京浩劫」(監督未定)、「日記」(スタンリー・トン監督)、「南京!南京!」(陸川監督)。
■これら映画は本当に制作されて来年のクリスマス映画として公開されるのだろうか。日本人としてはちょっと気になる。
■HNKの大河ドラマがいくら時代考証を無視してようが史実に基づいていまいが、歴史的人物イメージを視聴者にすり込んでしまうように、映像のインパクトは強烈だ。とくにそれが、ハリウッドや有名監督による場合、世界中に影響力を発しかねない。「ラストサムライ」が日本の武士のイメージを決定づけたように、「南京」ハリウッド映画が国際社会の様々な議論と謎をかかえる南京事件の評価を画一的に決定づけてしまう可能性だってあるだろう。
■で、本当に「南京」映画は実現するのか?を考えてみたい。
■まず「南京・クリスマス・1937」(「南京浩劫」)。これは、今年1月、監督候補がクリント・イーストウッド、主演候補がメリル・ストリープとして、制作計画を上海紙が報じ、その後、ワシントンの古森義久記者の取材で、イーストウッドにまったくその気がないことが判明。その後も制作計画だけは報じられ、チャン・ツィイーやミッシェル・ヨーが出演予定とかいう噂も出ているが、監督がまだ決まっていないわけだからウソっぽい。ハリウッド発で南京事件プロパガンダ映画が来年冬に公開される可能性は目下低そうだ。
■が、香港のスタンリー・トン監督による「日記」は、すでに中国ラジオテレビ映画総局の制作認可(4月)を受けているから、結構具体的な話だ。
■トンは、ジャッキー・チェンと組んで「ポリス・ストーリー」「神話」など、アクションものを撮っており、日本にもファンは多い。「日記」は日本人兵士が残した日記をテーマにしており、主役の抗日英雄に香港スターのアンディ・ラウが候補だとか、マギー・チャンや日本の藤原紀香を出演させるとか、いう噂報道は一時期、香港紙を騒がせた。ただ、その後、配役が決まったという話は聞いていない。
■ところで、スタント出身、アクション映画で評価されたのトン監督に、マジな「抗日悲劇もの」が撮れるのだろうか?(失礼)。そもそも、彼は秋から史劇大作「花木蘭」を撮る予定。そんな時間あるのか。ひょっとすると、ラウの抗日アクションヒーローぶり、プラス紀香ちゃんのお色気でお茶をにごす香港B級映画テイストに仕上げるつもりか。いずれにしても、世界に影響を与える大作になるような気はしない(すっごい失礼)。
■一番気になっているのが、陸川監督の「南京!南京!」。陸川は中国の若手監督として目下人気急上昇、二作目の「ココシリ」では04年東京国際映画祭審査員特別賞受している。
■実はこの監督、私はかなり好き(二作しかないが)。デビュー当時にインタビューしたとき、自分の表現したいことを熱っぽく語る誠実な様子にすごく好感を持っていた。もし彼が、ばりばりの「南京」プロパガンダ映画を撮ったら悲しい。たとえプロパガンダ映画でも、センスがいいから、ベルリンやカンヌで賞とって欧米ですごく人気がでてしまうかもしれない。そうなると、もともと南京事件なんてほとんど知らない欧米人はすっかり、映画の訴える偏ったイメージに染まりかねない。これは心配だ。
■で、思いあまって、複数の業界人に聞き回ってみた。すると意外な答え。陸川自身は「撮る」と周辺に豪語しているが、できないだろう、と。
■できない、という理由、その①。あの脚本ではラジオ・テレビ・映画総局が絶対許可しない。私もよく知らないのだが結構、えぐい部分、刺激的な部分があるらしい。
■表現の自由や芸術性よりプロパガンダ効果や社会への影響力を重視する中国の基準に照らしあわせると、適度に南京大虐殺?周年はもりあげなければならないが、あまり反日感情を刺激しすぎるのはよくない、ということだ。
■建前はどうであれ、日中関係は中国にとって最も重要な
二国関係、国別対中投資(実行額)が米国を超えて一位(バージン諸島経由は計算外)の日本(特に企業)を本当に困らせたくはない。残虐シーン満載の「南京」映画に反日感情が刺激された人々が日系企業や在華邦人を襲撃したり、なんて事態は現政権が一番望まないことだ。ハリウッドや香港がたとえ「南京」映画を創って世界でヒットさせても、ひょっとしたら国内では上映されないかもしれない。
■できない理由、その②。陸川に、まだそんな大作が撮れるほど実力がない。業界の人いわく、「南京!南京!」を撮影しようと思うと10年の準備期間がいる。陸川が「撮るぞ!」と周囲に豪語するのは、少し思い上がっているのではないか、と。すでに資金が準備されていると報じられているが、それは良い作品を実際に撮れるまで準備できた暁の話。市場はもっとシビアだよ、と。
■私は「南京」映画を撮るべきではない、とは思っていない。映画の世界は自由だ、誰もが撮りたいものを撮ればいい。観客は観たいものを観るだけ。最低の公序良俗に反したり犯罪を助長したり、自分の良心に恥じるものでなければ、映画でも文学でも表現に検閲をもうけるのは基本的に反対だ。
■南京事件は、真摯に向き合えばきっと、普遍的な戦争と暴力の本質に迫るテーマだと思う。要は、それは幻だという人から30万人が虐殺されたという話まで、その評価が定まっておらず、客観的な歴史資料もない状況で、安易に急いで、来年の70周年記念プロパガンダ用に撮ってはだめだ、と言いたいだけ。
■そんな撮り方だと、結局、「憎し日本鬼子」が主要メッセージになってしまい、伝えるべき普遍的なものが伝えられない。それは重い過去の歴史に対しての冒涜ではないかと思う。比較するのはへんかもしれないが、張芸謀の「紅いコーリャン」も姜文の「鬼が来た!」も抗日戦争が描かれていながら、日本人を非難する内容になっていない。映画の力は、そんなちっぽけなことを伝えるためにあるのではなく、もっと深く普遍的なところに訴えるためにある(と私は思う)。
■正面からこの事件をテーマにマジな映画を撮ろうとすれば、業界の人たちが言うように準備に十年や二十年くらいかかるだろう。真実は未だ霧の中、その真実に迫るために様々なアプローチ、考察の努力のあとがあれば、それがいかなる立場で描かれたとしても、人を深く考えさせることができる作品になろう。
■そういう前提のもと、私はいつか中国人監督に、「南京」映画を撮ってほしい、と本当は思っている
>映画制作の噂が浮かんでは消え、消えて浮かんでいる。
「南京・クリスマス・1937」の報道があった時は、驚きましたが 古森さんの記事を読んで安堵しました。 その後何度か報道があって気にはなっていました。 確かに消えたかもしれない、というのは紙上にのりにくいですよね。 イザ!の良さをまた一つ実感できました。 続報もよろしくお願い致します(..)
ハリウッドに期待するのは“マオ”の映画化なんですがねー、するとフィルムの世界から支那資本が逃げちゃってどうしようもなくなるから・・・無理ですかネ。
支那発の超大作は娯楽モノだけになってしまってるんですね。
hiroさま:映画制作が決まったとか、映画ができた、というのは紙面に書きやすいのですが、噂はあるけど、どうかしらねぇ~、という内容は記事になりにくいんです。ブログ向きのネタです。
nhac-toyotaさま:ハリウッドによるマオの映画化というのは、確かに観てみたいです。
福島香織様のこのブログは本当に参考になります。中国も舵取りが大変なんだなぁ~と、実感させられます。
十年前に映画「南京1937」を清華大学の大礼堂で1500人ほどの中国人に混じって観たことがあります。下記がそのときのことを思い出して書いたブログ。
http://tiao.jp/blog/index.php?itemid=2345
南京の映画化は非常に難しいでしょうね。
どのように描こうとも非難轟々でしょう。
中国の人たちにとって「南京」は歴史的事件であると同時に、それは常に更新され続けて、共通の感情であり、記憶です。まさに歴史が生きているという感覚でしょうね。十年前、大礼堂の暗闇に膨れ上がったあの憎悪のエネルギーは凄まじいものだった(当時は日中関係は今よりもずっと良好だったのですが、それでも)。
映画は娯楽だから、というわけには行かないでしょうね。映画が現実を動かしてしまうことも十分あると思います。
はじめまして
何か、近々南京大虐殺の人数が40万人になるとか言ってるみたいです。
もうね(・∀・)カエレ!!とか思いました。
http://maa999999.hp.infoseek.co.jp/ruri/The_Alleged%20'Nanking_Massacre'003.html
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%97%E4%BA%AC%E5%A4%A7%E8%99%90%E6%AE%BA%E8%AB%96%E4%BA%89
ヘ(゚д゚)ノ ナニコレ?最初は49人でその後、無茶苦茶な人数が殺されてることになってますね
@((o^ェ^))@ <こんばんは。記事に関係ないコメントになりますこと、始めに失礼致します。 僕は以前コメントさせていただいたチンプの店長と申します。iza!の楽しいポイントの1つにもなっている「記者との会話」を活用して、今取り組んでいる「大麻問題の喚起・再考」が計れればと考えています。お忙しいとは思いますが、詳細を書きましたので当方ブログを参照下さい。ご協力お願いします。
aqua2020さま:
またまた読んでくださってありがとうごあいます。13億の民をのせた老朽船ですもの、苦労がしのばれます。
MAO@マチともの語りさま:
貴重なご経験ですね。農村では、地方巡業の芸人が春節のときなど、抗日古典演劇を上演するらしいですが、そのときのフィーバーぶり、日本鬼子をやっつけろ~みたいな感じですごいらしい、というのは芸人の方から聞きました。映画や舞台とシンクロする力、というか集団ヒステリー状態というか、日本人の想像を超えているようです。
レン(仮名)さま:南京事件について、犠牲者の数は重要ではない、という意見も聞きますが、犠牲者数は、当時何がおきたのかを検証する上で最も基礎的なデータだと思います。それが、なんか勝手に増殖しながら一人歩きしてしまうのは、事件の研究の一番の障害ではないでしょうか。
チンプの店長さま:
来てくださってありがとうございます。大麻を医療に利用することには理解がありますが、嗜好品として解禁する必要があるのかは疑問です。
福島様
大変興味深い記事でした。時々読ませていただいてます。
南京でも東京裁判でもよいのですが、いかにしてプロパガンダが刷り込まれたというドキュメンタリー映画は成立しないものでしょうかね?
できたら海外制作、海外公開で、とか・・・
可能性無いでしょうか?