中国食品工場のブラックホール 1

Pocket
LINEで送る

スポンサードリンク

◆上海福喜食品会社という、米国食品大手OSI集団の上海現地法人が、賞味期限切れ肉を米国の有名ファストフードチェーンや日本のファミリーマートやセブン・イレブンにも提供していた、というニュースに、中国の消費者のみならず、日本の消費者まで衝撃を受けている。

 

◆はっきりいって、中国の食品安全問題は古くて新しい問題であり、ありふれている話なのだが、さすがOSI傘下の、上海が誇る国際企業でこれをやられたら、もう何を信じていいやら、という感覚だろう。まず、言いたいのは、今回は米国系企業が問題を暴かれたわけだが、日系企業に同じブラックホールを抱えていないとは限らない。というか、日系サプライヤーは他人事でなくて急いで、中国現地法人のチェック体制を点検したほうがいいんでないか。地元テレビで暴かれて大バッシングという、いわゆる今はやりの劇場型腐敗摘発にやられたら、もう立ち直れないですよ。

◆あと、改めて気づかされたのは、やはりいくら、中国が大国化しても国際社会で存在感をましても、まだまだあの国のモラルや法令規則順守の意識が低いということ(日本が素晴らしく高いと言っているわけではありません、念のため)。あそこはまだ「普通の国」ではない。オペレーション全部中国任せとか、やはり安心できない、という気がした。日系企業が、役員や社長を本社から派遣して、現地で雇用しないということが、しばしば日系企業の現地化の遅れによる競争力の弱さ、みたいな批判につながっていたのだが、日本人消費者の望むような、厳格な品質基準をクリアするには、やっぱり日本人が経営にコミットしないと難しいんじゃないか、とは思うのだ。

 

◆私はやはり、いまだに本社から派遣した駐在社員を現地法人の管理部門におく、多くの日系企業のやり方は致し方なし、と思ったね。たとえ現地に人を置いても、下部組織の不正を見逃すことは多い。オペレーションはすべて中国サイドがやりました、というのでは、何かが起きたときに言い訳ができないのだから。今回の事件は、今までよくあった「中国の食の安全問題」というだけでなく、現地法人管理に対する本国本社の責任問題も一つのテーマだと思う。正直、米国OSI集団本部、何をしていた、あんたの子会社だから信用したのにさ、という顧客企業は多いのではないか。

◆で、話を上海福喜食品にもどす。

簡単に紹介すると、1996年に、米国独資企業として上海から批准された米大手OSI集団の上海現地法人。国際有名ファストフードチェーン6社に肉、海鮮、麺類、野菜などの加工食品を卸している。中国の長期発展戦略を考慮し、河北省大廠県に県最大の食肉加工工場を持っている。これは中国における二番目の国際標準肉類・野菜加工企業。主要な生産ラインは鶏肉加工ライン、牛肉・豚肉加工ライン。輸出水準と現地加工を発展戦略の基礎に置き、職員、原材料ともすべて現地調達。毎年12000トン規模の冷凍肉を生産。アジアで最も優秀なサプライヤーとなることを企業の崇高な理想として、顧客の要求を立脚点に明確な目標を樹立して、公開、公平、誠実を原則として、成果を上げられるよう努力している。従業員のために、発展の機会を提供し、団結協力の環境を創り、イノベーションを奨励し、たゆまぬ改善を心がけ、最終的には顧客の期待を超えて満足を提供します。…

◆これは今は削除されている企業の宣伝文句。ここまで、崇高な理念を掲げている企業ですら、これか、という話である。ちなみに、この食品安全事件は、上層部も含めての企業ぐるみの組織犯罪、ということで目下五人が刑事拘留されている。思い出すのは日本の毒餃子事件なのだが、あの時は組織が腐っていたのではなくて、従業員に問題があったということで片づけられていた。だが、あの河北省の日系工場も、組織的には相当問題があった。だって廃棄処分する予定の売れ残りを横流ししてたんだからな。(そのおかげで、横流しを食べた関係者が中毒を起こして、工場内の作業過程で毒が混入していた証拠となった)。だから、ここまでひどくなくても、他の企業でもいろいろ問題あるのだ。

 

◆さて、上海福喜の闇がどうやって暴かれたかというと、7月20日に上海のテレビ局の8分に及ぶ特ダネ報道「食品工場のブラックホール」がきっかけだ。上海東方衛視の報道がYOUTUBEにほぼ全部アップされていたが、これね。↓

 

◆あと上海テレビの新聞総合の報道も20日に公開されていた。こっちは26分あまり。

◆要するに上海テレビの記者が工場内に覆面潜入取材を敢行して、そこで解凍冷凍解凍を繰り返す保存期限ロンダリングの実態や、B級製品の原料への再添加など、食品安全法違反の横行ぶりを目の当たりにする。しかも、従業員は「喰っても死にゃせん」「まぜちゃえばわかんないよ」「手順書通りに作っていたら商売にならない」「上からの指示どおりにやってます」と驚きの従業員証言続出。品質管理の二重帳簿や社内メールで堂々と保存期限延期の指示を出すなど、組織ぐるみの重篤な食品安全犯罪の実態を衝撃的な映像とともにリポートしている。ざっくりと要約すると。

◆ある倉庫の中。冷凍鶏肉の包に「チルドを冷凍品に変更」の表記が!福喜食品品質管理担当:「チルドのままで六日間で使いきれなかったから、冷凍品に変えたんだ」チルドの鶏肉は保存期限が短く6日しかもたない。冷凍にすると数か月は持つ。なので、この企業はチルドの鶏肉の保存期限が近づくと、冷凍にしていたのだという。

◆半月後の2014年6月30日。福喜のもう一つのラインで、例の保存期限切れのチルド鶏肉を原料にして、ケンタッキーの燻製風味ナゲットを製造しているのを記者が目撃。

記者:袋の上に保存期間六日って書いているけど、チルドでしょ?

班長:これは麦楽鶏(チキンマックナゲット)に転用する。

記者:期限切れじゃ?

班長:期限切れ喰っても、死にゃせんよ。チルドから冷凍にしたんだ。

記者:チルドの保存期限がきれたから冷凍にしたんでしょ?

班長:そうだよ。

   ◆7月1日未明の1時半、福喜の第一号解凍室で。ここは室温4度以下で、冷凍原料をチルド状態に戻す場所。従業員は昨日午後3時半からKFCの肉パテを作っている。原料はやはりチルドから冷凍にされた豚肉と鶏むね肉。しかし棚にある肉の袋の解凍日が6月25日になっている。

◆つまりチルドで保存期限切れになったので、冷凍にして、そのあと再解凍して、さらに一週間放置!再解凍後はチルド状態での保存期限である6日を超えているし!

◆上海福喜公司はHACCP認証企業だ。すなわち、完璧な安全で衛生的に管理された生産ラインを誇る。生産過程でできる一定数のB級品(不合格品)は取り除かれる。では、そのB級品は、最終的にはどうなるの?班長いわく「B級品はゴミだな、使えない。それがどこに行くかなんて、気にするな」

◆ところが記者みてしまったのだ。2014年5月16日。チキンナゲットラインでのこと。高温油で上がったばかりの成品の中からB級品区分担当従業員は約一時間かけて、形の悪いものなどB級品を区分し、三つの箱をいっぱいにしたが、なんと、それらB級品をどこに持っていくかと思えば、原材料形成機に放り込んだ。200度の高温油で揚げたばかりのアツアツのB級品を、0度前後のチルド生鶏肉原料の中に放り込んで、練りこんで、混ぜ込んで、もう一回、作り直すというのだ。

◆ こういうことを繰り返して、原料を最大限利用している。従業員いわく「まぜちゃえば、わかんないよ。確かに添加物は(レシピより)増えるので、あんまりやり過ぎると、食べたとき、ばれちゃうんだけどね。だいたい(B級品の混ぜる割合は)5%くらいが限度かな。」

◆ナゲットだけでなく、ラインで生産されたものでできたB級品はだいたいこのように原料に再添加してつくられる。マクドナルドのパテも、ピザハットの豚肉ビッツも、ケンタッキーのパテも。

◆B級品再添加問題だけではない。由来不明の原材料もある。2014年7月4日、原料解凍室で、記者は5箱の包装済のマクドナルドの牛肉パテを見かけた。生産日6月18日、保存期限60日。みたところ、出荷品が返品されたか、あるいは売れ残りである。この日、班長みずからが、このでもどりの牛肉パテを原材料に加えて新しく作り直したのを記者は目撃した。つまり、保存期限が振出にもどったのである。

◆記者:箱に詰められそのまま出荷できる牛肉パテの箱をどうして開けるの?

従業員:保存期限がもうすぐくるから。前にいたのは食品工場じゃないから知らなかったけれど、マクドナルドもケンタッキーも、こんなもん食わせてるんだな。どおりで前よりおいしくなくなったよ。もう、見るのも嫌だよな。

◆ちなみに中国の食品判然法28条によれば、食品生産企業では生産物の返品、回収品を新たに原材料として食品を生産することを禁じている。だが、ここの従業員はまさかそのことを知らないとか?

◆品質管理担当者いわく「回収品の再添加はほんの少しだけだから。道理でいえば、もちろん許されない行為だが」

◆十分撹拌して、再度形成すれば、まず回収品の再添加は見てもわからない。一つ一つ形成された牛肉パテは急速冷凍、箱づめ包装され7月4日の生産日が印刷されるのだが、中には6月18日にすでに生産された製品も混ぜられているのだ。これが全国のマクドナルドにいくのである。

◆マクドナルドから工場の生産ライン現場に検査に人が来たことがあった。だが、毎回検査前日に、企業の品質管理部門から生産現場に通知があり、検査当日にはB級品を置いておくなと、指示がでた。ブルーのビニールに入っているB級品は検査当日には姿を消しているのだった。検査の時はB級品を原料に添加することはできないんだ、と従業員は記者に説明した。

「マクドナルドや日本人やYUMが万一この事実を知ったら、契約を取り消しすだろうね。今の商売はなにより信用が大事。信用がなくなったら誰が一緒に商売してくれるものか」

◆検査が終わると、ブルーのB級品入り袋は冷凍庫から生産ラインにもどされる。冷凍庫はマイナス18度。凍ってカチカチになったB級品が200度の油層の上で袋ごと解凍され、その後、原材料に混ぜられる。

「上の奴らがしろっていうとおりにしているんだ」とある従業員。現場の品質管理部門も止めようとしない。

  ◆工場内のSOP(標準作業手順書)では、「B級品を取り除き、ラインが一段落すると、コンベアーに重ならないように並べ、蒸し器を通し、急速冷凍して、包装」となっているのだが、現実んは厳格にこの手順になっていない。従業員は言う。「SOPなんて役に立たない、SOP通りやっていたら仕事にならん」

◆高度工業化による集中生産システムは食品安全を保障し、効率化を図り、原価を安く抑えるために発展してきたが、もし原価を抑えることだけに集中すると、食品安全との均衡はすぐに崩れてしまうだろう。

◆さらに2014年6月11日、記者は解凍室で驚くべき光景を見た。ここでは百以上の仔牛ステーキ肉の箱が従業員によって解凍作業中だったのだが、不思議なことに、この仔牛ステーキの箱には手書きで商品名と生産日と重さが書いてあるだけで、保存期間が印刷されていないのだ。

◆記者:包装になにもかいてないけど、君らはどうして保存期限内だとわかるの?

従業員:食べりゃわかるよ。まずければ食べない。…

記者:こんなに量が多くてどうして選別するよ?

従業員:選別なんて必要ないさ、全部ごみなんだから。

◆このステーキ肉は果たして使えるのだろうか。生産工程にはいる1日前の6月10日、生産部、品質部、倉庫部は一斉に主管部門からメールを受け取る。「保存期限を週末までに延期するように」。現場の従業員は記者に言う。「こりゃだめだわ。この肉、臭うよ」

◆記者はこのメールの中で、実はこのステーキ肉の生産日が2013年5月8~12日であることを知る。保存期限は180日で2013年11月3~8日までに使用しないとならない。だがメールは2014年6月15日までに保存期限を延ばすように要求していたのだ。つまり保存期限を7か月以上超えている。

 ◆さらに驚くべきことは、このステーキ肉、生産工程に入ったといいながら、じつのところ、細かく切り分けて再包装するだけだった。そして袋の上には、保存期限をさらに一年延期して打つ。保存期限のロンダリングである。

 

◆この商品のもともとの製品番号は3010045で、品名は冷凍塩付小牛ステーキ。「YUM事件」により、「成品にして販売すべし」という注意書きがあった。YUM事件とは何のかとか、「成品」とは何ぞや、とか意味は不明なのだが。(YUMは米ファストフードチェーン、何かトラブルがあって返品?)

◆福喜で10年働いていた前品質管理担当・張先生が記者に品質記録帳を2冊、提示してくれた。そこには、最近二年、生産ライン上で発生した品質問題が記録されていた。保存期限超過原料の使用、保存期限延長、生産日改ざんなど、関係者の署名とともに記録されている。張先生は言う。「工場管理はやはり厳格です。しかし、正面の門が閉じられてしまえば、外の人が中で起こっていることを簡単には想像できないでしょう。もし、わかってしまえば、この工場は巨額の利益損失を被ることになる」

◆だが、たとえ検査当局がこの帳面を検査しても、簡単には暴露できないともいう。「帳面は二冊あるんです。一つは現場で作られたもの、もう一つは専門家が改ざんしたもの。本物の記録帳は一部の中心人物しか見ることはできません」

◆現代的食品生産企業として、福喜の内部は厳格な管理体制があり、毎日の生産計画は企業トップが決定する。それぞれの部門の従業員が接触している生産状況は、同じではない。生産ラインがいったん動きだせば、各区域の従業員たちは、自分たちの責任を負う範囲でしか責任を負わない。使用原料を調合する従業員、それを倉庫にとりに行く従業員たちが期限切れかどうかを討論することはない。ただ指示された通りに仕事を行う。

◆記者:原料が保存期限切れじゃないか?

従業員:絶対期限切れているさ。期限切れじゃない原料なんてあったかね?これは上層部が決めることで、われわれのしったこっちゃない。我々はただ仕事するだけ。倉庫に原料を取りに行くだけ。

記者:じゃあ、君らは知っているのね?

従業員:知っていたからって、意味ないだろ。彼らは我々がするべきことをさせるだけさ。

◆生産工程では、各ラインの班長が毎日、生産データを事実通り記入する。温度、重量、原料に書かれたデータも書き写す。生産部と品質管理部の従業員がそれぞれ同じ管理記録帳に書き込み、最後に責任者が、製品が各基準に合格かどうかを書き入れる。合格していない場合は、データを修正する。その修正データを新しく書き込まれたのち、修正前データは紙箱に入れられて密封。B級品の再添加の事実も箱中に密封されるわけだ。

◆張先生は言う。「しかし、こんなよい工場が、なぜ今、生産日の改ざんなんてことをするのかね。非常に気分が萎えますな」「データを勝手に改ざんすることで、大型食品企業の真実が外からわかりにくくなる。だが福喜の内部の指示メールでは、違反の事実も非常に緻密に記録されている。たとえば2014年3月7日10:31発のメールでは2014年4月18日に期限切れとなる豚肉パテの保存期限を6月18日まで延期するよう指示を出している。これに対しある従業員は、率直に『検査日がちょうど生産日です。皇帝のばればれのお忍び訪問みたいに、大衆を並ばせて大歓迎を演出しては、次には本当にこっそりとやってきて、真実の状況をみてしまいますよ』と意見している。」

◆以上、ざっと、報道見るに、なかなか組織ぐるみの念の入った不正であり、よくまあこれが白日のもとに晒されたなと思う。

◆さすがに、このレベルの企業で、ここまでの不正をやっているところは少ないと思う一方で、日本でも業界内である意味常態化していた原料偽装の問題なんかがあったことを思うと、保存期間がきれそうになったチルド製品の冷凍保存とか、B級品の原料再添加とか、どこの工場でもやっているかもしれないなあ、とも思うのだった。ちょっと長くなったので、中国の食品安全問題の背景や、その後の続報は「中国食品工場のブラックホール2」で紹介したい。

「中国食品工場のブラックホール 1」への1件のフィードバック

  1. こんにちは。
    いつも興味深い記事、楽しく拝読しております。
    さて、誤記と思われるものがありましたのでお知らせいたします。

    これは中国における二番名の国際標準肉類・野菜加工企業。
    –>二番目でしょうか。

    ◆7月1日未明の1時半、福喜の第一号解凍質で。
    –>解凍室でしょうか。

    気に障るようでしたらすみません。

    それでは。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">