民以何食為天 食の安全学⑥

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■米国で、ペットフードが原因で犬や猫の中毒死が発生している。米食品医薬品局(FDA)は原料に使用された中国産の小麦製品に化学物質・メラミンが混入していたとして禁輸を発表しているが、中国側は、これをいいがかりだとしている。中国の食品安全のいいかげんさを身をもってしる私としては、いいがかりをつけられても、そりゃしかたあるまい、と思うものの、狂牛病問題への対応などからかいまみえる米国の食品安全も、必ずしもほめられたものではなかろう。そもそも、米国側は最初は殺鼠剤が原因とかいっていなかったか。それが、実は殺鼠剤ではなくて、メラミンが検出されました…、って米国も、いいかげんな。

■すくなくとも報道ベースでは、中国国内ではメラミン汚染の小麦粉問題は確認されていない。ところでなぜ、小麦にメラミンなのか。専門家の受け売り風に説明しておくと、メラミンはプラスチック製食器などに使う化合物。ただ小麦のタンパク質を測定するとき、窒素の含有量を測定してタンパク質量に換算する方法が使われるため、窒素含有量の多いメラミンを小麦にくわえると、検出される窒素量が多いので、タンパク質含有量が多く見せかけることができる、というカラクリがある。メラミンはタンパク質の4倍の窒素を含有しているため、メラミンを1グラム小麦に加えると、タンパク質が4グラム増えたように測定されるわけだ。確かにせこい中国人生産者が、そういうズルをした可能性は有りそうな気がする。

■たが、たとえメラミンが意図的に加えられていたとしても、さほど毒性の強い物質ではないらしいから、果たしてこれが中毒の原因かどうかはわからない。そもそも中国ではメラミン中毒の例は報告されていない。もっとも人間が食べても平気な微量でも、体重の小さい犬なら中毒になる可能性はある。でも小麦は中国北部においては主食だからね、赤ん坊も子供も食べている。うーん、本当に中国産小麦のせいなのか、この件にかんしてはもう少し、材料というかデータがほしいところだ。

■むしろ、穀物の汚染、安全の問題については、私は小麦より米を問題にすべきだと思う。まず水稲は、水分が多いので、水が汚染されれば、米も汚染される。さらに、中国では、カビの生えた米をきれいに漂白して、新米のふりしてい売る、ニセ米も多い。というわけで、今回は米がテーマ。

■農業大国 中国の没落
 毒米、民工米、カドミウム米
 最後に米を救うのは日本の技術かもしれない?

■中国で毒米(毒大米)事件が最初に全国的に問題視されるようになったのは2000年10月ではないだろうか。河南省原陽県の農民・王斌が、山東省魚台県から50㌧以上の質のわるい米を買い、それを鉱物油をまぜて漂白、艶を出し、おいしいと人気が高く値段も高い東北米の袋につめて広東省に運んで売った事件が発覚。この米を食べて、気分が悪くなったり下痢やめまいなどを訴える中毒患者が出て問題となった。この王斌は逮捕されたが、こういった毒米が市場に広く出回っていたことがつぎつぎ明るみになり、同年12月には広東省だけで145トンの毒米が押収されている。油のしみた毒米はいまも、ときどき発見され、相当ねぶかい問題である。

■この事件についていえば、中毒は、米にまぜられた鉱物油が原因とされているが、中国では古い米自体が問題である場合も多い。中国各地で備蓄されている古米は管理がわるく、発がん性のあるカビが発生している場合が多いのだ。このカビ毒はアフラトキシン。中国農業大学食品学院の胡小松副院長によると、ダイオキシンの十倍くらいの毒性があり、とくに人体に入ると肝臓への影響が強く、最短で24週間継続して摂取すれば肝癌を引き起こすおそれがある。自然界にある最強の発がん性物質という。

■このカビ毒に汚染されている米は、黄色く変色しているので黄変米などとも呼ばれる。国家としては、この古いカビの生えた米を食用として市場に流通させることをはっきり禁じているが、実際は安い値段、普通の米の3分の1くらいでどうどうと売られている。おもに建設現場の食堂などで使われ、最低貧困層の出稼ぎ農民「民工」が食べているので、「民工米」と呼ばれている。

■このシリーズで参考にしている周勍著「民以何食為天」によれば、民工米は、天津や北京など都市部で一袋46㌔入りがわずか48元だが、もともとが捨てるしかないタダ同然の米。米の小売業者にすれば普通の米一袋を売ったときの純利益は1元あまりだが、民工米は一袋あたり7~8元の利益があるのだという。濡れ手に粟ならぬ濡れ手に米状態。

■「中国質量万里行」雑誌の報道によれば、北京だけでも年間1万㌧以上の民工米が食べられている。北京で食べられている民工米の出所は遼寧省遼東や、黒竜江省五常で、工事現場の食堂だけでなく大学の食堂にも流れているとか。

■五輪開催のおり、北京を訪れる外国人観光客は、意匠をこらしたスタジアムなどの五輪施設や、有名建築家の手になる数々の建築物や豪華ホテル、商業ビル、マンションの林立する国際都市ぶりに感嘆の声をあげるかもしれないが、その街並みは、最低賃金しか払われず、休みも与えられず、一日の最大の楽しみである食事すら発がん性の高い古々々米を食べさせられ続け、いくばくかの金をもって故郷に帰ったときには末期がんでした、というような民工の命の使い捨てによって完成したのだということに思いを馳せてほしい。

■毒米も民工米も、農家や小売り業者が目先の利益を目的におこなっているのだが、最近明るみになったカドミウム米、水銀米、ヒ素米の存在は、量的にはわずかだというものの、中国の稲作農業の未来自体に影響する深刻な問題に思える。

■2006年11月、国家工商行政管理総局が行った市場で流通している米の品質抜き打ち検査によると98・9%が合格したのだが、不合格理由はいずれも基準値以上のカドミウムが含有していたことだった。同局はこの原因を土壌汚染による、としている。

■中国の耕地の10%が農薬や肥料、工業廃水、生活ゴミなどで汚染され、それが農作物の品質にマイナス影響を与えていることは当局も認め、危機感を募らせている。とくに、珠江デルタ流域の耕地は半分以上が、カドミウム、ヒ素、水銀などの重金属に汚染され、そこで育った米、野菜、くだものを抽出検査した結果、程度の違いこそあれ、重金属の含有量が基準値を超えていた。(信息時報2004年6月22日)

■今年4月26日、深センの検疫当局が抽出検査した結果では、依然、少数ながら一部米から基準値以上のカドミウムが検出されている。また、深センの米の一部は水分が基準より多く、まずい上に、カビが生えやすいことが、指摘されている。

■こういった状況をかんがえると、確かに中国は、小麦、米生産量世界一の農業大国だが、その生産レベルはかならずしも高くない。いや、むしろ人口増に対し、穀物生産増がおいついていない。93年から2003年までの10年間で、野菜の生産量は3倍になっているのに、穀物類の生産は1割減少、という。実際、2003年~04年、穀物生産量の不足で、輸出より輸入が増え、04年から中国は穀物輸入国に転落。05,06年は比較的豊作だったようだが、米国との貿易不均衡是正から、大量の穀物を買う必要もあり、日中関係改善のため今年から日本の米輸入を開始。専門家の中には「中国の農業危機」は避けられない、という人もいる。人口13億の中国の農業危機、それは世界の食糧難を意味するのだから、他人ごと、というわけにはいかない。

■ところで、中国の農業危機の主たる原因、土壌汚染、農民の出稼ぎによる農地の荒廃、効率的農業ができない農業・土地政策、そして品種改良など農業技術や生産後の管理技術の後れ、これらの問題のうち、品種改良や、農業技術や管理技術については、日本の協力が期待されているのではないだろうか。実際、日本はすでにそうとう協力している。

■日本の技術指導を経て、大連や黒竜江省でつくられた「魚沼産コシヒカリ」や「あきたこまち」などは、中国の米の中で、ダントツにおいしい。中国で生産されているのに、「魚沼産」と言っていいのか、と文句もいいたくなるが、これはブランド名だからいいのだそうだ。日本でも中国産コシヒカリとかあきたこまちとか、売られているはずだ。中国産コシヒカリを日本産といつわって福井県の業者が売っていた事件が2005年に発覚し、日本人にも中国人みたいなのがいるなあ、と腹立たしくおもったことがあるが、米に関しては口の肥えた日本人がだませるレベルに達したか、と驚いたものである。

■つまり、日本人の開発した米、日本の技術指導があれば、中国でも相当おいしく安全な米ができるわけだ。このほか、精米技術とか貯蔵管理など、日本の技術は群をぬいてすぐれているのではないだろうか。去年の米など、食べ比べると、日本産の米というのは、中国産とくらべると味が劣化していない。というわけで、中国の農業危機、とくに米の分野で救世主となるのは日本かもしれない、と思っている。こういった技術協力は、うまくやらないと日本の農業の不利になるという危惧もあるみたいだが、私自身は、ぜひ中国人に、「お米のひとつぶひとつぶに仏さんがやどっているのだ」という、日本人古来の米に対する信仰というか愛着の深さも含めて教えて、中国の米を安全にしてほしいものだと思う。

「民以何食為天 食の安全学⑥」への22件のフィードバック

  1. 福島様、こんにちは。
    カドミウムに水銀に、カビ毒等々、複合汚染された米を食べ続けている中国で、謎の奇病が流行するのも時間の問題かと。それとも、昔の忍者よろしく、体が毒に慣れて、中国人だけは食べても大丈夫とか?
    日本が持つ技術、知見、指導等々、人道的見地に立てば、当然援助すべきでしょうが、仮に援助しても、感謝などしないでしょうし、パクッて商売を始めることは、これまでの他の例を見ても予想がつき、絶対援助すべきでは無いとさえ思ってしまいます。
    心が狭いんでしょうかね。

  2.  うちは近所のドラッグストアで10キロ2980円で売っている「あきたこまち」か「華越前」です。1000円高い魚沼コシヒカリにしなくても、とてもおいしいですよ。

  3. 米の持込みはばれると税関にしこたま怒られるのでほどほどに。
    長期出張者が別送で見つかってました。ハンドキャリーなら以下略
    加工米はいいらしいんですけどね。

  4. 福島記者のおっしゃるとおり、東北、とりわけ延辺朝鮮族自治州周辺で作られたお米はおいしかったですね。去年、調査で行ったんですけど、毎日おいしくご飯が食べられて幸せでした。木耳も大量に出てきますけど。木耳畑も実見したけど、農薬はどうなってるんだろう???東北だと、生木耳+ワサビ(チューブのワサビ)+醤油で出てくるので、何がかかってるかとドキドキします。
    米といえば1989年に西安の鐘楼付近の自由市場で見かけた米を買ってこなかったのが一生の不覚です。まだ糧票が必要だった時期なので、留学生に売ってくれたかどうかは謎だけど。実に美しい数種類の米が並んでいました。
    89年頃だと、北京では、老百姓の行く食堂や学食では、米飯は小石入りがデフォルトだったので、西安や洛陽の稀飯の美しさには驚きました。北京では、まずは石をよけるのがご飯を食べる前の作法でした。歯が欠けても、北京の歯医者にはかかれないし。

  5. 人間には致死量ではなくとも小動物には致死量、また体内機能の違いが致命傷になる事もあるのでは?
    私は別に動物医でもありませんから詳しくは知りませんが、動物によっても毒物も変わってくるのでは?

  6. 何時もROMさせて頂いています。
    酒のつまみの殻付きピーナッツで懲りたので、極力中国産は避けているのですが、加工品や外食、どうしようもないですね。
    中国を世界の工場と持て囃しますが、民工米の話には胸が詰まりました。
    百円ショップで雑多なモノが買える裏側には、弱い立場の者を徹底的に利用する仕組みが有るからと言えるでしょう。
    タイトルの「民以何食為天」、最近は「驚天動地」としか読めなくなりました。(共通点は”天”だけですがw)
    変なモノ食べ過ぎて体をこわす前に無事ご帰還なさいますようお祈りしております。

  7.  なんか、このまま放っておくと勝手に中国は滅亡するんじゃないか?って良からぬ事を思ってしまったワタシ(オイオイ)いずれ、食料略奪の為に中国が近隣諸国へ出兵しそうな気がするのはワタシだけでしょうか?

  8. はじめまして。愛読者のひとりです。
    中国産小麦の件は、メラミンだけでなく、シアヌル酸も混入していたために、動物の体内で結晶が生じて、腎障害を起こした疑いがあるとの報道を読みました。
    http://www.avma.org/press/releases/070501_petfoodrecall.asp
    このような複合汚染があることを考えると、本当にProduct of Chinaと書かれている食品は全力で避けなければ、と思います。
    アメリカ在住なのですが、ここ数年、ゴボウやレンコン、生のタケノコなどが東洋食料品スーパーに安価で並ぶようになり、ほくほくしていました。しかし、ふと在庫補充のため足下に転がっている箱を見ると、まぎれもなく中国産。飛行機で地球の裏側まで運んでもまだ安い、というこの事実。日本と違って、野菜の生産地は表示義務はないので、自分で努力してチェックするしかないです。
    アジア系・中華系の料理は大好きなのですが、冷凍ウナギ、干し椎茸、キクラゲ、ザーサイ、黒酢、ピータンなど、中国本土以外のものを入手するのはほぼ不可能。外食のことや、味噌の原料などまで思いを致せば、途方にくれてしまいます。
    せいぜい、安いからといって飛びつかないよう、同じ種類のものを大量に続けて食べないよう(イヌはドッグフードしか食べませんからね)、他人より大量に摂取するもの(米など)は特にケチらないよう、気をつけています。
    福島様も、どうぞお気をつけて。

  9. メラミンの毒性についてMerck Index を調べたところ「毒性なし」と書いてあります。kkoshさんご指摘のようにシアヌル酸との相乗作用だったのかもしれません。メラミンを添加する目的は高タンパク質の高級品に見せかけて高く売ることにあったわけで、中国国内で流通している小麦にも添加されているとは限らないのではないでしょうか。
    いずれ中国は水不足、土壌汚染などにより13億人を養えなくなり、国民の不満をそらすためにも、台湾や日本への侵略を企てると思います。ひょっとすると世界征服も視野に入れているかもしれません。オリンピックの標語「1つの世界、1つの夢」One World One Dreamに不吉な臭いを感じます。急速な軍備増強の目的がこれで説明できます。

  10. 福島香織様
    kkoshさんの意見に同感です。人民元が安すぎるせいか果物だけでなく野菜まで中国産が入ってきます。
    アメリカとかカナダの取り締まりはアジア系の人間が食べるものにまで及んでいないようです。死者でも出れば別ですが、怖いのは有害物質が少しずつ体内に蓄積し寿命が短くなることです。
    しかし今度のペットフードの騒ぎで中国製の食品の安全性に関心が向いてくれればと期待しています。
    自分のペットが殺された持ち主の怨念は凄まじいものと思います。

  11. う~ん、コワッ!!!
    米は地産地消の方向で行きましょう。。
    寧ろ、米の品質は高いのだからどんどん輸入する方向でいいのにと思います。中国産の野菜は中国の圧力で下がった検疫基準を信じる気にもならず、そこだけは避けてますww

  12. To seedsさん
     中国で謎の奇病が発生するか、世界で謎の奇病が発生しても、中国人だけ(毒物になれて耐性ができているから)生き残るか、運命の分かれ道ですね。すでに中国は日本の台所となっているので、中国の食品安全には、日本もぜひ関心をもってほしいと思います。

  13. To ブリオッシュ或いは出べその親方さん
     うちも、中国産あきたこまち。でも、やはり日本産の米の方がおいしいと思います。精米してからの管理が違うような気がします。

  14. To Luさん
    ありがとうございます。動植物(未加工)は、検疫の問題もありますからね。

  15. To iori3さん
     生木耳のわさび醤油、これはいけそうなかんじです。
    ご飯に石がまざって歯を欠いた人の話、ききました。昔のお米も危険だったんですね。

  16. To take8さん
     報道にでていないだけで、実際裏で毒小麦中毒など、中国でばんばん発生しているのかもしれません。真相がよく分からないぶん、こわい事件です。

  17. To あるぱかさん
     日本の外食産業、加工食品は、もう中国なしではなりたたなくなっているようですね。中国に食の安全を確立してもらうことは、日本にとっても切実な問題だとおもいます。

  18. To formidableさん
     未来の戦争の原因は、食料と資源の強奪?私もありえそうな気がしてきました。

  19. To kkoshさん
     複合汚染、というのはコワイですね。人間も気をつけないと。
     愛犬家の方からきいたのですが、やはり、ドッグフードだけ食べさせるのは、よくないそうです。とくに値段の安いドッグフードは、中毒をおこさなくても、発がん性物質が含まれていたりして危険だとか。人間でいえば、毎日、ファストフードのハンバーガー食べている様な感じでしょうか。

  20. To stopchinaさん
    「1つの世界、1つの夢」One World One Dreamに不吉な臭いを感じます。急速な軍備増強の目的がこれで説明できます。
    私もこの標語きらいなんです。「1つの世界、1つの夢=中国の世界制覇」ときこえてしまうのは、私だけではなかったのですね。

  21. To mapotofuさん
     中国政府は、責任逃れに頭を働かせる前に、もっと速く真相究明にうごいて、独自に調べた輸出用小麦の成分表などを公開するくらいの努力をしてほしいものです。
     こういった状況では、中国の農業は没落をまぬがれえないと思います。

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