■外国通信社配信規制
新華社の商業利益と
党の報道統制政策がみごとに一致
圧力と便宜供与をちらつかせながら、
みかじめ料せびるヤクザの手口?
■と、見出しにちゃ、ながいが、ようするにこういうことではないだろうか、 最近、国営新華社通信が発布し即日施行となった「外国通信社中国国内配信記事管理弁法(規則)」。
■もう一度、内容をおさらいすると、①外国通信社やそれに類するニュース配信機関が中国国内でニュース配信する場合、国内ユーザーとの契約は新華社系代理店を通じて行わねばならず、直接契約は許さない。②配信する記事、写真、図表については、中国の利益を損なうものは禁止する。
■具体的な内容規制は十項目。
①中国憲法の基本的原則に違反するもの
②中国国家統一、主権、領土の完全性を損なうもの
③中国国家安全と国家栄誉、利益に危害を与えるもの
④中国の宗教政策に違反し、邪教、迷信を宣伝するもの
⑤民族の怨恨、差別を煽動し民族団結、民族風俗習慣、民族感情を侵害、傷つけるもの
⑥ウソの情報を流し中国経済、社会秩序、中国社会の安定を損なうもの
⑦わいせつ、暴力を宣伝し、犯罪を教唆するもの
⑧他人を誹謗中傷し、他人の合法的権益を侵害するもの
⑨社会公共道徳と中華民族の優秀な文化伝統を損なうもの⑩中国の法律、行政法規が禁止するその他内容。
■で、これらの規則に違反する場合は、警告、改善要求があり、いうことを聞かねば、通信社資格剥奪もありうる、という。
ようするに、外国通信社が中国国内で商売するなら、新華社にショバ代をわたせ!でもって、中国が気に入らない内容は、いつだって禁止できるし、口答えすれば通信社資格だって剥奪できるぞ。という、ヤクザみたいな言い分なのだ。AP通信はこれを「新華社の商業利益と中国共産党の(報道統制強化)政策方針の一致」と評したが、まさしく、そのとおり。
■背景には世界貿易機関(WTO)加盟5年目を迎え、じわじわメディア市場開放を迫られている中国で、ロイター、ブルームバーグがものすごい勢いでシェアを伸ばしているあせりがあると思う。新華社が情報の速報性、確実性で外国通信社に競争力が劣るのは誰の目でみてもあきらかで、数百万㌦規模といわれるニュース配信市場で新華社が生き残るには、外国通信社からピンハネしつつ、かれらの仕事を妨害するしかない、というわけだ。
■ちなみに、私たちのような在中国メディアが米大手通信社APなどの配信を受ける場合、これまでも新華社を代理店とし、端末は新華社が提供するチッカー(コンピューター)を利用している。配信内容が干渉されることはなかったが、新華社にはしっかり手数料をとられてきた。だが、経済ニュース大手通信社のブルームバーグなどは銀行、企業に直接、独自端末で配信しており、その数はすでに800以上。こういう新華社がタッチしていない独自端末系配信は、中国経済のグローバル化、情報化に伴い増える一方だ。
■とくに新華社がターゲットにしているのは、ロイター通信らしい。田聡明・新華社社長は最近、新華社発行の雑誌上で「新華社の最終目的はロイターを中国市場から撃退すること」「新華社はロイターの商品について、一週間分のデータをプリントして、何を学ぶべきか、とって代われるものはなにかを研究している」「新華社はこの競争でロイターにとってかわる」などと発言している。そういうなら、正々堂々と競争しろ、といいたいが。
■さらに、こういう新華社の商業上の事情に加えて、情報のグローバル化による中国のメディアや世論への影響が、中国共産党当局にとっては見過ごせないほど大きくなってきた、ということがあると思う。中国メディアの意識変化につていは「中国報道のあした2、3」にも触れたが、最近の中国メディアは、党の喉舌であることよりも大衆の耳目であることを望むようになってきている。いずれももメディアの市場化による影響だ。
■さて、こういうあからさまな、報道の自由への圧力と独占禁止法(中国にはまだないけど)違反みたいなことをやってしまう中国の言い分は?というと、結構巧妙ないいわけを準備していた。
■秦剛報道官は12日の定例記者会見でこう述べたのだ。「中国国内における外国通信社のニュース発信と国内ユーザーの外国通信ニュースの利用に規範を設け、ニュースの健全で秩序のある伝達を促進し、外国通信社と国内ユーザーの合法権益を守るためだ。この管理弁法の制定者、発布者、執行者はすべて新華社であり、意見があれば新華社に言ってください」。
■「我々は次の二点を強調したい。①中国は開放的社会であり、外国メディアの中国報道を歓迎している。昨今、外国から中国に来て取材する記者は絶え間なく増加しており、常駐記者だろうが臨時に中国に来ている記者だろうが、五輪の到来に伴い、より多くの中国メディアが中国注目し報道活動を行うだろう。いずれも我々は歓待し、外国記者の中国における生活と仕事のために良好な環境をつくりたいと願っている。彼らにより多くのサービスと便宜を図りたい。我々は過去も現在もそうしてきたが、今後さらに改善していく」
■「②中国は法治国家であり、いかなる国家も絶対の自由などありえない。すべて法律の枠組み内で権利と自由を行使するものだ。同時に中国政府は法律により本国公民と外国公民を保護し、外国メディアと記者の中国における合法権益を保護している。この法律の公布はまさにその一点を体現しているのだ。皆さんがこの一点を体感出来ることを望む。これは人権、五輪問題と範疇を異ににする問題である。つまりあくまで法治の問題であり、人権とは関係ないのだ。同時にこの管理弁法は五輪期間の外国記者の中国における取材活動にはおよばず、五輪招致時に中国が約束した(外国記者の自由報道)にそむかない」
■つまり、外務省(政府)としてはノータッチ。あくまで新華社が決めたことですから、という姿勢を明確にしつつ、五輪の報道には影響ありませんよ、むしろ通信社の合法権利を守りますよ、というのだ。この合法権利とは、おそらく、中国メディアが外国通信社配信記事を著作権無視で勝手自由に使っている今の状況を規制できる、という意味だろう。この弁法では、ソースを明示せずに外国通信社電を使うことも禁じている。
■ロンドン訪問中の温家宝首相も「中国は対外開放を堅持し、企業利益を保護し、中国における新聞メディアの正当な権益を保護し、金融経済情報のスムーズな伝達を阻害しない」と12日に当地で行われた英中貿易協会主催の晩餐会で発言している。
■こういう言い方をされると、外国通信社も少し考えてしまうところがあるようだ。多くの在中国外国メディアにとって、目下の関心事は、北京五輪をめぐる大報道合戦を勝ち抜くことだが、やはり、その場で当局からはできるだけ便宜は図ってほしい。あまり当局とがつんがつんぶつかりたくないという思いもある。
■一応、欧米の記者や人権団体からは激しい抵抗の声があがっているが、いわゆる当事者のロイターやブルームバーグの声が意外に小さいのは、この規則による実際の影響と、騒ぎ立てることのデメリットを考えているところではないか。
■だから、通信社側としてはここは、やはり国レベルの外交の影響力に期待したいのだ。この問題はアジア欧州会議(ASEM)でも取りあげられ、バロソ欧州委員長が批判しているほか、米国のケーシー国務省副報道官も記者会見で、「報道の規制するいかなる措置にも反対」との姿勢を示している。ぜひ、日本政府も、なにかいってやってほしい。
■こういう国際世論をうけて、WTO加盟五年目、五輪まで二年をきった中国が本当に、恥も外聞もなく、えげつない報道規制を外国通信社に対してやったり、法外なみかじめ料をふんだくるかは、まだ見極めがつかない。あと、最近急激にふえているネット配信のニュースがとういった規制をうけるかも未知数だ。
■ちなみに、産経新聞はじめ、外国紙メディアの報道が直接的影響を受けることはない。しかし、自分とこの報道は無関係だとしても、「中国報道のあした」に期待する一外国人記者としては、こういうヤクザまがいの手法による報道の自由への圧力には、断固反対の声をあげていこうと思っている。
勝つために手段は選ばない、通信社であっても国家であっても、で、手段が一致したら「通信社」は何に姿を変えるのでしょうか。「言論特別警察」という、そこらのSF漫画なぞ笑い飛ばすくらいの“現実”がやってくるのでしょうか。
駐北京外国メディアの方々は安全の為に諸外国の支局よりも一層緊密な情報交換をなされているのでしょうか。
たぶんこの件についても各メディアの意見交換があったのではないかと愚察いたします。
nhac-toyotaさま:在北京の日本メディアは、たしかに香港時代より親密な関係にあります。メディア同士のぬいた抜かれたという競争関係より、当局の報道統制や融通のきかない取材枠のせまさを、協力してひろげてゆこうと、という共闘関係がつよいみたいです。
新華社はもうすでに、通信社ではなく、国家機関であり、海外では情報収集機関(スパイ?)と位置づけられているでしょう。でも、やはりメディアの市場化の波の中で、独立採算制をせまられ、けっこう苦しい立場なのです。
かつての「新華社香港支社」を思い出します。
まさに国家情報収集機関であり、返還工作事務所であり。
返還前は「六四デモ」の終点が新華社前でした。皇后大道東を封鎖しての「平反六四」大合唱は、天安門事件への怒りを感じましたが、今じゃもう、「民主派ウォーキング大会」です。ここへはトウ小平氏の一般弔問に行った思い出もあります。
ちなみに、いま旧新華社はホテルとなり、その横に新しい社屋ができていますが、かつてのような謎めいた雰囲気はありません。
こんばんは。
福島さん、やっぱりこの国ではオリンピック開催は無理バイ
どう考えたって、国家とは思えんもんね。
やっぱり日本は他国に先駆けてオリンピックボイコットを宣言すべきと思いますね。
福島香織様、
初めてコメントさせていただきます。
さすがに現地からの報道、臨場感がありますね。
「こういうヤクザまがいの手法による報道の自由への圧力には、断固反対の声」よろしくお願いいたします。
小生自身のイザブログからトラックバッグさせていただきました。http://marco-germany.iza.ne.jp/blog/trackback/38658
vivaと申します。中国関連の記事、興味深く拝読しました。拙文ですが、TBさせていただきました。
福島様
タイトルが全てを表現していると思います。よく理解できました。
12日の貴女の記事の中にあったウォールストリートジャーナルの分析にもかかわらず、
>いわゆる当事者のロイターやブルームバーグの声が意外に小さいのは、この規則による実際の影響と、騒ぎ立てることのデメリットを考えているところではないか。
>だから、通信社側としてはここは、やはり国レベルの外交の影響力に期待したいのだ。
一私企業の限界を補うためには、国レベルの力が必要ですね。
中国が目指しているのはジョージ・オーウェルが描いた「1984年」のような世界そのままではないでしょうか。この小説では全体主義国家での人間精神の破壊のために肉体的苦痛と心の支配が行われますが、その重要な手段が情報統制による虚構の創出になっています。
特定宗教への迫害、歴史の捏造そして情報統制。
オーウェルは間違えていなかったようです。
leslieyoshi さま:よんでくださってありがとうございます。新華社って、部(日本でいうところの省)れべるなんですよね。新華社社長は閣僚級。
くぼたさま:13日に公布された国家文化発展計画綱要をみても、今後五年の報道、表現の自由のしめつけは相当厳しそうです。しかし、それは国内で報道、表現の自由をもとめる欲求がものすごく強くなっている、という意味でもあると思うのです。五輪をボイコットするより、やはりこの機会をとらえて、国内外メディアは少しでも報道の自由を拡大する努力をしなくては、と私などは思ってしまいます。
マルコおいちゃん さま:はじめまして。これからもよろしくお願いいたします。今年は言論統制の強化年みたいですから、このテーマは比較的力をいれていきたいと思います。
VIVAさま:トラックバックありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
平成退屈男 さま:私も、こういうときは、日本政府もなにかいってほしいな、と思うんですよね。「ちょっとやりすぎじゃないの~」とか。
小龍景光 さま:まさしく「1984年」です。もし、図書館などで雑誌諸君4月号をみかけることがありましたら、拙稿「中国は『1984年』より酷い 言論封殺国家なり」も読んでやってください。
こんばんは。
福島さん、そうかも分かりませんね。
小生は、短絡的な考えが強くて、反中精神が強すぎて?北京オリンピック?ボイコット!、あの国は国家の体を為しとラン!とだけ叫んでいます。
仰る事もよくわかるのですがもうこの歳になるとねえ(笑)
食事注意して、頑張って下さい。
おはようございます。
福島さん、今朝の貴方の記事、読みました。
ここ1年で、キリスト教信者2000人拘束、ここ3年間で300の教会を強制撤去。「神様に助けてもらえよ」と言って暴力を振るう警察官・・・宗教は弾圧する、言論は封殺する。
いくら人民の発言力が弱いと言えども世界の常識では考えられぬことでしょう。今日のこの記事でキリスト教圏の国々の反発は必死でしょう。
やっぱり「北京オリンピック」は無理ですって(笑)
くぼたさま:北京五輪は無理かどうかはともかく、「平和とスポーツの祭典」というのは無理かも。どんな五輪になるやらどきどきです。