■北京は日中最高温度、摂氏三十を超える真夏日を迎えています。読者の皆様はいかがお過ごしでしょうか。本日より開始ます当ブログは、おもに北京および中国各地の、趣聞(チーウェン、興味深い話題)を世相などとからめて強引に解説するものです。メーンディッシュの新聞記事には及ばないが、あればうれしいデザートのような話題を提供できればと考えています。
■さて、きょうの趣聞は北京の「薩満太太(サーマンおばさん、太太は中国語で婦人に対する敬称)」についてです。
「薩満」とは英語のシャーマンの語源となる満州語「サマン」に漢字をあてはめたもの、つまり呪術師。東アジアの満州族(女真族)などツングース系の原始信仰、サマンが漢族の土俗信仰などと融合して今も「薩満太太」と呼ばれる呪術師が農村部に結構いるそうです。彼女らは「跳神太太」といった呼び名もあり、トランス状態になって飛び跳ねたり、首を激しく振り歌いながら「神」のお告げを伝えます。たいていは病気治癒に関するお告げですから、呪術医といってもいいでしょう。共産主義国、しかも「科学立国を目指すぞ」と息巻いている中国で原始宗教が今も息づいているとは驚きです。しかも北京の比較的金持ちの都市民も、車をとばしてわざわざ農村の薩満太太を訪ねて病気をみてもらったりするのです。
■さて、きょうの趣聞は北京の「薩満太太(サーマンおばさん、太太は中国語で婦人に対する敬称)」についてです。
「薩満」とは英語のシャーマンの語源となる満州語「サマン」に漢字をあてはめたもの、つまり呪術師。東アジアの満州族(女真族)などツングース系の原始信仰、サマンが漢族の土俗信仰などと融合して今も「薩満太太」と呼ばれる呪術師が農村部に結構いるそうです。彼女らは「跳神太太」といった呼び名もあり、トランス状態になって飛び跳ねたり、首を激しく振り歌いながら「神」のお告げを伝えます。たいていは病気治癒に関するお告げですから、呪術医といってもいいでしょう。共産主義国、しかも「科学立国を目指すぞ」と息巻いている中国で原始宗教が今も息づいているとは驚きです。しかも北京の比較的金持ちの都市民も、車をとばしてわざわざ農村の薩満太太を訪ねて病気をみてもらったりするのです。
■そんな北京っ子の友人の案内で薩満太太に会ってきました。場所は「北京の水瓶」と呼ばれる湖、密雲水庫がある密雲県の某村。ここは北京市といいながら万里の長城の北側、つまり西太后が漢族に東北部の開拓を許す前は、ツングース系少数民族しか住んでいなかった地域なので、薩満信仰の名残があっても不思議はない気がします。
北京市中心部から車で三時間半、山をいくつか越えてたどり着いた村に、薩満の家はありました。煉瓦づくりの典型的農家の門をくぐると、仏教風の赤い祭壇。その右手の部屋のベッドの上に隻眼の老女が横たわっていました。この方が薩満太太です。
北京市中心部から車で三時間半、山をいくつか越えてたどり着いた村に、薩満の家はありました。煉瓦づくりの典型的農家の門をくぐると、仏教風の赤い祭壇。その右手の部屋のベッドの上に隻眼の老女が横たわっていました。この方が薩満太太です。
齢、七十六歳。首を振り歌いながらお告げをするそうです。ただ、現地に行ってわかったのですが、この太太、三カ月前に脳溢血で倒れて寝たきりになり、もう首振りのお告げができないとのこと。
ムダ足か、とがっかりしたのですが、太太はまだ視力の残る左の眼で、私たちを見つめて手招き。まだ病気治癒の力は残っている、というのです。
同行の歴史研究家が、診てもらうことにしました。太太は友人の手の平をなぜながら、ごにょごにょと何か語りはじめす。太太の娘の通訳によると、「首を痛めている。気持ちがいらいらするだろう。?。死んだ息子がいるはずだ?」。うーん、当たっているのか当たっていないのか微妙な内容。
さらに太太の指示で娘が祭壇から赤い顔料のような粉を取り出してきて紙に包み渡しました。「これを少量ずつ飲み物にまぜて毎日飲むように」と。歴史研究家はこっそり耳うちして「たぶん、亜鉛か何かの鉱物だ」といいますが、毒か薬かわからぬものを飲めとは。で、最後に祭壇の前で焼香、叩頭し祈ります。
■ひょっとしてペテン?と思っているのが、顔に出たのでしょうか。太太のそばに座って、治療の順番を待っていたリューマチらしいおばあさんが「太太の治療は本当によく効くのだ。私も歩けなかったのが歩けるようになった。この村で太太に救ってもらわなかった者はいない」と、いかに太太が村人から尊敬を集めているかを説明します。
太太は生まれつき、薩満としての能力が備わっていたのではなく、六十歳のとき、清朝の皇帝の避暑地である河北省承徳
を訪れたとき、突然備わったそうです。
「神の声が聞こえるのはどんな感じか。今まで何人診てきたのか」。好奇心旺盛な歴史研究家がねほりはほりききはじめると、太太の娘の表情が徐々に険しくなってきます。「どうしてそんなこときくの。写真を撮るのはなぜか」。
友人は「みんな俺の友達だから安心しろ」と説得してその場を丸く収めましたが、あとできけば、政府の邪教狩りに相当おびえていたとのことでした。「私たちは邪教なんかじゃない。村人のためにどれだけ役にたったか考えてほしい」。娘は、そうも訴えていました。
太太は生まれつき、薩満としての能力が備わっていたのではなく、六十歳のとき、清朝の皇帝の避暑地である河北省承徳
を訪れたとき、突然備わったそうです。
「神の声が聞こえるのはどんな感じか。今まで何人診てきたのか」。好奇心旺盛な歴史研究家がねほりはほりききはじめると、太太の娘の表情が徐々に険しくなってきます。「どうしてそんなこときくの。写真を撮るのはなぜか」。
友人は「みんな俺の友達だから安心しろ」と説得してその場を丸く収めましたが、あとできけば、政府の邪教狩りに相当おびえていたとのことでした。「私たちは邪教なんかじゃない。村人のためにどれだけ役にたったか考えてほしい」。娘は、そうも訴えていました。
■さて、この薩満太太が「邪教」か「ペテン」かどうかは別にして、医療・衛生環境が劣悪な中国の農村には、このような呪術医、ウィッチドクターみたいな存在は昔からありました。「新型肺炎(SARS)」のときも、「爆竹をならせ」「豆のスープをのめ」といった治療法を指示して新聞に「迷信にまどわされぬように」とわざわざ警告がでたほどですから。
特筆すべきは、それが、最近は都市民までわざわざ農村にに出かけて治療を求めたりすることからもわかるように、改革開放後、廃れるよりむしろひそかに人気がでている兆しがあることです。だからこそ、当局は「邪教」に対する締め付けをきつくしているとも言えます。
当局が「邪教」に今ほど敏感になったきっかけは「法輪功」ですが、考えてみれば法輪功も、気功治療プラス仏教的色彩が一緒になって農村から都市まで広がったからで、人々が薩満を慕うのと背景は同じでしょう。
中国の医療のいい加減さ、医師や看護婦の横暴さ、賄賂、腐敗の浸透ぶり、医療費のでたらめな高さ、それにニセ薬の多さをみれば、私ですら中国の病院か呪術医か、二者択一をせまられた場合、呪術医を選ぶかも。少なくとも呪術医には輸血や医療器具によってHIVや肝炎に感染するような危険はありませんし、値段も安いですから。(中国の病院では、手術前に「輸血による感染症や院内感染については病院の責任を問いません」といった文書に署名を求められることが一般的。そのぐらい院内感染は多いといわれてます)。薩満太太の治療費は北京市中心からきた金持ちそうな私たちですら五十元でした。村人なら数元程度らしいです。
特筆すべきは、それが、最近は都市民までわざわざ農村にに出かけて治療を求めたりすることからもわかるように、改革開放後、廃れるよりむしろひそかに人気がでている兆しがあることです。だからこそ、当局は「邪教」に対する締め付けをきつくしているとも言えます。
当局が「邪教」に今ほど敏感になったきっかけは「法輪功」ですが、考えてみれば法輪功も、気功治療プラス仏教的色彩が一緒になって農村から都市まで広がったからで、人々が薩満を慕うのと背景は同じでしょう。
中国の医療のいい加減さ、医師や看護婦の横暴さ、賄賂、腐敗の浸透ぶり、医療費のでたらめな高さ、それにニセ薬の多さをみれば、私ですら中国の病院か呪術医か、二者択一をせまられた場合、呪術医を選ぶかも。少なくとも呪術医には輸血や医療器具によってHIVや肝炎に感染するような危険はありませんし、値段も安いですから。(中国の病院では、手術前に「輸血による感染症や院内感染については病院の責任を問いません」といった文書に署名を求められることが一般的。そのぐらい院内感染は多いといわれてます)。薩満太太の治療費は北京市中心からきた金持ちそうな私たちですら五十元でした。村人なら数元程度らしいです。
■中国共産党が「邪教」に敏感なのは、過去の歴史の中で、宗教結社の影響力が王朝滅亡の引き金となった例がたびたびあったからでしょうが、素朴な人々に安心と救いを与えるこういった土俗宗教や気功を「邪教」扱いして弾圧すれば、社会の不安定化はいっそう進むのではないでしょうか。弾圧する労力を、少しでも安全で行き届いた医療システムと社会保障整備を確立することに注いでほしいものだ、と薩満の村でつくづく思ったのでした。