■産経新聞が11月から新しい新聞を出すことになった。もう他の記者ブログでも紹介されているからご存じの方も多いだろう。サンケイ・エクスプレス、通称EXである。実は、私も日曜掲載の大型コラム「中国を読む」を隔週で担当することになった。私には珍しく「硬派なコラム」との要請が。(いままで、女性らしい原稿を、とか、柔らかいコラムをとか要請されることが多かったのに)。硬派コラムってなんだ?コラムってふつう、軟派なものだろうに。
■それで、今回エントリーは、EXがどんな新聞か、というのをご紹介がてら、試読版10月29日に掲載された記事を、ここで転載。自分でも、まだ硬派コラム、というのに慣れていないことがわかる、消化不良の原稿になってしまったが、ご笑覧ください。
(転載開始))
■「和諧」の理想と現実と
早朝、「ピンピン」というかん高い電子音で目がさめる。携帯電話にショートメールが入ったのだ。
「公安に軟禁されて、ミサに行けない」と、知り合いの民主活動家からだった。
最近、以前に取材した人が軟禁されたり、当局から渡航を妨害されたり、逮捕されるケースが続いた。人権派弁護士、民主派作家、天安門事件(1989年)を経験した民主活動家…。そういう朝はひどく落ち込む。私が取材したから、捕まったというわけではないとしても。
■相次ぐ人権派弾圧
特に夏以降がひどかった。まず人権派弁護士として国際的に著名な高智晟氏が8月15日に拘束された。敬虔なキリスト教徒で、中国で邪教と迫害されている法輪功学習者の支援もやっていた。3月にインタビューしたとき「私は有名人だから当局も簡単には手が出せない」と笑っていたのに、9月22日には、国家転覆扇動罪容疑で正式逮捕され、起訴。懲役10年前後の重い判決が下る可能性が強い。
8月30日には、山東省で人口抑制政策を理由に堕胎を強制された女性らを支援していた人権擁護活動家、陳光誠氏が懲役4年3カ月の判決を受けた。9月には詩人の力虹氏、民主化運動家の陳樹慶氏、広州市太石村の土地収用問題で農民側のへ弁護士、郭飛雄氏が前後して逮捕された。作家の郭起真氏が国家転覆罪で10月17日に懲役4年の判決を受け、著名編集者、丁東氏が一時的に拘束され、天安門事件の被害者で民主化運動家の斎志勇氏が軟禁状態だ。
■高まる民主化運動
なぜに急激に民主化運動への締め付けがきつくなったか。一般に来年の第17回党大会を前にして、胡錦濤政権が社会の安定維持に極めて敏感になっているため、と説明される。また、民主化運動やキリスト教勢力など異見分子の連携、団結が急速に強まっており、当局が社会の安定の脅威と感じるまでになってきているからでもある。その背景にあるのが、中国国内ユーザー1億3000万人以上というインターネットの急速な広がりだ。
9月末、チベット自治区からネパールに亡命しようとしたチベット族が中国の国境警備隊の銃撃を受けた事件は、その生々しい映像がインターネットの画像投稿サイト、ユーチューブによってあっという間に世界に広がった。ユーチューブはごく最近急発展したツールで、中国でもまだアクセス禁止になっていない。今のネットは匿名の文字情報だけでなく、決定的瞬間をとらえた映像、音声を国境を越えて瞬時に伝達する。
■強まるネット規制
ネットを通じたこうした情報の共有は、地方ごとでばらばらだった民主化運動らにこれまでになかった一体感を生んでおり、その活動や目的もより具体的に大胆になっていた。北京のある民主派言論人によると、高智晟氏は拘束直前に、香港メディアに、民主化運動の団結と政治組織化の夢を語ったことが逮捕の引き金になったという。
中国はインターネット統制を強化している。2008年完成をめざすネット統制システム「金盾プロジェクト」は今年、またグレードアップし、パソコンのアクセス傾向を解析し個別に遮断するほど巧妙だ。しかしネット上でつぎつぎ登場するツールやソフトに、当局の統制は対応しきれず、イタチごっこの面もある。
そのため、拘束、逮捕といった強硬手段で対応するほかなくなってきた、というのである。第16期中央委員会第6回総会(6中総会)で「和諧(調和のとれた)社会」というある種ユートピア的な社会の理想像が強く打ち出されたが、その実現のためには社会の秩序や安定を損なう「国内外の敵対勢力の厳格な取り締まり」も盛り込まれている。
五輪を控えた中国は世界中の企業が投資を競い、世界中の観光客が集まるだけのパワーと魅力がある。その華々しさに目を奪われがちだが、裏側で深刻な人権弾圧が同時進行している。これを見ないふりをするわけにはいかない。
知り合いの誰かが拘束されたと聞くたびにわき起こる苦い思いを飲み込むたびに、そう自分につぶやくのである。(転載おわり)
■どこが、硬派コラム?自分で思わずつこっこんでしまうほどだが、書いているうちにこなれていくことだろう。生暖かく、見守ってやってください。いま試行錯誤中。
■ちなみに、私はかってに硬派コラムの定義を、硬派な主張が根底に通っているコラム、としてみた。硬派な主張とは?うーん、あいまいさをできるだけ少なくする、ということかな。物事は必ず両面あって、こういう面もある、ああいう面もある、それぞれ言い分がある、と理解できる。でも、そこでひよらず、あえて、ひとつの視点から見てみる。少数派の視点からでもいい。
■新聞記事は、一般に、そういう両面をバランスよく取材し、人からつっまれないように、書くべきだ、と教えられる。でも、コラムはあえて、反論もあることを承知で、けっこうはっきりと私見をいれていいのだと思う。そういう原稿は、他の意見やものの見方の否定も含むことがあるから、たぶんに、攻撃的なのだが、そこをできるだけ柔らかく書く。「優雅なる攻撃性」というやつである。この「優雅なる攻撃性」の典型的な例が、私は石井英夫氏の「産経抄」だったと思うのだが。(石井さん自身は耳かき一杯分の毒といってけど)。
■硬派コラムのイメージがまだつかめないので、このEXコラムはコラムというには、ニュースに近い感じでかいてみた。(ニュースっぽく書くと早く書けるのだ)。でも「優雅なる攻撃性」というのなら、もうすこし、皮肉や洒落のきいたものを書くべきなのか。このコラムを今、自由に書き直せ、といわれれば、中国の白蓮教の話から書き起こして、高智晟氏の目指したものが、いかに共産党政権にとって脅威だったのか、高智晟氏が大胆にも香港メディアにどうどうと発言する自信の背景にある、ネットの潜在力とはなにか、というふうに展開してもよかったんだな。そうれば、もっとコラムらしくなったかな。読み返すたびに、いろいろ反省。
■EXには、このほか、「アメリカを読む」「地球随感」「安倍政権考」など、毎曜日ごとちがう大型コラムが掲載されており、コラムの多さがウリのひとつらしい。コンセプトは「世界とのつながりを感じさせる国際情勢と現代にふさわしいアートな香りがする新聞」だという。一度、手にとってみてください。
福島様
EXは購読を申し込んであります。産経本紙と記事がダブルことは仕方ないと思いますが、独自記事やコラムに期待感いっぱいです。
出勤の時には産経本紙を持って出て、家にはEXを置いておこうと考えているところです。
『優雅なる攻撃性』のコラムを楽しみにしています!
そうか、自宅が産経新聞だから、事務所でEXを取ればいいんじゃないか…と…
今までなぜ気付かなかったのか不思議ですが、『EXで硬派コラムを書くことになった。』を読み終わった途端にそう思いました。
福島さん。益々のご活躍期待しております。加油!
ところで、今日の硬派コラムはizaで拝読させて頂きましたが、今後もアップされるのでしょうか?
福島様
中国の民主活動家が世界で一番大変な想いで社会活動をしている様に思います。
彼らはけっして親日ではないかもしれませんが、民主活動家に期待したいですね。
>中国の白蓮教
初めて聞きました。やっぱり仏教系なんでしょうか? コラムといえば、思わず「ニヤッ」とするイヤミ(?)なんかあるのが好きだったりします(^-^)
今日の本紙に結構大きなスペースで香織さんの署名記事がありましたね。おぉ柔らかネタから政治ネタも任されるようになったのかとうれしかったです。あの程度の記事は前から書いてますよ、でしたらごめんなさい。
EXは昨晩購読申し込みました。上海閥との抗争、環境問題、チベットウィグル情報等、合点のいく解説込みの記事を期待しています。
硬派コラムと柔らかネタの違いって
やっぱ白黒の度合いなのかしら?
以前『諸君!』や『Forsight』に書いていたような、”文体が”硬いコラムになるのか…?w
福島様
中国の生の情報と切れ味鋭い視点からの私見を期待いたします。
朝日や毎日が決して国民に知らせようとしない真実を、どんどん紹介していってください。
hiroさん、
白蓮教は、弥勒信仰の仏教徒の秘密組織ですが、例によって道教がかなり混じっています。元朝に反抗して蜂起した「紅巾の乱」は白蓮教によるものですし、その混乱の中から明朝をおこした朱元璋も白蓮教徒でした。
小龍景光さま:EX購読、ありがとうございます。今週日曜も私がコラム書いてますんで、ご笑覧ください。
にゃんこさま:事務所でEXとってもらえるんですか?ありがとうございます!購読してよかった、と思ってもらえるコラムかくようがんばります。
マルコおいちゃん(さん)
>白蓮教は、弥勒信仰の仏教徒の秘密組織ですが、例によって道教がかなり混じっています。
どうもありがとうございます!
>元朝に反抗して蜂起した「紅巾の乱」は白蓮教によるものですし、その混乱の中から明朝をおこした朱元璋も白蓮教徒でした。
今後に期待する私がおりますf(^-^;
sakuratou さま:アップされていない、と思って転載したのですが、なぜかアップされていました。でもすべてアップされているわけでもなさそうです。
kikuti-zinn さま:改めて記事にすると思いますが、作家の余傑さん(ブッシュ大統領と面会した非公認キリスト教信者)が日本に行く予定です。安倍首相か麻生外相と面会したいと言っていました。日本政府も、中国国内の人権状況に関心をもつことが、長い目でみると日中の正常な関係に役立つように思います。
hiro さま:ニヤっとできる、ですか。トライしてみます。
やまかんむり さま:EXご購読ありがとうございます。まだまだ足りない見識を、勢いとかパワーと情緒?で補って、満足してもらえる原稿を書きたいと思います。
akioka さま:実は私もよくわからないのです。一般に新聞の2,3面にあるのが硬派記事、社会面や文化面にあるのが軟派記事、とされるみたいですが。本心は記事に硬派も軟派もないと思っています。
フックン さま:文体が硬いというのは、新聞記事はダメですよね。硬派なテーマを柔らかく書く、というのを目標にしています。
ナルト さま:ありがとうございます。できるだけ、独自のネタ、独自の視点でやっていきます。
マルコおいちゃん さま:解説ありがとうございます。中国の歴史って、ほんとうに繰り返しですねぇ。
福島様。
あなたの記事の熱に押されて、EX購読することにしました。貧乏人がアホか!ですが。
タブロイド版というのは、時代に即しているかも知れません。期待しています。
質問です。
販売店に聞いた方がいいのでしょうが、私は産經本紙を購読し、今回EXを購読します。販売店は産經と毎日を扱っています。毎日と産經の販売部数はいかがなのでしようか。
よもや名門毎日新聞が潰れるとは思えませんが。
最近読んだ本です。
黄民基著『唯今戦争始め候。明治十年のスクープ合戦』(洋泉社)。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4862480683/sr=8-1/qid=1162568497/ref=sr_1_1/503-4691265-2122312?ie=UTF8&s=books
ここに出てくる東京日々新聞が後の毎日新聞。福地桜痴・岸田吟香はそれをリードした言論人です。
佐賀の「事件」もあり、毎日新聞はどうなるのか。
EXと福島さんに期待します。
福島香織様:私は自分でブラウザを立ち上げた時のページをHDD内に作成しており、いつもなら、そのページの「福島香織」をクリックするのですが、今日は何の気まぐれか、iza記者ブログを選んで、見ていると「さのりょう」様のブログが目にとまりました。そこにこう言う↓文がUPされていました。
(EXの)スタッフから大きく取り上げるべきニュースを聞いていくのですが、きょうはその誰もが取り上げようとしなかったニュースを1面トップに選んでしまいました。
http://sanor.iza.ne.jp/blog/entry/68067/allcmt#C102980
ぱっと見て「誰もが取り上げようとしなかったニュース」は福島様が書かれた記事だと思いました。すばらしい視点だと思います。中国べったりの記事が多い中で、netを読まない、または四でも断片的な知識の読者には良い刺激だったと思います。
kiyoicho さま:ありがとうございます。決して損はさせません!(という覚悟で記事をかきます)。
aqua2020 さま:さのりょう氏のブログ拝見しました。おほめにあずかり、光栄です。読者の方々のコメントやブログも、私にとっては事象の切り口を考える上で、大きなヒントです。今後ともよろしくお願いいたします。
硬派のコラムってのは、世間の出来事を既知の別の事に結びつけて、起承転結で最後に自分の意見をビシッと書くことですか。そう思って読むと今日のもちゃんとそうなってますね。心配なーし。
産経にはもっとクールな山口昌子って手本もあるけど、香織さんなら泣菫の『茶話』みたいに皮肉たっぷりの方がいいかも。がんばって下さい。