今年の中国の子供の日(6月1日)の記念切手は1964年制作の中国の名作アニメ孫悟空がモチーフ。
中国通で中国映画字幕翻訳家の水野衛子さんにあったとき、この切手を見せられて、どう思う?何を読み取る?と問われてしばし考え込んだ。 切手は如意棒をふるう孫悟空、馬を駆る孫悟空、そして斉天大聖の旗をもった孫悟空。孫悟空、天宮で大暴れ「大闹天宫」の名場面。
水野さんいわく、如意棒は武力、馬は経済力の象徴。そして斉天大聖(天帝と肩を並べる聖人)の旗を掲げる孫悟空の意味は米国と肩を並べたぞ、という中国の自意識だと。もちろん、これは切手を見てこちら側が勝手に深読みしただけの話なのだけれど、中国のインテリなら、そう読み解くよね~、とうなずきあった。
彼女は中国人インテリと広く交流のある言語のプロだから、その深読みはあたっている。 とにかく中国って深読みの文化なのだ。このアニメ自体が1964年に作られた当時、中ソ対立が激化した時代だった。
「斉天大聖」の称号を地上の諸侯たちから与えられた孫悟空は天宮に招かれて御馬屋の長官に任命され、最初は天帝も自分を認めたのだと喜ぶが、その任の意味を知ってバカにするな、と天宮で大暴れ、ついには天帝に退位を求め、地上界と天上界の全面戦争を引き起こす。ストーリー的には天帝が釈迦如来に泣きついて介入してもらい、孫悟空を懲らしめるのだが、とにかく孫悟空の暴れっぷりが痛快で、子供たちは悟空に魅了された。だけど大人たちは、このアニメに、天帝のような旧ソ連に戦いを挑む中国の姿を見た、と見なかったとか。
ほかにも切手デザインの深読みについてエピソードがある。1980年(81年?)の記念切手に呂氏春秋に出てくる寓話「舟を刻んで剣を求む」をモチーフにしたものがあった。ある人が長江を舟で渡っていると、うっかり水に剣を落としてしまった。するとあわてて舟のへりに目印を刻んで、「私の剣が落ちたのはここだ」と言った。そして岸についてから、そのあたりの川底をさらったが剣はみつからなかった。舟は動き、剣は動いていないから見つからないのは当然。このようにして剣を探すのは愚かなことではないか、という話。教条主義者を批判するこの故事成語をどうして、このタイミングで記念切手デザインにするのか。それは華国鋒を暗に批判しているのだ、という。これも中国インテリから水野さんが仕入れた話。
そんな風に、ありとあらゆることに深読み、とくに政治的意味を読み解くのが中国人の文化だから、外国人も中国がらみのコンテンツをつくるときは気をつけないといけない。米国アニメ映画のカンフーパンダで、「パンダのポーの師匠、シーフーがアライグマなのはけしからん」という声が一部中国人から上がったことがあった。アライグマは北米にしか生息していない、つまり米国の象徴。これはアニメを通じて、子供たちに中国(パンダ)の師匠はアメリカ(アライグマ)だ、と教え込もうとしている!と深読みしたとか。だけど米国人に言わせれば、あれはレッサーパンダだから、と。Wikiにもレッサーパンダと紹介されているし。
こんな調子だから、中国人の友人からもらったさりげないプレゼントやメッセージの中に、思わぬ意味が隠れていることもあるかも。もちろん、誤読することもあるが、だいたい、その深読みはあっている。読み取った相手の本音を口に出して言うことなく、こちらも暗喩にしてさりげなく返すのがいい。それが中国人のいう「政治巧者」の流儀らしい。
中国人は奥深いと言うか面倒臭いな、自分たちがやってる事は、間違い無くて国際社会に負けるはずが無いと言う自信の表れですかねー。