成田空港でただいま籠城中:馮正虎さんかくかたりき②

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■馮正虎成田籠城事件を日本の友達が意外に知らないことに驚いた。不謹慎だけど、映画みたいに面白いじゃないか。友人のマダム・チャンによると、班忠義さんも興味をもっているらしい。班さんは、「ガイサンシーとその姉妹たち」などの作品で知られる映画監督で、中国のマイケル・ムーア?的な存在。彼のドキュメンタリーになったりしたらちょっとすごい。

 

■そのマダム・チャンが「どうして日本のマスコミは報じないの?」と言っていた。そう、どうして日本のマスコミはあんまり騒いでいないの?

 

 

■で、調べてみたらけっこう報道されていた。当然だ。成田空港といえば立派な記者クラブがあり、記者がほぼ常駐している。取材しないわけがない。だが、その記事があまり目立たない。朝日新聞は大きく紙面をさいていたが、夕刊だ。夕刊ってあまりよくよまないから、朝日新聞をとっている友達も気づかないでいた。その内容もちょっと腫れものに触る感じだ。どうしてだろう。というわけで、今回のエントリーはこの事件を日本人と日本サイドの立場にたって考えてみようと思う。

 

 ■日本に波及する中国の人権問題

はっきりいって迷惑してる

って中国様にいわないと

大量の難民押し付けられちゃうかもよ

 

 

■成田空港の広報の人は結構親切で、私のように「明日から記者なくなるんですけど」という人間に対しても、きちんと対応してくれた。「今は彼の健康だけが心配ですよ」などと、日本人的な優しさを見せる一方で、「早く入国してほしい、あそこは生活するところじゃないから」と本音も。取材は連日、世界各国から申し込みがあり、その対応だけでもへとへとのようだ。ちなみに中国語はわからないようで、あとで「彼は何を話してました?」と聞いてきた。「これは日中関係の問題だ。日中関係の不平等性の問題だ、といってましたよ」と伝えたら、「そうですかあ」となんか、しゅんとしていたよ。

 

 

■考えてみれば、成田空港は気の毒だ。彼ら自身は何の非もないのに、中国の都合で、行動力と発信力のある著名人権活動家を押し付けられ、もし邪険にあつかおうものなら、日本の人権感覚はどうなっている?と世界中の人権活動家から批判をあびかねないのだ。でも、実際施設の一部を不当に占拠されているわけで、日常業務にまったく支障がないわけはない。

 

 

■ANAにしても気の毒だ。金を払ってチケットを買った以上、お客様だから搭乗はさせるけれど、こんど彼をつれて帰らなければ、上海当局から離陸させないなどの嫌がらせをされる。中国便はANAが力をいれているドル箱ラインだから、中国当局との関係にも気を使うだろう。しかし「当局が馮さんを力づくで飛行機に乗せたのに客室乗務員がだまって見ていた」というだけで、私の友人なんかは「ANAってひどい!」と言っていた。でも、これを一介の客室乗務員にどうしろというのか。

 

 

■これをどうこうできるのは、結局日本政府だけなのだ。でも、中国の楊潔チ外相が来日して岡田外相と会談した19日、記者会見で英国記者が、馮さんの問題を外相会談で取り上げたかとたずねたところ、その話題はでなかったと答えてたそうだ。中国外交部は12月1日の定例記者会見で、馮さんに関する質問にこう答えていた。「中国の関係部門は中国出入境管理法などの法律に従って、問題を処理しています。具体的状況は関係部門に聞いてください」(つまり知らん顔)。双方とも、この事件を日中関係問題にしないという姿勢で一致しているようだ。

 

 

■ちなみに、伝え聞くところによると、上海の馮さんの家族のもとに、上海公安当局が「馮さんに日本に入国するよう説得してくれ。このままだと国際問題になってしまう」と泣きを入れているそうだ。もちろん家族は「それより馮さんを家族のもとに返せ」と拒否している。むこう(中国側)も、この事件はほうっておくとヤバイと思っているのだから、日本政府がここで強気にでないでどうするよ。成田空港もANAも困っているぞ、と私はいいたい。

 

 

 

■日本政府が、あまりこの問題を大きくしたくないのは、中国との関係もあるけれど、おそらく政治難民の取り扱いも関係あるのではないかと、私は勘ぐっている。日本は先進国の中では、難民を受け入れたがらない国である。難民認定は、外務省・法務省の上層部が組織する委員会が非公開で行い、国連の難民条約に照らし合わせた客観的判断より、政治上外交上の判断が優先されるため、実際の受け入れ数は非常に少ない。もし馮さんは日本に入国したほうがいいという政府判断を大っぴらすれば、ではこれから難民受け入れを増やしてくれるんだな、と国連難民高等弁務官なんかは嬉々として言いかねない。

 

 

■日本にとって中国からの難民問題というのは、実は潜在的な危機と考えられている。鄧小平は1990年6月にこんなことをいったことがある。

 

 

■「中国が不安定になれば世界も不安定になる。中国で内戦がおきれば止めることはできない。もし中国共産党が中国をコントロールできなくなり国が乱れれば、人口が海外に流れ出す問題が生じるが、誰もどうすることもできない。1億人がインドネシアに流れ、1000万人はタイへ、50万人は香港へいき、香港は大混乱にならないか」。

 

■このとき、日本へは5000万人が流出すると暗にほのめかされ、日本外務省が震え上がったそうだ。

 

 

■今でこそ、中国は世界中のどこより好景気で、海外に出た中国人もどんどん国内に戻っている。だが、いつなんどき鄧小平の言葉が現実にならないともかぎらない要素を中国は今もかかえている。それゆえ、日本政府も、中国が押し付けてきた難民を、簡単にでは引き受けます!とは言いいたくない。かといって、中国政府さまに、馮さんを引き取ってください、と言う交渉能力もない。かりに馮さんを中国に引き取ってもらうことに成功したとしても、その結果、彼が投獄されたりしたら、あまりに寝ざめがわるいから、ちゃんと人権問題として善処を要求しなければならない。

 

 

■そのあたりの事情から、日本のメディアとしても、あんまり騒いでもねぇ~、という気分になるのだろう。で、空港に一カ月立てこもっている中国人人権活動家がいますよ、かわいそうに、というくらいしか報道しないから、読んだ人も、なんか成田にへんな人がいるらしい程度の印象しか残らない。

 

 

■11月19日夕、国連の駐日難民高等弁務官室の職員が馮さんを訪れ、馮さんには政治難民として日本政府に受け入れを要求する資格があることを伝えた。これに対して、馮さんは「私には中国という祖国があります。私は中国人で中国の知識分子であり、中国に対して責任ある。私が帰国すること、これは中国人の最も基本的な人権です」と答え、拒否した。この知識分子の祖国に対する責任というのは、国家をよい方向に導いていくという責任だろう。そしてこうもいった。「中国の難民はだんだん減っています。中国はだんだん良くなってきている」。

 

■馮さんが帰国して、中国国内で不満を抱えている膨大な陳情者を少しでもサポートして、法治国家のやり方で社会に鬱積する不満を解消していくことは、長い目でみれば、中国社会の安定化につながると、と私は思う。中国は馮さんのような人権活動家こそ中国社会の安定を脅かすと思って排除しようとするのだろうが、本当の危機はもっと深層にある。切開して膿を出す方が熱が下がることもあるのではないか。

 

 

■そう考えると、日本政府としては馮さんを帰国させる方向で外交努力した方がいいのではないか。中国が中国人の人権を守らないことで生まれる難民をただおとなしく受け入れるより、馮さんのように中国に戻って人権状況を改善したいと考える人を支援するほうが、長い目でみれば難民が大量に押し寄せるという危機を回避する結果になるのではないか。

 

 

■馮さんはもともと来年6月までのワーキングビザを持っていたが、それを放棄することを宣言している。ビザ取得者の宣言によってビザが本当に失効するかどうかは、外務省に確認しないとわからないけれど、もし馮さんがビザなしの不法滞在であるとすれば、日本としては馮さんを中国に強制送還していいはずである。ほかの中国人に対してはそうしているだろう。

 

■そのうえで、中国の人権問題が、日本に波及し、ANAや成田空港の運営に支障をきたしていることに対してはっきりと文句を言うべきである。こういう問題が起きないよう、人権状況を改善せよと、日本には言う権利がある。

 

■すぐ隣にあって人的交流がこれだけ多い国なのだもの、中国の人権問題に日本や日本人がいやがおうでも巻き込まれたり加担してしまうことはあるのだ。中国の人権問題は、日本にとって中国の内政問題だから、と見過ごしていいものではない。中国の人権状況改善を、日本としてもとめていくことは、日本の国益に合致すると思うよ。

 

■前回のエントリーでは、習近平・副主席訪日のときに鳩山首相がちゃんと問題として取り上げるべきだ、と書いたが、そういえば、その前に小沢一郎民主党幹事長が訪中するんだった。小沢さんは胡錦濤国家主との会談のさいには、ぜひ、馮正虎問題に言及してほしい。

 

 

■なぜなら、小沢さんは実は、馮さんに少なからぬ縁があるからだ。小沢さんの著書「日本改造計画」を中国語訳して中国で出版したのは、本人いわく、馮さんだそうだ(海賊版ではない!)。馮さんが天安門事件20周年記念などの講演会で主張する「中国改造論」は小沢さんの影響らしい?小沢さんは、聞くところによると、一度恩を受けた人との関係は終生大切にする義理かたいところがあるとか。本当に小沢さんのおかげで馮さんが無事帰国できたら、私の中の小沢さん株は急上昇するのだが(笑)。

 

 

 

 

日本の通信社の取材をうける馮さん。

早く家に帰してあげたいと思う。家族も待っているし。

 


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「成田空港でただいま籠城中:馮正虎さんかくかたりき②」への8件のフィードバック

  1. おはようございます。
    どうしても「人権」と言うと政治的な道具にされすぎていて、真面目に考えている人ほど虚無感に苛まれているのではないでしょうか?中共は相変わらず「内政干渉」と言う反応しか見せませんし。
    馮さんの具体的な活動を伺っていると、中共の場合には「人権」以前に、「法治」と言う姿勢の欠如が問題じゃないのかな?と思っています。
    各国とも「法」に対する恣意的・政治的な抑制が無いわけじゃないのですが、中共の場合には、公・民ともに決定にいたる情報の公開性において、日本の比で無く、あからさまに不透明です。
    まずは、馮さんの帰国を阻む理由、だれが阻んでいるのか?を公開するよう迫るところからスタートではないでしょうか?
    馮さんの活動や姿勢は素朴かもしれないですが、こうした地に足を着けて祖国に愛着を持って活動をしている方って報われて欲しいですね。

  2. こんばんは
     テレビ局は報道しているんでしょうか?。  我家は
    テレビも無いので分からないんですが・・・・・・・。

  3. このブログで初めて知りました『馮正虎成田籠城事件』。ますます健筆を奮っておられる由、誠にご同慶の至りです。
    なのに、NHKは今日のお昼のユースでタイガーウッズのゴシップなんかを報道している。もっと大事なこともあるであろう。公共放送の矜持は持ち合わせていないのだろうか?酒井法子の時も民放含め、何日間も続けて報道していた。これは薬物問題であったからまだ大義名分はあったのかもしれないが・・・。これからもっと自由な言論で日本のマスコミを切って欲しいものです。
    Hermes

  4. この際、オザワに下駄を預けるというのはグッド・アイデア。この事件をオザワ本人に知らしむることが先決。kaokaoの腕にかかっている。頑張れ!

  5. >■このとき、日本へは5000万人が流出すると暗にほのめかされ、日本外務省が震え上がったそうだ。
    中国最強の武器は核兵器ではなく、10数億人の人間ですね。
    中国が順調に発展するケース(ほとんどあり得ない)と、停滞して崩壊に至るケース。
    どちらも恐ろしいことになります。
    中国が崩壊して難民がボロ船に乗って押し掛ける場合、阻止する気力が平和ボケの日本国民にあるでしょうか。真剣に考えなければなりませんが、民主党では無理です。困ったものです。
    私が総理大臣なら(あり得ませんが)、ボロ船が日本領海に侵入して停船命令を無視する場合、撃沈命令を出します。
    魚雷でドカーン。
    数百人が死ぬとしても、日本を守るためにはやむを得ません。
    友愛を叫ぶマザコン総理にそんな蛮勇がないのは明らか。
    日本の滅亡を防ぐ手立ては今のところ見当たりません。
    日本国民の皆さん、安らかに成仏してください。
    南無阿弥陀仏
     

  6. 香織師匠
    > 「私には中国という祖国があります。私は中国人で中国の知識分子であり、中国に対して責任ある。私が帰国すること、これは中国人の最も基本的な人権です」
    馮さんの言葉からは良質のナショナリズムを感じますね。 伯夷叔斉だったか? 敵の粟を喰らわず信念を通す姿勢は多くの日本人も共感を覚える筈なんだが…
    > …を中国語訳して中国で出版したのは、本人いわく、馮さんだそうだ(海賊版ではない!)
    へぇ?知らなかった。 小沢本人が動かずとも、多数の小沢ユーゲントが大挙して動く価値はあるんじゃないかな? 単なる「野次挙手要員」ではないところを是非とも見せて頂きたいもんですね…♪

  7. To 一閑さん
     人権活動家の中には、確かに食いあぐねてその道に走ったり、売名が目的かと思うような人もいますが、馮さんや王力雄さんには、私は中国人知識人のプライドや良心を感じます。上海万博を目前に、彼が陳情者(万博のために立ち退きを迫られた人も含むかもしれない)支援活動をすると、万博に傷がつくとでも思っているんでしょうか。まったく反対だと思います。

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