中国で物権法ができたら??その5

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 ■おい、まだ続くのかよ、とおしかりの声が聞こえてきそうなのですが、今、ほかの話題をアップする余裕がないので。新しい話ではありません。物権法反対派の老教授を取材して、そのインタビューをビジネスアイの方に掲載しましたが、ビジネスアイは読まれている方もすくないようなので、ここで転載。

 

■物権法は社会主義の否定!
我らが指導者は民法学者に欺かれているのだ!!
(と、マルクス主義の老教授はお怒りなのだ)


 ■ 物権法が制定までに審議に5年もかかったのは、保守派勢力の強い抵抗があったからだった。反対派は物権法制定によって何を危惧しているのか。「物権法は違憲」と主張し反対派の急先鋒にたってきた鞏献田・北京大学法学院教授に聞いた。

 物権法はどこが違憲なのか?
  「憲法では『社会主義的公共財産は神聖不可侵』(第12条)『公民の合法財産は、侵犯を受けない』(第13条)と表記され、法的地位は違う。物権法は双方に平等保護原則をもちいて、市場に入れば等価で交換される。しかし、全民の社会公共財産は、公民の私有財産と性質が違うこれを平等に保護はできない」。

 私有財産の保護はいらないか?
  「私は私有財産の保護は主張している。社会主義の私有財産は、生活必需品のことだ。衣食住、今なら自動車もそうだろう。だが、資本主義国の言う私有財産は企業の工場や鉱山なども含む。これは物権主体ではなく、市場主体とするべきだ。市場主体は国有、私営ともに平等でなければならない。ただ、なんでも市場化できるわけではない」

 改革開放後、国有企業資産がMBO(マネジメント・バイアウト)の名目で違法に流出した。この流出先は今の中国経済を支える大手私営企業家でもある。物権法制定はこれら過去の違法流出で私有化された国有資産の扱いはどうなるのか?
 鞏 物権法反対の焦点もそこにある。どうして先に国有資産法を制定しないのか。現実に向き合えば、国有資産の侵犯が一番ひどい。神聖不可侵といいながら一番侵犯されやすい。まず国有資産が保護を受けて、その後、合法の私有財産を保護することにすべきだ。

 農地の土地請負経営権の扱いについてはどう思うか?
 鞏 土地請負法の中ですでに私有化的表現があるが、さらに私有化を一歩進めたことになる。物権として長期所有を認め、農地や農村住宅地の流通を認めると禍はさらに大きくなる。すでに、一部の農村で農地の譲渡により農村が荒れているところがある。中国の問題は地方政府と企業の結託にあり、土地の不平等流通が起こる。

 政府はなぜ物権法制定を急ぐのか?
  民法完成を急ぎ、国家の法律体系を完成させたいからだ。これは正しい。ただ物権法の起草者はかたくなに資本主義路線に走り、社会主義制度を否定している。これが問題なのだ。
 

 党内で賛成派と反対派はどちらが多い?
  党の広範な基層幹部は私有化に反対だ。胡錦濤国家主席や温家宝首相も基本的には反対だろう。ただ、物権法は多くの専門家ですらわかっていない。一般庶民もわからない。わからないままに自由主義化に向かっていることが問題なのだ。

 物権法がなければ私営企業家が安心して経済活動に専念できず、資産を海外に移転するなどの問題もおきているが?
  それも民法の教授が物権法の必要性を主張する理由だ。彼らは物権法を制定せねば、国有資産も海外流出すると思っている。これは詭弁だ。国内でも非合法なものは海外でも非合法だ。これは腐敗分子の着想だ。

 物権法論争は党内の政治闘争にも関係あると思うか?
  ないとはいえない、あると言うのも難しい。私はマルクス主義と胡錦濤、呉邦国、温家宝同志を支持している。物権法は専門性が非常に強く、一般人にはわからない。良心と共産党の党性を失った知識分子が、資本主義に行こうと思って、我らが指導者を欺いている。


 
 鞏献田(きょう・けんでん)北京大学法学院教授。

 1944年山東省生まれ。中国共産党員で著書に『マルクス主義法学思想研究』などがある。2005年7月に公布された物権法第3次草案に対し「憲法違反だ」とする主張しを展開し、これをめぐり党内外を巻き込んだ大論争に発展し、物権法案審議が長引いた。最近、この大論争をまとめた「鞏献田旋風」(中国財政経済出版社刊)が出版された。

■物権法に反対する人が結構多いのはなぜか??

学者レベルでは、それが社会主義の原理を否定するから。物権法の制定が経済の自由化をすすめ、貧富の格差、階級社会を産むと考えるから。

庶民レベルでは、自分たちが物権法に守られるような私有財産などないし、結局金持ちのための法律だと思っているから。(それに、土地収用などが物権法で守られるくらいなら、誰も苦労しない。司法の独立のないところで、いくら法律が整っても、運用できないじゃん)

地方政府幹部レベルでは、物権法が自分たちの既得権益を脅かしかねないから。農村の土地は、オレのもの的にすきかって切り売りして私腹を肥やしてきたが、物権法で農地の用益物権が確立されたら、やりにくくなりそう。(でも、結局、司法が独立していないから、裁判官を丸め込めば問題ないのだ)

党中央レベルでは、物権法は明らかに、経済・社会の自由主義、資本主義化をすすめる。これがいずれ体制の変革につながりかねない。社会主義体制だからこそ、党中央幹部らは、みんな都市の一等地に閑静な住宅を配給され、一生、コックも秘書も運転手付き車もついて、医療費も免除。どこでも顔パス。体制が変革するということは、こういう恩恵のすべてが失われる、ということ。そりゃ、反対するわな。

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「中国で物権法ができたら??その5」への12件のフィードバック

  1. 教条主義的マルクス主義からいえば鞏献田教授は100%間違っていません。しかし、マルクスが唱えたのは、実際に社会を動かしている経済法則を現実の経済活動のなかから見出し、 それを労働者のために役立てなければならないといったのであって、 鞏教授の固執する共産主義は“亡霊がヨーロッパを徘徊している。共産主義という妖怪が”の幽霊のほうのコミュニズムです。

  2.  初めまして。中国の物権法に関するエントリーおよび新聞紙上の記事を興味深く拝読しています。
    > 鞏 ・・・物権法は多くの専門家ですらわかっていない。一般庶民もわからない。・・・
     さもありなん、という感じですね。前回のエントリーは何度も読み返してみましたが、わたしも別の意味でよくわかりませんでした(笑)。
     39(条?)では、私的所有を保障しているようですが、これがどのような意味なのか。絶対性・排他性を認めているのかどうか(認めているのなら、単なる注意規定かもしれませんが論理的には不必要な規定がたくさんありますし、法律の留保のような文言の意味もよくわかりません)。また、単純な比較はできないでしょうが、物権法(民法)といいながら、日本なら土地収用法や農地法その他の法律で規定されるべき条項も含んでいて、相互の条項の優劣も不明です。
     なお、(省略されているのかもしれませんが)実際の民事紛争の解決基準となる境界画定に関する条項などは含まれていないようですね。
     そもそも「社会主義市場経済」という概念自体意味不明ですし、法治主義もない中国でのことですから、あまり厳密に考えることには意味がないのかもしれませんが、この問題は今後の中国を考える上で非常に重要だと思うので、少なくともわたしは続編を期待しています(笑)。

  3. >司法が独立していないから、裁判官を丸め込めば問題ない
    官僚レベルでは、いまだに城狐社鼠がはびこり法を侮っているわけですか。韓非から2千年以上たってますが、進歩ないですね。中国の実態は、マルクス主義の皮をかぶった儒教という気がします。

  4.  中国が一気に民主化するような革命的なことは、もう期待できないし、革命は混乱が大きすぎて犠牲者が沢山出ることを考えると、物権法は、中国もまた漸次的変革の時代に入ったのかな。社会主義も民主主義も、もはやユートピアではないと、みんな知っていますから。
     最近読んだ本で言えば、マンハイムのいう「社会を改善するための一連の個別の技術的問題」に、ポッパーのいう「漸次的な社会工学」に、視点は移ってきていると理解してよいかも。
     『歴史とは何か』でEHカーはこれからは革命の時代だと書きましたが、ロシア革命が失敗に終わってしまった今では、彼の大著『ボリシェヴィキ革命』は当分は読まれないでしょうね。

  5. To weirdo31さん
    きょうは、物権法起草者のインタビューにいってきました。私にとっては、こっちの方が、すとんと理解できました。新聞にのせてくれるかな。マルクス主義って、常人には理解しがたい世界でした。

  6. To mythosjpさん
    初めまして。しつこいブログにお付き合い、ありがとうございます。
    > なお、(省略されているのかもしれませんが)実際の民事紛争の解決基準となる境界画定に関する条項などは含まれていないようですね。
    所有権(第二篇)の項の中に「相隣関係」(第7章)というのがあって、それが境界の規定にあたるのかな?土地おける水とか排水の便宜とか、通行の権利とか、建築物の電線とか、水道とか土地の占有とか、廃棄物や騒音、電磁波の影響とか、書かれています。
     法治国家でない中国で、物権法がどのくらい意味をもつのかは、??ですが、とにかくできた!!ということに、少なからぬインパクトがあるみたいです。物権法大論争は、改革開放以来30年の間の3回目の、保守派VS改革派の理論闘争が表面化したものだそうです。
     

  7. To paraisoさん
    >>司法が独立していないから、裁判官を丸め込めば問題ない
    >
    >官僚レベルでは、いまだに城狐社鼠がはびこり法を侮っているわけですか。韓非から2千年以上たってますが、進歩ないですね。中国の実態は、マルクス主義の皮をかぶった儒教という気がします。
     趙紫陽さんは現代中国を世界で最悪の資本主義といったそうな。かたくなにマルクス主義をとなえている御仁がいまも健在で影響力を発揮されていることに、ちょっとびっくりいたしました。今回は。

  8. To kokuさん
     あ、にてる!!法治の徹底に必要なことは、司法の独立。報道統制は長い目でみれば、百害あって一利無しです。

  9. To ブリオッシュ或いは出べその親方さん
    > 最近読んだ本で言えば、マンハイムのいう「社会を改善するための一連の個別の技術的問題」に、ポッパーのいう「漸次的な社会工学」に、視点は移ってきていると理解してよいかも。
    うわあ、難しそうな本。邦訳にないですよね??基本の古典をすっとばしちゃいけないなあ、と思って「ボリシェヴィキ革命」をアマゾンで検索したら26000円以上してました。やっぱり読まれないと思います。

  10. あ、そういう題名の本でなくて、本の中に出てきている理論のことか。いずれにしろ、社会哲学系の古典にはうといフクシマでした。勉強せねば。

  11. 物権法に反対する人が結構多いのはなぜか?→社会主義の原理を否定から
    が正しいとすると現在の中国社会は社会主義原理によって成り立っているということになるのでしょうかw
    中国の4000年の慣習が、たかがマルクス60年で、
    はたまた(おそらく日本経由)の民法で一朝一夕に変るものか楽しみだね。
    戦前、日本は植民地支配のため、韓国、台湾、満州、北支に旧慣習調査を行いました。今で言えば文化人類学みたいなものでしょうか?我妻栄さんもその中の一員だったと記憶してす。
    草柳大蔵さんの満鉄調査部に載ってた話なんですが、ある山で材木の切り出しに税金を課するに際し、清代は木一本あたりいくらと税金を課していたのを、日本の官憲が材木の容積を基準に合理的に税を課すことにしたそうです。
    すると・・・

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