■きのうは世の中、選挙フィーバーだった。新聞上では米国の中間選挙で盛り上がり、北京市では区、県、郷級の人民代表選挙(区議選みたいなもんです)で胡錦濤国家主席が清き一票を投じていた。選挙ではないが、もうすぐ今年のベストサイトを選ぶインターネットサイトの「web of the year」の投票があり、izaも新人賞にノミネートされている。読者の皆様におきましてはぜひ、清き一票をお願いします。
というわけで今回はきのう行われた選挙の中でとりわけ、私たちのくらしと縁の深いWHO(世界保健機関)事務局長選挙について。
■なんか不安
初の中国人(香港人)WHO事務局長
(日本落選しちゃったよ、台湾ごめん!)
■さて、WHO(世界保健機関)の事務局長選挙では中国が推薦するマーガレット・チャン(陳馮富珍)女史が当選した。WHOのトップに中国人(本当は香港人だけど)が選出されたのは初めて。国連機関の重要職の座をとることは中国の悲願であり、国内では一面にこのニュースをもってきた新聞も少なくない。そして中国が何より喜んでいるのが、同じアジアから立候補していた日本人候補、尾身茂氏( WHO西太平洋事務局事務局長)をけ落として当選したことであろう(と、ナカの人がいってます)。
■中国は尾身氏が立候補したあとに、いきなり(日本に相談もなく)陳氏の立候補を決めた。こういう選挙では、ふつう、同じ地域からの立候補は相談して一人にしぼる。その方が地域の票がまとまり、効率がいいからだ。関係者の間では「中国は、(台湾のWHOオブザーバー加盟に積極的な)日本には事務局長をやらせたくないから、単なる尾身氏つぶしの立候補では?」という声すらきかれていた。
■先代の事務局長、李鍾郁(故人)氏は韓国人。その前がデンマークで、その前が日本人だった。今度、日本人が当選すれば二度目の事務局長だし、東アジア地区出身者が続くことになる。正直いって、日本人がどうしても、この職につく必要はない、と私は思う。しかし、中国人(香港人だけど)がやるとなると、どうも不安が先にくる。別に意地悪で言っているのではない。本当に、心配なのだ。
■新型インフルエンザのパンデミックが近い将来、必ず起こると言われるこの重要な時期に、SARSを隠蔽により世界に拡散させ、鳥インフルエンザの過去の発生を3年以上も隠し、WHOに対するサンプル提供にはなかなか応じないわ、WHO職員の現地調査も監視つきで行うわ、WHOに必ずしもすごく協力的だったわけではない、そんな国が擁立した事務局長に、全世界の保健衛生安全保障の責任が担えるのか、と。そもそも、自分の国内の保健衛生のめんどうもろくに見られないのに、世界の面倒をみられるのか、と。(これもナカの人の意見)。
■陳氏は二番手のメキシコ候補と圧倒的な差をつけて(24票対10票)当選した。彼女が各国の支持をえている優秀な保健医療専門家であることは否定しない。彼女は2003年の香港でSARSが蔓延したさい、香港の衛生署長だった。同年8月からWHO入り。今回も、香港時代のSARS防衛の功績とWHO入り後のインフルエンザ対策での貢献が、中国が彼女を強く推薦した理由(建前)だ。
■しかし、香港のSARS防衛は果たしてそれほど完璧だったかというと、感染者240人以上という最悪の集団感染が広がったアモイ・ガーデンなどはむしろ反省点の方が多い例と香港では認識されている。あのときは、感染ルートはいつまでたっても特定できず、さまざま憶測情報により、住民はパニック状態に陥っていた。もちろん、ああいう手遅れ状況になったら、どんな優秀な医療専門家であろうと、うまく対処できるわけがないが。ちなみに、そういう状況を招いた大もとの原因が中国衛生当局の情報隠蔽である。
■一方、尾身氏が指揮をとったWHO西太平洋事務局SARS対策チームによるベトナムSARS封じ込め作戦が見事な成功であり、世界を感嘆させたことは当時の新聞などを読み返せばわかる。ベトナムはすでにSARS感染が広がりかけており、ひとつでも判断ミスがあれば大規模感染が発生していた可能性があった。これは尾身氏個人の功績でないとしても、SARS防衛功績、という点で陳氏と比べれば、尾身氏の方が評価されていいと思う。
■ああ、ならなぜ日本候補は落選したの?
■それは、選挙が政治だからである。中国は先日盛大なアフリカ・パーティを北京で開き大場振る舞いをしたことからもわかるように、中国はアフリカ、南米、中東など第三世界に急接近、投資、借款攻勢による資源囲い込みと国際事務における支持獲得の一石2鳥の多極外交を国策として展開している。金で票を買った、とは言い過ぎだが、中国が国策として国連の重要職をひとつずつ手に入れてゆくという強い意志のもと、票固めなど十分な作戦を練ってきたのは確かだ。
■日本はというと、ナカの人の話を総合すると、今回の選挙については外交とはまったくリンクしておらず、ロビー活動もろくに展開していなかった。そもそも、中国側が立候補するという情報自体を入手できていなかったのも問題。中国が立候補するなら、中国を応援するにしろ、対立候補を応援するにしろ、日本は立候補しない方がよかった。それでも立候補するなら、中国に勝つ選挙対策を練らねばならなかった。どうせ、WHO予算で一番金を出す財布役は日本なのだから、当選できないなら、日本の意見に耳をかしてくれそうな事務局長になってもらうような人(国)を応援した方がいい。そのくらいクールに政治的に国連機関のトップ選挙というものを考えるべきだった(と私は思う)。
■今回、陳氏が中国のバックアップを受けてWHO事務局長に当選したことで、台湾のWHO加盟の可能性はいっそう遠のいてしまった。今日の外務省報道官による定例記者会見で姜瑜報道官も、台湾のWHO加盟について「台湾は中国の一部、WHOに加盟する権利はない。中央は台湾人の健康を重視している」と改めて完全否定。
■日本が落選して悔しい、というより、私は台湾のためにこの状況を憂慮する。考えてもみてほしい。これから世界的なウイルスとの戦い(新型インフルエンザとの戦い)が始まろうとしているのに、台湾は最前線の情報が直接手に入らないのだ。それどころか、情報を恣意的に操作してきた前科のある中国経由でしか手に入らない。これは不安だろう。いくら、中央が台湾人の健康を重視するといったって。(私が台湾人ならすごく不安)。日本はへたな選挙をうったことについては、まず台湾にあやまるべきではないか。
■さらに過去を振りかえると、WHOと中国はしばしば対立してきた。現地で活動するWHO職員は、中国における現地調査の敷居の高さについて、しばしば不満を漏らしている。また①2003年春のSARSの隠蔽②湖南省で発生した新型インフルエンザのサンプル提供のおくれ③最近では「新型インフルエンザ福建起原説」の真相など、WHOに対する情報提供の消極さも、問題となってきた。
■そうそう、③についてはまだ紙面化していなかった(よね?)。すみません。明日の中国側の記者会見をうけて出稿します。あさっての紙面に余裕があれば記事をのせてくれるだろう。早い話が、米国の医学雑誌(科学アカデミー紀要)で米国や香港の専門家による「中国福建省で分離されたH5N1鳥インフルエンザウイルスの変異型(福建型)が昨今のアジアの鳥インフルエンザ流行の原因」といった内容の論文が発表され、WHOも注目して中国側に問い合わせているのだが、中国側は「事実無根」と突っぱねているのだ。
■権威ある科学アカデミー紀要の論文を信用するか、隠蔽や情報封鎖をお家芸としてきた中国の主張を信用するか、といわれれば私はやはり論文の方を信じてしまうが、本当ならWHOに、ことの真偽をきっちり調査してもらい、その結果を発表してシロクロつけてほしいのだ。しかし、WHOのトップが、中国の政治力によって当選した人物が、こういったケースに直面した場合、中国にことの真偽をきりきり追及できるのだろうか。(そう心配するのは、WHOに対して失礼ですか)。
■もっとも別の考え方もあって、これまで難しかった中国の医療衛生行政に対するWHOの干渉がよりたやすくなり、中国国内の衛生状況が大きく改善されると期待できる面もある。陳氏が、中国当局とのコネをがんがん使って、エイズ問題とか情報隠蔽とか中国医療衛生のタブーに切り込んでくれれば、それは彼女が事務局長になった意義がある。
■いずれにしろ、選挙そのものは政治であっても、WHOの仕事自体は、世界の人々を病、とくに感染症の脅威から守る重大任務。ウイルスに国境はない。だからWHOの仕事にも国境はないはず。陳氏が多くの国の支持をえて当選した今、彼女には、中国の政治的意図にこだわらず、台湾のWHO加盟には人道的立場から積極性を示し、中国に情報隠蔽や医療汚職体質の可能性があれば、徹底的に追及し厳しく干渉する姿勢を忘れないでほしいと願いをこめて、エールを送りたい。
■最後にくりかえしますが、izaの「web of the year」新人賞への投票、よろしくお願いいたします。
福島様、初めまして。お邪魔します。
「台湾のWHO参加」が果たせないのはなんと言っても残念ですね。SARS禍の時も十分な支援が行えず「臍をかんだ」であろうWHO…
このところ続いた国際機関の事務局長選挙、蓋を開いてみるとなかなか興味深い結果になりましたね。国連の事務総長には“大量破壊兵器開発”問題で重要な時期を迎えている北朝鮮と関係の深い韓国の外交通商相、WHOには、国内にSARSの発生源となり、鳥インフルエンザの根源であるという疑いもかかっている中国から事務局長…IAEAの事務局長に取りざたされているのは、最近“核議論の解禁を”という声が出てきている(^_^)日本…
ただ、WHOのVirusHunterにとってひょっとすると一番重要な地域は「中国南部」ではないでしょうか。その意味では中国に顔の利く局長さんに期待するのは…無理ですかね。
となると、自衛のために“ワクチン”うちに行きましょうかね。
starbeast さま:初めまして。そういえば、国連事務総長も、なんか皮肉なのか、うまい具合なのかよくわからない感じの人選になりました。こういうターゲットの国とコネをもつトップを選んだことが、うまく作用すればいいんですけどね。
福島様
WHOの事務局長に中国の推薦が有効というのは、納得いかない話ですが、なんでも在りの中国式の権謀術数の前には、かないませんね、日本は…。
それにしても、国連も中国同様に本音と建前が乖離してますね。役割終わったかな?
うう、確かに台湾かわいそ、そして中国人で中立性が担保されるのかかなり不安。
最近、病原菌は、東南アジア(中国も含む)発生が多いから・・・こういうことは日本人の安保の問題でもあることを自覚して欲しいです。
そして、彼女のうちは検疫強化して欲しいですね。
福島様、再びお邪魔します。
特にWHOのTOPの方にはしっかりやっていただかないといけませんね。でないと“自分の死体袋”の注文した方が良さそうです。
世界のATMが「暗証番号が違います」って言い始めたら困るでしょうね。「戦争犯罪!」「謝罪要求!」とイロイロ使える番号があったはずなのに、全部使えなくなって「システム更新工事のためご迷惑お掛けしております」と張り紙出されたら、オネエチャンに入れあげて月末にチーママから(古っ)催促されてるツケが払えなくなる紳士が沢山いらっしゃるはずですがね。連合国から少し手足を引けば、ちゃんとしたカードとして使ってもらえるはずでしょうに。そう、限度額を超えて使ったら利息を取るというカードです。借金踏み倒しの常連があっちでもこっちでも議長などという席につく組織が正常に機能して何事かなしとげられるとはとても思えませんね。
TBさせて頂きました。
私も少し悲憤慷慨調のエントリーを書いてしまいました。
地下の陸奥宗光が泣いているぞ。
kikuti-zinnさま:中国がずるいのか、日本の外交がぬけているのか。中国人は喜んでいるようですが、香港紙などによれば香港住民は不安がっているようです。あのSARS対策でへた打っている陳氏がWHOトップって大丈夫なのか、と。SARSの犠牲者遺族への陳謝を拒絶したことで、香港市民のうけは悪い人らしい。
kmura54さま:陳氏の当選は、4回目の投票で、3回目に敗退した日本票(9票)が全部中国に流れたからなんですね。なんか、まぬけだなあ、と。
starbeastさま:香港人は、喜ぶかと思っていたら、結構心配している人がおおいんです。やはり、あのSARS時のパニックの印象がまだ残っているらしい。
nhac-toyota さま:コメントありがとうございます。組織が正常に機能するかどうかは、ウォッチしていく必要がありそうです。
ysaki777さま:中国の政治力だとか、陳氏の評価だとか、今さらどうこう言うつもりはありませんが、日本の外交的影響力の無力さというか、やる気のなさをみせつけられた気がします。
得票数の推移を見てみると、日本は全く何の働きかけもしていなかったことがまざまざとわかりますね。
ttp://www.wenweipo.com/image/2006/11/09/ch3.jpg
最初の9票のみで、落選した候補者に投票された票を拾う工作がゼロだったことがわかります。中国はこれをたくみに拾う工作を行っていたのでしょうね。文匯報の事前の票読みどおりに事が運んでいます。
彼女、香港ですこぶる評判が悪いですよ。今回の決定に対して香港人たちは、心配どころかアフリカ債務取り消しと相まって怒り心頭の人が多いようです。
福島様
こんばんは。
中国による世界への禍は、今後も拡がっていくことでしょう。日本国の外交力のなさに落胆してしまいますが、WHOのトップに中国人がなることで、逆に中国は衛生問題や環境問題をちきんと処理しなくてはならなくような気がします。
中国人(香港人)のトップによるWTOへの恣意的な働きかけは、逆に世界中に中国という国がいかにいい加減な国であるかを露呈することになり、「禍転じて福となす」こともできると思います。ただ、犠牲は出ますね。その点は、福島様ご指摘の通りだと思います。
それにしても、中国、目障りなことを次から次へとやってきますね。
中国の強かさは今に始まったことじゃないのでまぁこんなもんだろうなぁと。
それよりも日本外交筋の無能さにこそ腹が立ちます。結局外務省は何十年も中国へ利益供与してただけじゃねぇかと。
こんにちは。
香港在住者でSARS騒ぎ経験者です。
まさか、あのおばちゃんがこの地位を勝ち取るとは、もう何がなんだか?ってとこです。冗談でしょ??
あれだけの騒ぎにした最大の功労者ですから、ブラックユーモアなんですかね?これって…。
中国人や韓国人が、なんにせよ何かをまともにできるとはさっぱり思えないんですけどね。せいぜい他国のモノマネをするのが限界です。
「いいかもしれない」などと可能性の低いことを言うのはおかしくないですかね。物事というものは常識的に、可能性が高いほうへ動くのがふつうです。
これで鳥インフルエンザも「闇の中」。
これも中国の囲い込み作戦のおかげなのか。
国際的な金権選挙、というか、ちょっとでも親しみが持てる国に投票したんでしょうね。
真実ではなく、真実らしいことが世間一般には受け入れられるので・・・。
SARS問題の第一人者とでも思われているんじゃないですか。
タソガレさま:これからは、WHOが中国に対して弱腰に出たとき、国際社会からより厳しい批判の目が注がれるのではないか、というのが唯一の希望です。陳氏には、母国だからこそ、甘い部分は許されない、というプレッシャーを国際社会から与えるようにしてほしいですね。
ナルトさま:これからは中国に対して、WHOのトップを排出しているような国なのに、こんなずさんなことが許されるのか、という視点で、中国の保健衛生問題に対しより厳しい干渉がなされることを期待します。保健衛生問題は、内政だ、なんて言ってられません。ウイルスに国境はないですから。
backstab さま:まあ、選挙が終わって決まったあとに何をいっても負け犬の遠吠え。日本も、この新トップのもとの新体制で協力をしていかねばならないので、あまり陳氏に対する強い批判は控えようとは思っています。が、やはり日本の選挙の下手さにはかえすがえすも、あきれるというか。
leslieyoshi さま:選挙運動中は、SARSの功労者とされていう建前がとおっていたようです。香港人は、はぁあ?と思うことでしょうが。
koku さま:新しいトップのもとで、日本も最善の協力をしてゆかねばなりません。一番、やってほしいのは、中国にたいしWHOのトップを出したくらいなのだから、国内をもっとちゃんとしろ、と国際社会ぐるみで干渉してくれることですね。
kkzz07 さま:SARSの第一人者、そう見られている可能性はあります。鳥インフルエンザを「闇の中」にしないためにも、これから一層、国際社会はがんばってもらわないと。
香港衛生署及び大陸沿海部の疾病防疫中心のレベルは、非典及び禽流感の経験もあり決して低くはない。尾身先生はWPROでの実績もありすばらしい方だが、外務省及び厚労省は戦略を誤った。新興感染症対策にWHOと台湾との情報交換は必須だが、オブザーバー出席という形にすることに対しては、北京は絶対に受け入れられるはずがなく、中国本気を出させる結果となってしまった。
日本の関係者が中国の政治的原則を正確に理解していれば、台湾をオブザーバー以外の形で中国の面子を保って公衆衛生上有益な関与をさせる妥協がとり得たはずであり、わが国の外交的敗北といえる。