中国報道のあした・その6

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■もう西日本新聞が報道しており、ニュースとしては遅ればせな話しだが、中国人記者が山西省のヤミ炭坑取材中、撲殺された。ヤミ炭坑取材を試みたことがある者としては、本当にひとごとではない。キモが冷えた。この事件の真相は、霧がかかっているように、わからない部分がたくさんありすぎます。ただ、中国における記者の生存環境の難しさ、取材の困難さは疑うところはない。事件にからめて、中国記者をとりまくプレッシャー、危険について、すこし紹介したいと思います。

■中国記者は命がけ!他人事ではないニュース

■まず事件のあらまし。
中国の中国貿易報・山西分社の蘭記者は10日、同僚2人と大同市渾源県のヤミ炭坑(非合法炭坑)に取材にいった。しかし炭坑に到着する直前、炭坑の車が二台、行く手をはばむように現れた。そして、車からおりてきた20人あまりの男たちに棍棒やツルハシなどでぼこぼこに殴られ、とくにひどく殴られた蘭記者は病院にはこばれたのち脳内出血で死亡。ほか2人も重傷。

■中国貿易報によれば、この背景はまだ調査中。大同警察当局も動いている。炭坑主は逃亡中という。ただ、もっか中国国内メディアの間でまことしやかに流れている噂の中には、蘭記者がヤミ炭坑主に詐欺をしかけ、それがばれて返り討ちにあったというものまである。

■蘭記者は、じつは記者になって3カ月目。それも正式の記者ではなくバイト記者だったという。またヤミ炭坑取材は本社への許可、報告なしの単独行動だったという。蘭記者のねらいは何だったのか?特ダネねらって現場に単身とびこんだのか?それとも、すねに傷あるヤミ炭坑から金をせしめよう、としたのか?

■実は中国ではニセ記者や本物の記者による詐欺、強請事件が少なくなく、事件のあった10日も大同市当局が「ニセ記者取締りに関する通告」を発表したばかりだった。あまりの偶然に、蘭記者の事件が絡んでいるとみて、詐欺疑惑の噂が流れたわけだ。

■ところで、まあニセ記者はともかく、なぜ本物の記者が炭坑主をゆするようなまねをするのか。単にモラルが低いという問題だけなのか(その一言につきるのかもしれないが)。実は、中国の記者は記事を書いていればいいだけではない。広告とりという営業の仕事もあるのだ。取材で仲良くなった企業から広告をとるとその10%くらいが個人の懐にはいる。記事を書くより、広告をとる方が本業になる記者もいるくらいだ。

■さらに、大手新聞なら、記者に広告とりのノルマを課すことはないが、小規模紙だと、記者に広告ノルマを課すことがある。南方周末紙によれば、中国貿易報山西分社は蘭記者にも年間18万元分の広告・収入ノルマを課していたらしい。

■こういったプレッシャーから、取材にいっているのに、広告をとろうと持ちかけ、断られると報復にデタラメなバッシング記事を書く、という記者も確かにいるようだ。また、取材相手にマイナス記事ネタを見つけると、報道しないから、金よこせ、みたいなニュアンスで迫る記者もいるらしい。

■記者のモラルがこんなふうに低くなってしまうのは、中国のメディア界の改革の失敗、いびつさが背景にある、といわれている。中国メディアは本来、共産党のお抱え宣伝機関。収入度外視で、共産党の主張を垂れ流していればよかった。しかし、改革開放政策とともに、メディアも市場原理にしがたい、独立採算に移行せねばならなくなってきた。

■新聞は生き残りのために、報道内容を面白くし部数を増やし、広告料を増やさねばならない。しかし、報道内容については、依然きびしい統制下にある。読者が求めている記事、特ダネ、真実の報道はできないのだ。それを無理矢理やった北京紙「新京報」は05年暮れ、結局編集幹部総入れ替えの憂き目にあい、今、まったくメディアとしての精彩を失っている。先日、新京報記者に、「なかはどう?仕事しやすい?」と聞くと、「新聞見たらわかるでしょ。いい記者はみんな次々やめていくわ」。最近、五輪取材の外国メディアへの規制緩和が方針として打ち出されているが、国内記者へのメディア統制、締め付けは北京五輪前に加速度的に強まっているのだという。

■こういった状況で、記者は道をはずれてゆく。そして、一攫千金をねらって、ヤクザまがいのヤミ炭坑主にちょっかいを出してしまうこともあるのだろう。

■ここまで書いてきたことは、蘭記者撲殺事件の真相がまだわからないなかでの「妄想」なので、まったく方向違いの分析かもしれない。ひょっとすると、蘭記者は若き正義感にもえた記者で、事故死者隠蔽のヤミ炭坑批判記事を書くつもりだったのかも。

■ちなみに、ヤミ炭坑取材は、かずある取材のなかでもっとも危険な取材のひとつだ。現場は穴の中、そこで殺されても、もじどおり闇に葬られる。おまけにヤミ炭坑主は地元政府幹部と黒社会を抱き込んでいる上、作業員には指名手配犯やら、前科者やら陽の当たる場所で暮らせない人たちがあつまり、日々死と隣り合わせで生きているだけに、人を殺すことにあまり抵抗なさそうな、すごみがあるのだ。ショージキ、ほんとうに恐い。一度、私も、ヤミ炭坑潜入取材、やってみよう、と入り口までいったが、本当に殺気を感じて、ろくに取材できないまま、逃げ帰ってしまった。

■いずれにしろ、中国記者の環境は非常に厳しい。私は同業者のモラル低下と理想のはざまで苦しみ努力している中国記者には、心からエールを送りたい。そして、亡くなった顔もしらない蘭記者に対しては、その真相がいかようなものであっても、心からお悔やみをのべたいと思う。

↑中国河北省のヤミ炭坑。ロバで石炭を運ぶのだ。五星紅旗を立てているのは国営炭坑のカモフラージュ。ここの会計係が友達の知人の知人の知人の知人で、彼に会い行くふりをして訪れて、最初は坑の中にも入れてもらえるはずだった。しかし、会計係の上司が、「あの妙なヤツラは何者?」とか言い出して、急に空気が緊迫。同行の友人が、「逃げた方がいい」といい、あわててずらかったのだ。

斜めにとおった坑道を300㍍くらいくだっていくと、掘削現場という。懐中電灯ひとつで、ここに潜っていこうと、最初は思っていたんだけれど、今考えると結構無謀な取材計画だった。やっぱり逃げ帰って正解だったな。

ヤミ炭坑全体。上の棟は作業員の家。

こちらは、山西省の公営炭坑。炭坑仕事は命がけだけに、男たちの面構えが違う。彼らの話をきくと、中国映画「ブラインド・シャフト」(炭坑を舞台にした殺人事件)が、実は架空の話ではないということがよくわかる。

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「中国報道のあした・その6」への17件のフィードバック

  1. いやあ、凄い!こんな国が隣の国とは!!恐ろしい!!日中友好なんてとても!!えらい人達は何考えているんだろう?!紙の新聞には載らない記事!

  2. 凄みがありますね。
    こんな国に二万人の訪中団を作って出かける
    日本の政治家っていったい何なんでしょう。
    足元をすくわれる材料を提供するために行くような気がするのだが。

  3. なんだか、やけに過激ですな(笑)。
    ■違法経営炭坑・取材で襲撃され、中国人記者死亡【大紀元日本1月19日】
    http://jp.epochtimes.com/jp/2007/01/html/d54071.html
    ■中国四川省:ホテル女性従業員惨殺事件、群衆1万人が警察と衝突【大紀元日本1月18日】
    http://jp.epochtimes.com/jp/2007/01/html/d15952.html
    ■四川省少女惨殺事件、当局は地元のブログを削除、サイトを封鎖【大紀元日本1月19日】
    http://jp.epochtimes.com/jp/2007/01/html/d31985.html

  4. 日本でも業界紙の記者なんかは、広告を取るのが使命ですよ。
    取った広告で歩合給が決まりますからね。
    そういう小さな新聞が中国にはまだまだ沢山息づいているってことで、しかも命がけの記者がいる。
    日本の記者は誰もそこまでやらなくなっちゃった、
    ってことですよね。記者批判、かな?

  5. 昔は日本でも新聞記者を羽織ゴロと呼んでいたらしいですからね。
    銀行は金貸し、税務署は税金とり、不動産は千三ツ屋、証券会社は株屋。
    みんなまともな家は娘を嫁にやらないヤクザな職業とみなされていたといいます。今もそのDNAは各業界に綿々と残っています。
    そんな中でも日本新聞はじめ、まともなオピニオン紙はありました。
    オピニオン紙たる志を忘れて自浄自律がきかなくなったら、産経といえども羽織ゴロの1社に数えられるようになるのはすぐです。
    産経記者には誘惑がないかもしれませんが、誑し込まれている日本人記者は既にいると思います。

  6. 中国も日本に100年ばかり占領されとけば、まともな国になったかもしれなのにw。和諧社会への道はとおい。金持ちと貧乏人への道が開けてからといもの、ぐちゃぐちゃですね。こんなことなら、みんな貧乏人だった頃のほうが良かったかもしれません。

  7. はじめまして!福島さんの書かれる記事と、そのほれぼれするような記者魂のファンの1人です。
    昨年10月のブログでYouTubeに言及されてましたが、現在でも中国からYouTubeへのアクセス/アップロードは可能なのでしょうか?中国大陸のユーザーも「天安門事件」「国境警備隊によるチベット人銃殺事件」など、中国政府に不都合な映像をYouTube上で見る事ができるのでしょうか?もしそうなら、動画規制も強化中の中国政府が黙認というのは不思議でなりません。
    wikipediaはどうでしょう?昨年一端解禁されたものの、すぐまた遮断されたような事を聞きましたが。中国語版・英語版・日本語版共に現在は閲覧不能なのでしょうか。
    今回の文章と直接関係なくて恐縮なのですが、もしお手数でなければ、教えて下さい。

  8. 戦争であろうが圧政であろうが毎日多くのヒトが死んでいく支那大陸。「国家として付き合う」理由が無くなってきたんではないでしょうか。一攫千金を狙う無国籍の商人のみが死体を無視して売り買いに夢中になっているだけで、道徳とかそういった人間としての尊厳が不要な地域が海の向こうにあるというだけで良いのではないでしょうか。核融合炉のメルトダウンが人間の手では止められないように、支那の火砕流はホースで水をかける段階から防毒マスクを被って早く逃げろという段階へ進んだと思います。

  9. To お絵かき爺さん
    ヤミ炭坑で働く人も、それを取材しようとする、あるいはそこから金を非違だそうとする記者も命はっています。炭坑の世界は地上のモラルが通用しない独特の世界で、あぶないと知りつつ、興味をもってしまうのです。

  10. To banchanさん
    漢籍学者、高島俊男先生のかかれた「中国の大盗賊」という名著がありますが、それを読むと中国というのは本質的に無法者国家かもしれないと思いますね。「江湖(アウトロー社会)」の価値観が、いたるところに息づいています。
    >凄みがありますね。
    >
    >こんな国に二万人の訪中団を作って出かける
    >日本の政治家っていったい何なんでしょう。
    >
    >足元をすくわれる材料を提供するために行くような気がするのだが。

  11. To ニッポニア・ニッポンさん
    四川省のホテル女性従業員が、地元政府官員に輪姦された末殺された事件をきっかけに、怒りにもえる群衆1万人が警察と衝突し、現場のホテルが焼き討ちにされました。すみません、これも報道すべきでしたね。ただ、こういった暴動事件は、ほんとうに増えてきて、単独の事件をひとつひとつ報道していては間に合わなくなってきました。あと、中国国内にいてはなかなか事件の裏がとれないこと、事件の全貌が見えにくいことで、新聞記事として報道しにくくなっています。大紀元によると、とか、インターネット上で流れている情報によると、という形では、ちょっと報道しにくい。でも、さもありなん、という事件です。新聞の最近、北京の知識人らと内輪で談義すると、本気で5~7年内に中国の体制崩壊、解体が起こるという人が多くなってきました。
    >なんだか、やけに過激ですな(笑)。
    >
    >■違法経営炭坑・取材で襲撃され、中国人記者死亡【大紀元日本1月19日】
    >http://jp.epochtimes.com/jp/2007/01/html/d54071.html
    >
    >■中国四川省:ホテル女性従業員惨殺事件、群衆1万人が警察と衝突【大紀元日本1月18日】
    >http://jp.epochtimes.com/jp/2007/01/html/d15952.html
    >■四川省少女惨殺事件、当局は地元のブログを削除、サイトを封鎖【大紀元日本1月19日】
    >http://jp.epochtimes.com/jp/2007/01/html/d31985.html

  12. To tomochan2002さん
    日本の業界紙もそうなんですか。営業と取材記事の独立性の問題は、新聞の永遠のテーマですね。
    >日本でも業界紙の記者なんかは、広告を取るのが使命ですよ。
    >取った広告で歩合給が決まりますからね。
    >そういう小さな新聞が中国にはまだまだ沢山息づいているってことで、しかも命がけの記者がいる。
    >日本の記者は誰もそこまでやらなくなっちゃった、
    >ってことですよね。記者批判、かな?

  13. To やまかんむりさん
     私が記者になったとき、銀行マンの叔父が記者という職業について「自分の娘には絶対やらせたくない仕事」といっていました。世間一般では、そんなイメージなんでしょうか。個人的には記者としてのモチベーションが、目先の金銭的利益や権力迎合などによってゆらぐことはない自信がありますが、肝に銘じる必要がありますね。
    >昔は日本でも新聞記者を羽織ゴロと呼んでいたらしいですからね。
    >銀行は金貸し、税務署は税金とり、不動産は千三ツ屋、証券会社は株屋。
    >みんなまともな家は娘を嫁にやらないヤクザな職業とみなされていたといいます。今もそのDNAは各業界に綿々と残っています。
    >
    >そんな中でも日本新聞はじめ、まともなオピニオン紙はありました。
    >オピニオン紙たる志を忘れて自浄自律がきかなくなったら、産経といえども羽織ゴロの1社に数えられるようになるのはすぐです。
    >
    >産経記者には誘惑がないかもしれませんが、誑し込まれている日本人記者は既にいると思います。

  14. To kokuさん
    中国全体に蔓延する拝金主義は、大きな問題だと思います。ペンという強力な武器を持つ記者までがそれに毒されているのが、問題です。本当は拝金主義を批判してほしいのに。
    >和諧社会への道はとおい。金持ちと貧乏人への道が開けてからといもの、ぐちゃぐちゃですね。こんなことなら、みんな貧乏人だった頃のほうが良かったかもしれません。

  15. To izaidさん
    中国語でタイトルがあるものにつていは、アク禁です。検索語で「天安門」といれるとOKですが、天安門、六四、などといれると、アク禁になります。「天安門」で入れて、一ページ目には「六四」関連のリストが出てくることがありますが、クリックするとアク禁です。
    ただし、英語タイトルはノーマークです。ただ、これも時間の問題といわれていますが。ですから、今のところ「youtube中国語版がアク禁」などという記事は書かない方がいいわけです。騒いで、英語版のアク禁を早めてしまう結果になるとこまるから。
    ウィキは、瞬間風速的に解禁になりましたが、今はアク禁です。ただある検索サーチページにウィキのページがあり、その検索サーチを通じればアクセスできます。これも騒ぎたてると、穴がとじられてしまうので、そっとしておきましょう。
    >はじめまして!福島さんの書かれる記事と、そのほれぼれするような記者魂のファンの1人です。
    >
    >昨年10月のブログでYouTubeに言及されてましたが、現在でも中国からYouTubeへのアクセス/アップロードは可能なのでしょうか?中国大陸のユーザーも「天安門事件」「国境警備隊によるチベット人銃殺事件」など、中国政府に不都合な映像をYouTube上で見る事ができるのでしょうか?もしそうなら、動画規制も強化中の中国政府が黙認というのは不思議でなりません。
    >
    >wikipediaはどうでしょう?昨年一端解禁されたものの、すぐまた遮断されたような事を聞きましたが。中国語版・英語版・日本語版共に現在は閲覧不能なのでしょうか。
    >
    >今回の文章と直接関係なくて恐縮なのですが、もしお手数でなければ、教えて下さい。

  16. To 福島香織さん
    YouTubeは中国語タイトルの都合の悪いもののみアク禁、ウィキは中国語・英語共に一括アク禁なんですね。抜け道ツール、どんどん提供して欲しいですね。ありがとうございました!

  17. 中国記者は命がけ!他人事ではないニュース
    他人事ではないニュース
    柳 四郎
    本当のことを話そう・・報道しない自由を考える=僕のブログの基本テーマです。
    中国での報道規制・・・米国の戦時報道規制・・ロシアのメデア規制・・・日本の報道しない自由・・・いずれも同じで国民が知らない・・知らされない・・知りたくない・・・。
    しかし日本のように報道する自由があるから・・必要な事実はすべて報道されていると思い込んでいることのほうが・・恐ろしいと思います。
    報道規制されていると知ている人と・・・・必要な事実はすべて報道されていると思い込んでる人・・・大変な違いです。
    日本の報道は読者の知りたいことを報道することで成り立っています・・・ということは・・・知りたくないことは報道しない・・・これが基本です。
    拉致問題がこの典型です・・・30人の拉致と・・朝鮮の言う600万の拉致と全く同じ事実ですが・・何処も報道しません。
    朝鮮戦争がまだ停戦も終戦もしていない・・・休戦中でいつでも始まりうる事を何処も報道しません。
    産経新聞社 雑誌『正論』3月号・・第二次大戦末期に日ソ中立条約を一方的に破って日本に参戦してきた・・このような嘘も平気で書くのです。
    日独伊三国防共協定  1936年11月 
    日ソ中立条約調印    1941/04/13 
    独ソ戦開始          1941/06/22 
    ソ連対日参戦       1945/8/9  
    この↑事実を誰も指摘しない!!
    このような報道しない自由を誰も理解していません・・・。
    報道規制されていると知ている人と・・・・必要な事実はすべて報道されていると思い込んでる人・・この判断の違いは国の行く末を誤るのです。
    僕のブログに張ります↓
    http://riyushirou.blog96.fc2.com/blog-entry-18.html

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