◆いや、急に新書一冊8日〆で仕上げることになり、サイトの方にあまりかまけてられないのですが、さすがに周さん失脚が発表になったので、ちょっとは書いとかないとね。
◆新華社北京電によれば、7月29日、ついに周永康が共産党章程と中央規律検査機関事件調査工作条例に基づき、「重大な規律検査違反」によって、立件にむけた取り調べを行うと党中央が決定しました。周永康同志じゃなくて、周永康と呼び捨てです。つまりすでに党籍剥奪されているんです。
◆で、フェニックスとか、もう予定稿全部用意してましたぜ、ってくらい素早く全面的に特別報道やっとります。だけで百度で検索したら、検閲に引っかかる記事もあるようです。
◆周永康って誰?という人に、簡単にご説明を。
胡錦濤政権時代の党中央政治局常務委員です。そのころ政治局常務委は9人いました。習近平政権では7人に減りましたが。共産党は集団指導体制と呼ばれ、党総書記を中心としたこの政治局常務委が重要決定のすべてを決めます。最後の最後の決定をするのが、党政治局の9人、ないしは7人が挙手の多数決で決めるんです。ですから元政治局常務委とは党指導部、早い話がトップです。
◆周永康さんは、胡錦濤政権時代のトップ9人のうち、9番目でした。中央政法委書記という役職にもついてました。これは警察(公安)と武装警察(国内治安維持目的の軍の下部組織)の指揮権を握る役職です。
◆そんな偉い役職について、円満に引退したあとにタイーホとか、従来の共産党政治、少なくとも鄧小平以降の安定した共産党政治の中ではありませんでした。しかも、彼は上海閥の江沢民子飼いの部下でした。上海閥というのは江沢民政権時代に上海周辺出身者や江沢民お気に入りが出世して中央に作った派閥です。中国石油大学(旧北京石油学院)出身で、石油企業経由で官僚になった周さんは、この上海閥の中でも、特に石油利権グループに石油閥に属してました。また四川省書記も務めていたので四川にも人脈がありました。指導部の一人で、公安・武警トップで、上海閥の主要メンバーで、石油閥で、四川閥。なので、ものすごい利権と権力を持っていました。こんな権力と金を持っていた人が、たとえ引退したとしても刑事罰に問われることなど、共産党政治の秩序的には、これまでありえなかったのでした。
◆で、周さんがどうして失脚したかというと、最大の原因は、薄熙来・元重慶書記の失脚です。彼が失脚したことで、彼といつもつるんでいた周さんの悪事の証拠が習近平にどんどんばれることになりました。悪さというのは、汚職、女性関係の乱れ、そしてクーデター計画容疑です。汚職と女性関係は、どんな共産党官僚もする悪さなのですが、薄熙来と一緒になって習近平から権力奪取を画策したという疑いは、見過ごせないものでした。なので、習近平政権は、従来の「刑不上常委」(政治局常務委員は刑に問われない)という共産党政治における不文律を破ってでも、彼を失脚させねばならないのでした。ちなみに「刑不上常委」とは「刑不上大夫」をもじったもので、周~春秋時代の貴族・特権階級が刑事罰に問われなかったということです。同じように共産党貴族の政治局常務委も罪に問われない、というニュアンスです。
◆これは激しい権力闘争が天安門事件みたいに「動乱」を引き起こして共産党政権をひっくり返しかねない危険性に気づいた鄧小平が、権力を分散させるために導入した集団指導体制を支えるための不文律でもありました。つまり政治局常務委を誰も裁けない、ということによって、政治局常務委9人ないしは7人が完全につぶしあうことを避けるという意味です。ちなみに天安門事件が起きたのは、鄧小平VS趙紫陽の権力闘争があったから、というのは通説であります。文革は毛沢東VS劉少奇の権力闘争。
◆しかし、周さんのバックには江沢民さんという元総書記元国家主席、習近平さんを後任につけてくれた恩人がいます。恩人がかわいがっていた部下を失脚させるのは簡単ではありません。しかも周さんの人間関係は広く、彼の罪をさばけばほかの党中央官僚、中央軍事委、政治家、企業家も連座しかねない。いろんな人が周さんをかばおうとします。しかし、習近平さんは彼を完全失脚させないと枕を高くして寝られないとばかり、ものすごい執念で、石油閥、四川閥といった周辺から汚職を暴き、外堀をうめ、ついに昨年末くらいには、江沢民さんに、もう周永康はかばいきれないわ、と認めさせるところまで追い詰めたのでした。ですから周さんが公式の場で笑顔を見せているのは昨年10月1日の中国石油大学創立60周年式典以来?
◆で今年の春節ごろから、ずっと周永康の失脚発表いつ~?みたいな感じで中国屋たちは注目していたのですが、それがなかなか発表されない。で、周さんより先に、元中央軍事委副主席の徐才厚さんみたいな大物が党籍剥奪になったので、おおお?と注目されました。そして郭伯雄さんというやはり元中央軍事委副主席が、捕まったという情報も流れました。これは正式に発表されてませんが、女装してニセパスポートで高跳びしようとしたところ捕まったという噂がながれて、こんな写真がネットで流れまくりました。
◆私が香港メディアの人たちから聞いた話では、江沢民さんは周永康逮捕に同意していたはず。(ちなみに周永康逮捕に最後まで反対した長老は李鵬さんと宋平さんだったとか)。おそらく江沢民さんの立場から言えば、さっさと周永康逮捕を発表して、これで「大虎狩り」を終わりにして~、といったすがるような思いだったかと思います。
◆ですが、習近平さんは、周さんにとどめをさす前に、江沢民さんと超仲のいい、徐才厚さんと郭伯雄さんに手を伸ばしたのです。二人とも軍の上将、トップを務めた英雄です。それが翌日に罪人に落ちるわけです。郭さんなんか女装コラでネット民のおもちゃにされてしまったわけです。
◆で、にわかに曾慶紅さん、5月ころから軟禁状態らしいよ、とか、江沢民さんだけ、無事ってことはないよな、とかそんな噂が香港とか台湾あたりから流れてきました。
◆そこで中国屋は、いろいろ妄想たくましくするわけです。ひょっとして、習近平さんの最終ターゲットは元総書記を牢屋にぶち込むことじゃね?と。そんなことできるんか、いやできまい。いや、今の習近平ならやりそう、とかいろいろ、勝手な想像を言い合ってました。とりあえず、8月の北戴河の非公式会議のゆくえがみものやね、と。
◆なので、私は周永康失脚発表も北戴河会議のあとだろうと思っていたのですが、なんと習近平は今年、北戴河に行きません、と多維ニュースブログとか流しているじゃないですか。ほんと?
◆で、八一(建軍記念日)を控えたこのタイミングで、周永康失脚発表。これはどういう意味ですかい。
①もう、これで大虎狩り(党中央幹部の汚職退治)はほぼ打ち止め(令計画はすでに失脚済だと仮定して)ですから、北戴河で根回しするには及びません。江沢民さんまでには司直の手は及びませんし。ほかの仕事が忙しいし、北戴河には行きません、というメッセージ。
②北戴河で長老と相談して、虎退治の狩場の範囲を決めるなんて、やってられるかよ。俺は狩りたい奴を狩る、という意思表示。
③実は何も考えていない。
◆ちょっと、もう少したってから、この点は考えてみたいと思います。大虎退治、まだまだ続きそうな気がするんですよね。
周永康さんについては、私の日経ビジネスオンラインの過去記事も参照してください。