7月1日は香港が中国に返還されて17周年の記念日。今年のこの日はぜひ香港にいたい、と思っていたのだが、結局見送った。費用対効果の問題で。やはり香港ダイレクトの航空券は高いのお。7月5日に東京にいないとだめなので、7月1日の香港取材と抱き合わせに中国での取材を組み込もうとすると日程がたりないのだ。少ない取材費は大事に使わねば。中国、香港、台湾にはとにかく現地に足を運びたいので、もし雑誌・テレビなど出張費つき取材依頼がぜひともお声掛けください。
◆香港では2003年来の大規模デモ
◆で勝手なお願いをまくらにしてしまったが、今年の香港7・1のデモについて語りたい。主催者発表で51万人、警察発表9万8600人。今年、台北であったひまわり学生運動の反サービス貿易デモ(3月30日)も主催者発表50万人(警察発表11万人)。
◆香港では2003年7月1日に香港基本法23条に絡む国家安全条例反対デモが50万人だったから、それと同じか以上の規模。メディアの見出し的には過去10年最大規模。台湾のひまわりデモも香港の2003年デモも一応現場を見ているので、今回は現場にいかなかったけど、50万人デモの熱気というのが想像できる。
◆揶揄するわけではないけど、日本の集団自衛権容認反対デモの規模を考えるとちょっとレベルがちがう。2300万人中の50万人結集と715万人中の50万人結集と1・3億人中の4万人の主張の本気度の差というべきか。ちなみにヒマワリデモと2003年の香港の50万人デモはいずれも、デモ主催者側の要求に対して政府が譲歩する形で終わった。
◆人口比的に言えば、一番香港が必死だといえる。7・1デモは毎年メーンテーマが多少変わるが、基本は香港の自治、一国二制度を守れ、というのがスローガンである。今年のメーンテーマは、もちろん2017年に導入予定の普通選挙に対する中国当局の干渉に反対する、ということだ。
◆おりしも先月、中国当局が発表した「香港における一国二制度実践」白書では、中国政府の香港に対する「統括的統治権」を明記した。「一国は両制によって破壊されない」「両制は一国の利益を凌駕できない」「香港の法律と秩序を破壊してはならない」「基本法は一国二制度モデルの根幹であり、基本法を覆すことはできない」(基本法23条を意識?)「これを守ることによって、外国が香港の特殊地位を利用して中国の崛起を妨害するごとを防止しなければならない」…。
◆こういう条件のもとに普通選挙を導入するということは、つまり中国政府にとって不都合な人物であれば立候補させないし、当選させないし、任命を拒否するというわけだ。中国側は香港の普通選挙導入を認めているが、その立候補者については、「愛国者」であること、既存政党所属などを条件にしている。「港人治港是以爱国者为主体的港人治港」(香港人による香港統治(一国二制度のキモ)は愛国香を主体とした統治である)という論法なのだが、この愛国者って何よ、ということだ。
◆例えば、中国でがんがん捕まっている浦志強のような人権派弁護士も劉暁派の民主活動家も、中国のよりよい未来を願っているという点では間違いなく愛国者。中国やばいから、娘・息子に欧米留学させてグリーンカード取らせて隠し財産をひそかに欧米のプライベートバンクに移動させる中国太子党官僚よりもずっと愛国者だ。ひょっとすると習近平や温家宝よりも愛国者かもしれない。
◆そういう中国の態度に、当然、香港人の反発は高まっていた。今年の7・1デモはまさに2017普通選挙が「真の普通選挙」となるか「偽の普通選挙」となるか。香港自治を守れるか否か、かげっぷちに追い込まれた香港人の最後の抵抗ということだ。
◆その最後の決死の抵抗で51万人しか集まらなかったとみるか、返還後最大規模だ、すごい!とみるかは、意見の分かれるところだろうが、例年にはない異常事態が発生している。
◆まず、警官隊による強制排除が行われ、511人以上も逮捕される。これは、デモが終わったあとセントラルで2000人ほど解散せずに無許可で座りこみが行われたから、警察が動いたのだが、500人以上の逮捕者が出たのはただ事ではない。
◆香港というのは、もともとデモや集会にたいして寛容な地域なのだ。半分揶揄の意味で「デモの都」とも呼ばれている。ジャッキー・チェンがずいぶん前に「デモ規制したらいい、香港はデモの都になっている」という発言をして物議をかもしたが、香港人にとってデモ・集会はすでに日常なのだ。「上街!」(街にいこう)とは、デモに行こう、みたいな感覚で使われる。
◆デモは交通がマヒし、商店街もオフィス街も大変迷惑がるのだが、それでも香港人に残された最後の民主の砦。香港人は自分で自分たちの行政トップを事実上選べないのだから、選ばれた行政トップやその政策に反対を表明するのは選挙じゃなくて街の占拠、デモしかない。占拠で一票入れる代わりにデモに参加する、みたいな感覚だろうか。参加しなくても、そのデモに対する政府の寛容度が香港の「一国二制度」のバロメーターと言えた。その寛容さが返還17年目にして失われつつある、と感じた。
◆和平占中の挑戦
◆逮捕されたのはたぶん「オキュパイ・セントラル」のメンバーだろう。オキュパイ・セントラルには二つあって、一つはオキュパイ・ウォールストリートに影響され、2011年10月から2012年9月で起きた香港市民運動だが、その後2013年1月、香港大学の法律学者・戴耀廷教授らの呼びかけで全く別の運動体が結成され、一般に「和平占中」と呼ばれる運動は後者だ。
◆運動の目的は、真の普通選挙の実現だ。2013年7月の段階で、2014年初夏に金融街でもあるセントラルを占拠することで中国に干渉されない真の普通選挙を勝ち取る戦略が打ち立てられた。この組織の活動で話題になったのは、今年6月20~29日に行われた香港「全民投票」(中国語表記は公投)だ。
◆いわゆる普通選挙のやり方について行われた模擬直接選挙で、香港で15箇所の投票箱を設置したほかネット投票も受け付けた結果、人口715万人(有権者18歳以上600万人)の香港で78万人以上が投票(ネット投票も含む)した。普通選挙方式案三つの中からどの選挙方式案がよいか選ぶ投票なのだが、オキュパイ・セントラル(和平中占)が提案する「一定の有権者の推薦があれば誰でも立候補できる」国際基準の普通選挙方式が選ばれた。厳密な投票結果は発表されていないのだが、この投票に参加するというパフォーマンス自体が、立候補者を「愛国心」や所属政党で篩にかける中国提案方式へのNOを表明するものだと考えると、有権者600万人の13%が、はっきりと意思表明したということになる。これを多いか少ないかというと、中国資本の支配によってすでに言論の自由を放棄した香港メディアが懸命にこの模擬投票は違法だよ、セントラル騒がしくってチョー迷惑など、ネガティブ報道していたことを思えば、かなり健闘したと思う。
◆この和平中占の模擬選挙はかなり中国を慌てさせた。投票開始前に謎のハッカー集団に和平占中のサイトが攻撃されて投票システムがダウンしたトラブルは、中国当局が糸を引いているのではないか、と疑われている。和平中占はこの投票結果を香港政府が無視したら、本気でセントラルを長期間占拠する、と脅しているのだ。香港の有権者10%が本気でセントラルを占拠したら、どうなるか。そりゃ怖いはずだ。
◆この全民投票に対する、中国各紙の論評が興味深い。例えば人民日報系大衆紙・環球時報の社説「香港模擬投票社数たとえもっと多くとも13億人には及ばない」。内容を一言でいうと、確かねにね、香港のアンチ中国派が一定の社会動員能力があるのはわかったけど、それがなに?たとえ有権者の過半数を動員しても、じゃあ基本法はいらない、国家もいらないから、彼らについていくっていうんかい?英国は香港を中国に返したんだよ。アンチ中国派は幻想もつなよ-というなんとも、中国当局本音丸出しのメッセージである。
◆人民日報海外版は「香港人は台湾独立派が全民投票に介入したと、批判している」と報道。内容を一言でいえば、「香港の和平占中はひまわり学運と連携して香港の繁栄と安定を破壊しているよ!台湾独立派が香港の一国二制度を破壊しようとしているよ!」
◆実際、ひまわり学運は和平占中と連携しており、台湾に香港の応援チームも来ていた。で、今回、ひまわり学運リーダーの一人、陳為廷も香港に応援に来ようとしたのだが、ビザが下りず、ビザがないまま香港のパスポートコントロールに来て入境できずに追い返されたという事件もあった。全国政協(中国の参議院のようなもの)外持委員会副主任の盧文瑞は「台湾独立派と和平占中の合流して香港独立派となることを防がねばならない」と発言していたが、中国の危機感はそこまで想定しているのか、とちょっと驚いた。
◆デモが社会を変える時の要諦
◆さて香港の51万人デモは香港の崖っぷちを救うことができるかどうか。私としては全民投票数に匹敵する70~80万人くらいが参加するのではと内心思っていたので、51万人にとどまったのは、まだ香港人の中に、中国にNOを言うことへの恐れが強いのだろうと思う。
◆こういうことを言うと怒られるかもしれないが、私の見たところ、台湾人に比べると香港人の方が臆病で、注意深い。香港は政治動乱のたびに中国国内から逃げてきた人たちで構成されているから、中国政治の恐ろしさを知っている。実際に今も中国の干渉を受けた政治と経済のもとで暮らしているのだから、中国を恐れる気持ちは強くて当然だ。
◆だが、中国としても香港は台湾以上に怖い存在でもある。香港のデモ、そのデモによって起きる混乱は中国の経済・金融・社会にダイレクトに影響する。統制されたメディア上にはなかなか反映されないが、広東に行けば、「香港の普通選挙」に関心を持つ人も結構いて、香港で普通選挙ができるのにどうして広州で選挙できないんだ、と言ってはばからない普通の庶民だって多い。
◆広州から香港の学校に通っている人もかなりいるのだ。広東の大都会の市民にすれば、香港と広州は30分ですぐ行ける同じ街の感覚だ。なのに自由度はかなり落差がある。なんで?という疑問は普通にもっている。
◆香港は中国対外経済の窓口で金融拠点という意味でも、広東省に隣接し毎日膨大な人と物が流通しているという意味でも、事件の影響が中国に波及しやすい。だから2003年の国家安全条例は「わずか」50万人のデモでも、中国側は譲歩し棚上げされてしまった。
◆だが「真の普通選挙」デモは、中国としても簡単に譲歩できない。中国がコントロールできない普通選挙を実施するというインパクト自体が中国にどんな影響をもたらすか、予測不能なのだ。少なくとも、ここで中国当局が香港をコントロールできるということをきっちり示さないと、中国国内の安定にかかわる。
◆逆に、香港の普通選挙をきっちり中国がコントロールできれば、中国国内でも「偽の普通選挙」なら実施できるかもしれない、と思うかもしれない。そうすれば国際社会には中国も随分変わりましたよ、とアピールできるかもしれない。
◆なので中国にとっても今回は絶対妥協できない戦いなのだ。異例の500人逮捕騒動や台湾と香港の連携に対する強い警戒、そして香港の言論・メディアのかつてないほどの締め付けは中国側の恐れの表れである。双方が、妥協できない、瀬戸際の攻防だと思っている戦いはいつ何時予想外の混乱・流血をもたらすかわからない。香港のデモ参加者は中国にNOということの恐れを乗り越えて、その予測不可能なリスクを承知で街に出る。中国政府は自らの恐れから、より大きな恐れで香港人に与えて黙らせようとする。
◆そういうデモだから、香港のデモに参加しない人たちも、あるいはデモに反対な人も、その勇気を認めて渋滞や騒音を迷惑だという気持ちがあっても肯定的に見守るのだ。そういう政府側を恐れさせるデモ、参加者も恐れを感じるデモ、そして参加しない人、デモによって迷惑をこうむる人ですら肯定的に見守るデモ、それが社会を変える可能性を持つデモの要諦だと思っている。
◆当然、この原稿を書きながら永田町の集団自衛権容認反対のデモのことを考えていた。私はデモを見にいかなかったが、バラバラと低空飛行するヘリの音の多さに、それなりの人は集まっていると思っていた。だが、報道によればたった4万人。やはり、これは1億3000万人の主流民意を反映しているという感じではないと思う。
◆日本政府がこのデモを全く無視して閣議決定したのは、このデモに政府を恐れさせるだけの力がなかったということだ。政府も恐れていないから、このデモに対してそう手荒なこともしない。
◆そもそも、日本政府、与党を恐れさせるのは、デモではなくって、有権者の支持率なのだ。この閣議決定によって安倍政権の支持率が一桁に落ちるとか、そうなると予想されたらそのアクション自体がなかっただろう。安倍政権の支持率は多少落ちたみたいだが不支持率は上がっているという現象を考えれば、集団的自衛権についての主流民意は結構割れているんじゃないか。
◆ちなみに、私は、集団的自衛権の容認、別に構わないけどさ、憲法改正っていってたんちゃうん?という気持ちである。憲法をここまで好き勝手に解釈してしまったら、憲法の意味ないから、早く最初から作り直すべきだと思っている。尊重されない憲法なんて憲法じゃないからね。で、なんでここまで尊重されないかというと、日本人の総意で作った憲法じゃない、という意識があるからかもしれない。所詮、アメリカの都合で作った憲法だから、アメリカの都合で解釈が変わるんだな。
◆香港のデモが本当に「真の普通選挙」を勝ち取れることができるのか。それとも中国の恐怖の前に屈するか、あと2年あまりあるので、まだ何ともいえない。だけど、中国政府が内心慌て恐れを感じているのも確か。これから香港はかなり厳しい時代を迎えると思うが、幸いというべきか、時期同じくして台湾、新疆と中国を内心慌て恐れさせる事態が同時多発しているので、チャンスはあるかもしれない。来年は70万人デモとかになるかも。あるいは弾圧の嵐が吹き荒れているかもしれない。だから、目話せない。
◆ちょっと長かったな。初回の更新だから許してください。最後まで読んでくれた人ありがとう。次はもっと短くする。
台湾と香港の民主派が連携しているというのは中国当局としては不本意でしょうがある意味「一つの中国」を象徴しているような気も。日本の団体には右も左も彼らと連携しているところがあるとは聞きませんが・・・あと長すぎるとのことですが、福島ファンの自分としては十分満喫出来ました。これからも筆の走るまま書きまくって下さい。
おお、最後まで読んでいただいて、ありがとうございます。これにこりず、またきてください。
国民主権を謳いながら、当の国民は一度も憲法作成に携わったことがないという・・・
さて、私は長くても気にならないです。
大きなお世話ですが・・・どうかブログ更新がご負担になりませんように。
応援しています!
読んでくれてありがとう!ぼちぼち更新していきますので、よろしくお願いします。