国家文化発展計画綱要のねらいは?
■第17回党大会前夜の
メディア・文化統制大号令
娯楽メディア充実で
愚民の不満をそらし思想管理強化
毛沢東もやった独裁強化の道
■胡錦濤政権がイデオロギー管理の強化について「北朝鮮やキューバに見習うべきだ」と明確に打ち出したのは2004年9月の第16期中央委員会第4回総会(4中総会)の非公開講話だ。これは当初、「ほんとに、そんなえげつないこといったのか」と噂になり、間もなく関係筋から事実であることが確認された。
■民衆重視姿勢をかかげる胡錦濤政権はその誕生直後の02年第16回党大会から03年の全人代にかけて、「メディア改革」を打ち出し、「実際、大衆、生活」の三つにより接近したメディアの役割をうたっていた時。しかし約一年後、それが180度方向転換する。
■新型肺炎(SARS)で、当局の情報隠蔽問題が表面化し、その直後、報道の自由が一瞬、大きく進んだことがあったが、そうなったとき、大衆の当局に対する不満がわっと噴出しそうになった。水面下で江沢民派との厳しい権力闘争の最中にあった胡錦濤はその一瞬、政権の危機を本気で感じたらしい。で、出した結論は、一党独裁を安定させるには、イデオロギー管理、つまり大衆に自分の頭で自由な思想や発想をもつことを許さず、党の指導におとなしく従わせるという愚民化政策しかない、ということだった。
■愚民化政策の要は、西洋史をめくれば必ず出てくる「パン」と「サーカス」である。「小康社会」(衣食住たりるくらし)の実現によって、貧富の差の不満はあれど、とりあえず「パン」は与えた。次ぎは「サーカス(娯楽)」を、というのが今の状況だ。
■13日に公布された今後五年の国家文化発展計画では、イデオロギー管理、報道統制とならんで、その「サーカス」の充実をうたっている。「思想指導」「思想道徳建設」に続いて第三番目に、「公共文化サービス」強化が上げられているのだ。この中身をちょっとみてみよう。
■「公共文化サービスネットワークを完成させる。広大な人民大衆の基本的な文化需要を満足させることを目標とする」
「大型公共文化施設を中心とし、社区、郷鎮レベルの文化施設を基礎とし、人民と切実な関係のある文化利益施設建設を優先的にアレンジし、図書館、博物館、文化館、美術館、テレビ、ラジオ、インターネットサービスを強化する」
■「農村文化建設を強化する。政府は、資源配置を調整し、農村に文化資源を傾斜配分し、農村文化建設の長期的メカニズムを構築する」「ラジオテレビをすべての農家に普及させ、無線、衛星、有線などの多様な手段で、農村地区のラジオテレビ番組の充実をはかる」「農村映画プロジェクトにより、農村で豊富な映画資源を配置するようにし、農村でのデジタル映画放送を加速、農村の映画館を改造し、全国の農村一村に一ヶ月に一度は新しい映画を放映するようにする」
■そのほか、国家文化イメージを代表する重点文化施設建設や、農村に重点をおいた電子図書、舞台芸術、知識セミナー、ビデオ番組のデータベース建設が上げられている。これで「農村の読書難、映画、舞台観賞難、テレビラジオ視聴難」を解決しよう、という。
■貧富の差や環境汚染、搾取と差別など現実の不満から農民の目をそらさせるのは、娯楽文化サービスである。同時にその娯楽文化サービスは、イデオロギー管理、思想統制の手段でもある。毛沢東も使った手だ。そこで、普及させるべき娯楽・文化コンテンツは必ず国産でなければならない、ということになる。
■特に子供の観るアニメ、漫画の感化力はばかにならない。たとえば、勧善懲悪に収まりきれない戦争の本質を描いている日本の「ガンダム」(海賊版)をみた少年に「ジオン軍と連邦軍、どちらが悪者と思うか」と尋ねると、「戦争に絶対正義なんてない」と答えた、という話がある。たかがアニメ。だが、共産党は絶対正義、日本鬼子は絶対悪、といったイデオロギーの刷り込みを覆すくらいの影響力はあるのだ。
ガンダム公式サイト
■また、知り合いの北京っ子の少女は、日本アニメ「ケロロ軍曹」(海賊版で出回っている)が大好き。どんなアニメ?と聞くと「宇宙からの侵略者がかわいいヤツで、被侵略者と仲良くなってしまう」そうだ。主役の侵略者で宇宙人のケロロ軍曹は、あきらかに旧帝国軍人をモデルにしたキャラクター。中国の女の子に、憎むべき「侵略者の日本鬼子」モデルキャラを「かわいいよぉ~」と言わしめる、恐るべきアニメの感化力!
http://www.sunrise-inc.co.jp/keroro/
ケロロ軍曹サイト
■話がずれたが、国家文化発展計画は娯楽コンテンツの国産化を強く打ち出し、中でも「民族アニメ漫画産業」を大きく発展させるとした。国産アニメ漫画振興プロジェクトを推し進め、「中国の風格があり国際的な影響力をもつアニメ作品」を制作できる技術、設備のプラットホームを創る、としている。
■ところで、こういったメディア・文化統制強化政策がなぜ、今の時期に集中して発表されるか。いうまでもなく今が、胡錦濤政権二期目がスタートする来年の第17回党大会をひかえ、権力完全掌握にむけた最後のツメの時期だからだ。とくに来月の6中総会(中央委員会第6回総会)前の今ごろから今年末にかけては、水面下で微妙な権力派閥の駆け引きや暗闘が繰り広げられるため、社会を不安定かさせたり胡錦濤政権にマイナスとなるような報道、世論は徹底的に抑え込まねばならない。
■同時に、世界貿易機関(WTO)加盟から五年、メディアコンテンツ市場の国際競争時代を迎えつつある中国としては、今、真剣に競争力のあるメディアコンテンツ産業を育成せねば、激しい市場競争に負け、外国製メディアコンテンツに市場を席巻されるおそれがある。それは、経済的に大きなマイナスであるだけでない。いくらメディア統制を強化しても、コンテンツが外国製なら、イデオロギー管理の効果は半減以下だ。
■というわけで、今、中国当局としては、現体制を維持するためにはメディア・文化統制大号令をかけざるを得ない状況なのだ。愚民にサーカスを。
■しかし、である。今は、「革命ロマン主義」「革命英雄主義」映画やドラマに中国人民が酔いしれた鎖国状況の毛沢東時代とは全く違う。日々、国境をこえて人や物が交流し、インターネットを通じて海外の文化やメディアコンテンツが絶え間なく流入する中国社会で、党の号令と統制と思惑のもとで創られたアニメや映画やテレビドラマ、メディアコンテンツで満足する愚民など、どこにいるのだろうか。
■だから、私は「中国報道(メディア)のあした」にやはり期待を持つのである。国際社会が鼻白む、このあからさまなメディア・文化統制大号令は、結果的に大衆の不満をいっそうかきたて、言論、表現の自由への渇望を強くし、大きなうねりとなって、この体制をかえていくのだろうと。。
福島さん。読み応えのあるエントリありがとうございます。
何か最近、中国の大衆紙も独自色が弱まったような気がするのは、このようなことが影響しているのでしょうか。
おはようございます。
福島さん、今朝の福島さんの「中国ネット環境浄化月間」の記事読みました。
権力完全掌握を目指すと言う国家権力も怖いが、これに納得する?反発が出来ない国民の分化も怖い。
sakuratou さま:私も同感です。中国の大衆紙、独立系都市報の独自色は弱まってきていますね。でも、そうなると売上げがおちて、編集者はまた我をとりもどすのです。南方都市報は、編集長が(不当解雇などで)変わると、しばらくおとなしくなるのですが、そうすると部数ががたーんと減って、あわててまた独自色を出して、また編集長が解雇されて、のくりかえしです。
くぼた さま:記事読んでくださってありがとうございます。国民は、納得しているのではなく、無視しているのかもしれませんね。彼らの多くは、今日一日、一日の生活が重要なんでしょう。
福島さん
そうか、そういえば以前中国には「こんにちは」というような挨拶は使わないのですよ、通常は「飯は食ったか?」「腹は減ってないか?」というのが日常の挨拶言葉と聞いた記憶が有りますよ。貴方の仰るとおり毎日毎日が大変なのでしょうね。
昨日の「秋刀魚」美味かったですか?我が家も今日は秋刀魚にします。それと前記コメントの国民の?分化?は「文化」の誤字でした。慌て者でゴメン。
押さえつけられるエネルギーは人口の多さに比例して(二乗に比例?)ますます蓋を持ち上げあちこちから噴き出すのでしょうね。発電用蒸気のように触れると即死するような沸点を超えた蒸気ですね。
彼ら支那共産党が求めるものは、“共産党政権が持続すること”であって、人民の幸福ではないことがよく伝わってきます。少しづつですが、欧米から人権問題を重視せよと伝わってきているようです。次の記事を大いに期待いたします。
福島さま、
一度、北京の某有名大学の軍事史研究家と議論したことがありました。彼は農民問題にも関心が深く、主に農民問題についての議論に終始しました。
で、双方が達した結論は、農民の生活、特に教育水準が改善しない限り民主化は絵に描いた餅だし、農民問題を解決するには(党の立場としては)、愚民化政策しかないという、民主化のための非民主化政策の実施という皮肉なものでした。そして、両人とも党の指導者に深く同情したのでした。
実際のところ農民問題解決の処方箋を党の指導部は持っているのか大いに疑問です。ご報道になった「サーカス」でいつまで農民をだませるものなのでしょうか?伝統の「敷衍、敷衍」というやり方では、火山はきっと噴火すると思います。
おはようございます。
福島さん、今日の貴方の記事「HIV感染題材の小説発禁」
作家抵抗し訴訟 中国当局はこの訴訟問題を報道規制ですか、国の売血政策でHIVが広がった実在の農村の実体に迫った初の小説を国が出版社に圧力をかけるなどは、いつも言っている様に世界の常識では考えられません。「売血政策」等と言う政策もまるで国民の命を犠牲にして国が成り立っているような{政策」?
一方米国の反体制華僑「中国民主国家リサーチセンター」が中国のような専制国家が安保理常任理事国の座にいるより日本のような民主国家が常任理事国になる方がよいと日本支持表明、とも有ります。
作家の訴訟といい、反体制組織の華僑団体の日本支持の公式表明といい、少しずつでも意識改革が出てきていると見てよいのでしょうか?また、中国はこれを完全に押さえ込むことは出来るのでしょうか?いずれにしても長い長い時間はかかるでしょうが・・・。
福島様
アニメのようなコンテンツ制作は共産党が「やれ」と号令したからと言ってできるものではないことぐらい分かっているのではないでしょうか?
それでも敢えて号令を掛けなくてはならない、敢えてメディアの統制をしなければならないという点に中国共産党の追い詰められた状況が現れているようですね。
私が心配なのは中国に政変が起きたときの社会的な混乱です。中国に進出している企業がその辺りのリスクマネージメントをきちんとやっているのかどうか・・・
そういえば、単純な勧善懲悪的ではないアニメが増えたのはいつ頃からでしたか・・・。
宇宙戦艦ヤマトも結果的にはガミラスも完全な悪役ではなく、滅亡に瀕した自らの生活を守るための地球侵略でしたね。
くぼたさま:閻連科さん、これで発禁二度目なんです。最初の発禁本「人民に奉仕する」は文芸春秋刊から最近刊行され、今回のエイズ小説「丁荘夢」は河出書房新社から年内に邦訳出版予定です。どうか、買ってあげてください。宣伝してあげてください。次のエントリーで詳しく紹介しますが、発禁作家は、海外で本が売れないとおわりです。国内で活きていけません。
nhac-toyota さま:18日に満州事変75周年エントリーを書こうと思いつつ、風邪でパワーきれ。しんようでは、記念式典でフラストレーションをためた大衆が日本国旗をもやしたりして、警察ともみあいました。そうそう中国では「反日」もサーカス(娯楽)のひとつなんです。党が今一番おそれているのは人民、というのは本当みたいですね。
マルコおいちゃんさま:農民問題解決の処方箋をもっているのか、うわぁ、これはきっと今中国指導部が一番たずねられたくない質問でしょう。どうみても、もっていません。
農村問題解決には、毛沢東主義回帰、という意見が今突出してきています。いわゆる「新左派経済学」とよばれるものです。しかし、自由主義経済への流れはもうとめられません。いちおう新農村建設と、もっともらしくスローガンを打ち出していますが、これを新左派でやるか、自由主義でやるかも今、けんけんがくがくの議論が展開されている状況なのです。いずれの手法も、ラディカルな副作用がともなうはずです。それを断行する肝が据わっていないようなので、胡錦濤はぼんじ~ん、と言われているのです。
香織様、いつも拝見させて頂いております。
ご意見感服しております。
飽くなき憎悪の根源、こんな資源も無い小さな国に戦争で負けた併合された、中朝露の現代の人には理解できず受け入れられないのでは、それに引き換え日本は物資、資源に負けたので米国に負けたわけではない、昔、年寄りに良く聞いた話です、負け惜しみかもしれないが、しかし、この精神的余裕は負けたものには解らないのではないか、そして、いまだにその敗戦した日本に追い越され余裕を持たれては、寝ても醒めても日本憎し、人間なんてその程度の物ではないか、仮に今の力の台湾と戦争して完膚なきまでに負けたとして、その台湾が経済的に世界有数の力を発揮していたとしたら考えに及ばないが腹は立つことでしょう、立ち上がれなければ、恨みもするでしょう。もっとも、日本人の資質はそこまで相手を恨み続ける根気は持合せていない、他のことに切り替え努力する事でしょう、ここが違うんですね。
どなたかが仰ってました。
中国、やっと近代化に入った
韓国、近代化途上
露西亜、近代化途上
先進国と考えては理解できない、そのうえで対処する事が
今の日本に求められている。・・
踏まえての感想を請う、
突然出てきて勝手言ってすいません。
福島様
ますます気合充実のブログ、興味深く拝見しました。
でもこの綱要…お手本は日本かもしれないと思うのは私だけでしょうか?
メディアコントロールの強弱はあるにせよ、人の振り見て吾が振り直せですね。
こんばんは。
福島さん、ちょっと、本題から外れますが、貴方の仕事大変ヤネ、小生たちは、ホウ、へえ、またか、とか言いながら読めば良いし、こんなこと書かなくてもとか、喜んだりブツブツ言ってりゃいいんですがね、書くあなた達の努力には敬服しますよ。他のブログで感じたものですからちょっと感想を書きました。
強い意志と、健康な身体で頑張って下さい。出来るだけ日本産を食べて(たとえ目黒の秋刀魚でも)ご活躍を期待しています。
benkei さま:駄文、お付き合いいただきまして、ありがとうございます。中国の日本憎しは、教育のせい半分、しっと半分、でしょうか。矛盾があるのは、こんな近い場所で長くつきあっているのですから、当然です。私は日中友好というスローガンを日中両国民が唱和するような気持ちのわるいことだけはやってほしくないと思っています。
golgopapa さま:はは、まったくです。
くぼたさま:まあ、好きでやっていますから。がんばりますから、こんごとも、よろしくお願いいたします。
福島様
本日はこちらの記事に関係ないTBであったにもかかわらず、わざわざお越しくださり、ありがとうございました。
とにかく博士がご無事でよかったです。
福島様におかれましても、シナでは十分お気をつけください。博士のブログによると産経さんはシナに「言論暴力団」とよばれて嫌われているそうですので。(これは名誉なことです!)言論暴力団上等!暴力で言論弾圧をする真性マフィアが何を言う!と笑ってやります。
いつもこちらのブログを拝見しておりますが、皆様のレベルの高さに圧倒されてコメントを控えております。
微力ながら応援しておりますので頑張ってください!