中国食品工場のブラックホール2

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◆上海福喜食品工場の問題の背景をちょっと考えてみたい。 実は昔(2007年)に「危ない中国 点撃!」(産経新聞出版)という本で、中国の食の安全問題について、集中的に紹介したことがある。

 

◆そのころ、中国人ジャーナリスト・周勍氏からいろいろ、中国の食の安全問題について教えてもらったし、私自身、食品加工工場や輸入冷凍食品に野菜を供給する農場とかも実際に訪れてみた。水産品の養殖場や農村の豚の飼育現場も訪れた。

◆私が記者として取材したのは2002年から2008年なのだが、当時の実感としては、食の安全問題は、生産現場のモラルの問題が大きいのだが、その生産現場のモラルがやたら低い背景には、やはり社会の格差があるのではないか、ということだった。あれから7~8年たっているので、今回の事件を同様に論じることができるかどうかはいろいろ意見はあると思う。だが、福喜の従業員の「食っても死なない」発言に、私は昔、「なぜ痩肉精(塩酸クレンブテロール)を豚に食わせるのか」「なぜ病死豚肉を売るのか」という質問に対する農民たちの答えを思い出すのである。彼らはこう答えていた。「食っても死なない」「食うのは都会の奴ら、彼らはただで病院に行けるから(病気になっても)問題ない」「病死豚は俺らもくっているのに、なぜ都市のやつらは食えないのか」。

◆そこに、生産者と消費者の間にある深くて暗い河を感じる。生産者とは農村の農民、あるいは農村出身の出稼ぎ者。消費者は都会の中産階級。独特の戸籍制度で形成された二元社会構造と、食の安全問題はやはり、どこかでリンクしているのではないだろうか。

◆そしてもう一つの観点は、何か政治的背景があるのではないか。3・15晩会(世界消費デーにCCTVが消費者の立場にたって暴く企業の不正、欠陥商品などの内幕。一般に、中央の政治的意向を反映しているといわれている)もそうだが、こういうメディアを使った劇場型企業腐敗摘発の背景には、①タレこみ②権力闘争③外交・政治環境などが、複雑にからみあう。

◆今回の場合、まずタレこみがあったのは間違いがない。ロイターが報じていたのだが、福喜の元品質管理担当の従業員が塩素系洗剤のせいで健康を害した労災問題で、福喜を相手取り訴訟を起こしたことがあったが、この時、保存期限改ざんなど食品安全法に違反する「非倫理的労働」を強制されたと訴えていた。だが、この時は企業が勝訴していた。この訴訟の人物以外にも、工場の在り方に不満を持つ従業員は多かったかもしれない。潜入取材の在り方を見ても、明らかに内部に手引き者がいる。

◆一方、訴訟で企業側勝訴に終わった事実をみれば、上海市(司法)当局は福喜の味方だった。一応、あの潜入取材の報道が真実であるとすると、組織ぐるみのかなり悪質な食品安全法違反であるが、これを市の衛生当局がまったく気づかないというのも変である。まして元品質管理担当が訴訟まで起こしているからには、本来は抜き打ち、立ち入り検査の対象のブラックリストに入りそうなものだ。そうならなかったのは、多額納税企業の福喜と上海市当局が良好な関係であったということではないか。

◆90年代の高度経済成長期、上海閥の江沢民政権時代に誘致された上海市の肝いり企業である。絶対、抜き打ちの査察が入らないという自信があったからこそ、組織全体がここまで堂々と食品安全法違反が行えたのだ。とすると、今回の事件は上海閥の衰退と関係あるのかなあ、と思ったり。あるいは、中国メディアの報道が外資企業バッシングの方向性に走っているのをみると、米国独資企業がターゲットになったことに、なんらかの政治的意図があるのかなあ、と勘ぐってしまったり。まあ、全く関係ないこともあるんだけどね。こういう発想を持ってしまうのが中国屋のサガなのよ。

◆だが、こういう考察は、もう少し、情報が出そろわないと、難しい。とりあえず、今回は、上海福喜事件の続報を整理しておきたい。東方ネットの記事が興味深かった。これは、外資系ファストフードに問題あり!といったニュアンスの報道になっている。日本が、このニュースを中国製食品に問題あり、といった受け止め方をしているのと、若干違う。

東方ネットより:20日に上海テレビの報道があったその夜、上海市薬監局副局長、上海食品安全弁公室主任の顧振華が部下たちをつれて、現場検証。しかし、ガードマンが門を塞いで、執行官を入場させない。双方1時間以上、にらみ合って、公安当局者が現場に到着したあとやっと、中に入ることができたという。

◆中に入っても、生産ラインに入るには、衣服を変えろだの、カードキーを準備するなど、時間がかかり、おそらくはその間に、別の従業員が証拠隠滅作業を行ったのではないかと思われている。執法当局者が生産ラインに入ったときは、問題食品は発見されなかった。そのかわりパソコンを一台押収した。

◆上海市薬監局は、上海福喜の生産の全面的停止を命令。ケンタッキーとマクドナルドのすべての店舗で、福喜提供の原材料の使用禁止および回収を命じた。またマクドナルドなど顧客企業でも調査グループを立ち上げ、全面調査を開始し、結果を公表することを約束。

◆米ファストフードチェーンのYUMグループも傘下のケンタッキー、ピザハットに福喜提供の肉類使用および回収を指示。コンビニその他も同じく、一斉に福喜提供原料食品の回収を行った。

◆メディアが暴いた外資系ファストフードの食品安全問題は、実は今回がはじめてではない。思い出されるのは2005年3月のケンタッキーチキンの手羽先の調味料にスダンレッド(毒性が指摘される食品着色料)が使用されている問題、2005年11月のケンタッキーの芙蓉天緑香湯(中国ケンタ限定のスープ)の有害添加物問題、2012年12月18日、CCTVが暴いたケンタッキーチキンの抗生物質・成長ホルモン乱用鶏肉問題。

◆同様にマクドナルドでは、2010年3月21日のハンバーガーでの防腐剤過剰使用問題(一年腐らない!)2010年7月5日の米国でのチキンナゲットに含まれるゴム化成分ジメチルポリシロキサン問題。2012年3月15日のCCTV3・15晩会が暴いた、マクドナルド北京三里屯の賞味期限切れ・床に落ちた食品の再販売問題。

◆昨日暴露された上海福喜事件のように、外資系ファストフードのサプライヤーにも往々にして主要な責任があることは否定できない。しかし、(顧客側の)外資系ファストフードにも監督上の責任という職務怠慢がないといえるだろうか?外資系ファストフードは、(査察で問題を見逃した)職務怠慢の社員を処分したり、作業の手順の改善をおこなっただろか?

◆これについて、ケンタッキーもマクドナルドも正面から回答していない。ただ、不定期検査を行っていたというだけで、問題が発生したあとは、すぐに契約を解除したというだけなのだ。

◆上海市薬監局は、福喜提供の食品の回収を夜9時に命じていたが、11時ごろ東方早報の記者が上海市内のマクドナルド、ケンタッキー、ピザハットをまわると、以前として鶏肉製品が正常に販売され、店内の当直の店員も、回収通達を受けていないと話していた。あるケンタッキーの店内では5歳と10歳の子供を連れた安徽省からの旅行者が食事をしていた。彼は「ケンタッキーは問題が次々暴露されているのは知っているが、客も少なくはないし、そんなに心配することはないだろう」と話していた。 以上(東方早報の鄒娟、陸兵、胡宝秀記者の署名記事から抜粋)

 

◆もうひとつ、京華時報の続報。 ◆上海警察当局は23日、すでに上海福喜食品有限公司の「使用期限過ぎ原料生産加工事件」を立件し、5人の容疑者を刑事拘留したと発表した。またケンタッキー、ピアザハットを擁する中国百勝(YUM)は再度「中国福喜からの原材料購入を全面的に停止する」と発表。

◆5人の容疑者は、福喜の責任者および品質、経理部門担当者。組織的な違法経営があったことがすでに明らかになっており、食品など5108箱を証拠品として押収。また上海市食薬監当局らは福喜の下流の商品も追跡調査しすでに100屯以上を回収している。商務部の関係部門はマクドナルド、YUM、スターバックスなどの飲食業界に事情を聴取している。中国YUMは、政府部門の最終調査結果を待ち、福喜集団に訴訟を起こすことも視野にいれている。

◆中国YUMは「今回の痛恨の教訓をもとに、サプライヤーの監督体制の再評価を行う。具体的措置は政府部門の調査が全部終わったのちに発表する」と声明を出した。

◆福喜事件は調べれば調べるほど、新たな疑問がわいてい来る。上海テレビの潜入取材から得た手がかりによれば、福喜には工場以外にもう一つ、神秘的な倉庫を持っており、そこで他のブランドの商品を福喜の包装に帰る作業を行っている、こともわかっている。

◆今年6月、記者は福喜で従業員が作業服に着替えたのち、生産ラインに向かわずに、班員をつれて工場から出て、300メートル離れた上海瀚森雪佳冷藏物流株式会社の倉庫に向かったのを目撃している。

◆倉庫内は空調が聞いておらず、室温は常温。数十箱の冷凍手羽先がおいてあるのだが、それは製造元が江蘇泰森食品有限公司となっている。従業員の一人が、冷凍手羽先の包を開け、検測器に放り込むと、あとの二人が上海福喜印の箱に詰め直していた。

◆江蘇泰森食品有限公司は米タイソンフーズと中国の家禽肉加工のトップ企業・江蘇京海禽業集団が共同出資した企業。製造品は主に上海、江蘇、浙江の小売店に売られている。上海福喜も顧客の一つだったと江蘇泰森は認めている。

◆この事件の影響は関連きぎょうの株価下落を引き起こしている。北京三元(乳業)は北京マクドナルド食品の株式50%を保有し、また間接的に広東三元マクドナルド食品の株式25%も保有。23日、三元が発表したところによると、「現在マクドナルド側に事実確認中だが、わかっていることは上海福喜は北京マクドナルドの最大サプライヤーだが、北京マクドナルドが購入する食材の2%である。また広東三元マクドナルドは上海福喜から材料を購入していない」しかしそれでも三元株は23日、2・6%下落した。(以上 京華時報 胡笑紅記者取材 )

◆27日現在、福喜の保存期限改ざん商品は3分の2が売られてしまっているそうだ。(上海市食薬監局発表)。

◆福喜の親会社米OSIは26日(米時間)上海福喜が生産したすべての商品をリコールすると発表。また中国業務の管理をグローバル管理チームに移行させるべく、ぞくぞくと本社から人を派遣しているところだという。(CCTV報道)

◆続報の方向性をみるに、習近平政権好みの外資系バッシング、中国庶民被害者の色が結構強い。だが、華僑系通信社中国新聞社が21日に北京のマックやケンタに行ってみたところ、客足は減っておらず、盛況だったとか。で、そこで食事していた会社員・雷先生のコメントがいかにも中国人らしい。「保存期限切れ事件のことは知っているけれど、食品安全の問題は中国で普遍的に存在する。マクドナルドも小さい食堂と比べればまだ安心さ。しかも、今のマクドナルドは(事件のせいで)風当たりが強くて、食品安全を一層保障していることだろう」。中国新聞社もこれが決して少数意見でないとしている。

◆まあ、健康被害の出ている食品安全問題がわんさかある中国で、健康被害が出ていない保存期限改ざんくらいで動揺していては中国人庶民は務まらないかもしれない。

◆もし余力があれば、次は中国の食品安全の背景となる格差の問題や、汚職体質や、需要と供給と価格のアンバランスの問題などについて中国食品工場のブラックホール3でまとめたい。

 

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