安倍晋三、話のわかる男2

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■18カ月ぶりの日中首脳会談であり、五年ぶりの日本首脳訪中であり、七年ぶりの日本首脳公式訪問となった安倍晋三首相訪中。私は安倍昭恵夫人のファーストレディーっぷりを堪能したあと、劉建超報道官による中国側の記者会見に出席し、安倍首相の内外記者会見に参加。歓迎式典は見られなかったが、故宮の前に翻る日の丸と五星紅旗をみると、しみじみとああ、ひさしぶりだなあ、と感慨にふけってしまった。(あんまり新聞原稿には貢献していないが)。

 ■さて、会談の成果や中国の歓迎ぶりは、9日付朝刊をみていただけば、わかるだろうから、ここでは、さくっと、私の直感(妄想)と、感想を書いておく。あんまり時間ないし。

 ■友好より
 「戦略的互恵関係」って言葉の方が好きだな
 日中は現代を活きるな大人の外交関係
 歴史は鑑じゃなくて、直視すればいいだけ!
 
  
 
 ■歓迎式典、祝砲、儀仗隊閲兵、トップ3(胡錦濤、呉邦国、温家宝)との会談、温家宝首相主催晩餐会と、ほぼフルコースの国賓待遇。晩餐会のメニューは前菜、燕の巣の翡翠スープ、伊勢エビのニンニク風味、松茸(北朝鮮産?)の野菜いため、牛のアキレス健の醤油煮込み、クルミパイ、デザートフルーツ。プラス長城ワイン。メインは一般的だが、この燕の巣が、純白の極上品なら、中国側にしても、けっこう気合いが入ったメニューである。

 ■さて、話のわかる男、実務派と中国側から高く評価された安倍晋三、この歓迎ムードにデレデレニコニコか、と思いきや、緊張しているのか、警戒しているのか、なんかクールであった。でも、威圧的だとか怒っているみたいとか、嫌な感じはしない。記者会見で、ナマ安倍みたが、結構かっこいい。で、その会見で言うのだ。

「経済と政治の両輪を力強く作動させていくことにより、日中関係を高度の次元に高め、戦略的互恵関係を築いていくことで一致をいたしました」

 ■これはどういうことか。
 つまり、国と国の関係に歴史だの友好だの挟む低次元な論議はやめて、クールにドライに、実務的にお互いに利益があるようにやりましょうぜ、ということなのだ。情ではなく、実利の関係。会談の成果をまとめた報道コミュニケ(共同プレス発表)にもそれは現れていて、いつもならうざったいほど繰り返される友好という言葉もわずか4回、それも1回は日中平和友好条約という固有名詞中。そして、「歴史を鑑に」という中国の好きな合い言葉がない!かわりに「歴史を直視し、未来に向かい、両国関係の発展に影響を与える問題を適切に処理」という言い方だ。どうちがうか、というと「歴史を鑑に」という言葉には「反省しろ」というニュアンスが入っている。

 ■つまり戦略的互恵関係とは、「共通の戦略的利益に立脚した互恵関係」であり、歴史問題を外交問題化することが、共通の利益にならないなら、お互い触れないでおこう、というスタンスなのだ(と私は勝手に理解した)。

 ■もちろん、中国の指導者は会談中、当然「歴史を鑑にし、未来に向かう」というセリフをいった。だが、安倍首相はこう説明した。
 「中国の指導者からは歴史を鑑にし、未来に向かう精神について言及がありました。また政治的障害を取り除いてほしい、という話がありました。私はこれに対し、過去の歴史を直視し、平和国家としての歩みを続けていく。我が国はかつて、アジア中国の方々に対し、多大な損害と苦痛をあたえ、傷痕をのこした。そのことに対する深い反省の上に、戦後60年の歩みがある。この思いは60年を活きてきた私たちの共通の思いである。この思いは変わることはない、と申し上げました」。

 ■靖国神社の参拝については、「したかしなかったか、するかしないかを申し上げない。それは外交化、政治問題化している以上、申し上げない」。その上で、「双方が政治的障害を克服し、両国の健全な発展を促進するために、適切に対処する旨をのべました」という。

 ■つまり、安倍首相は靖国を参拝するだろうけど、それはわざわざ発表しない。政治的、外交的パフォーマンスで参拝するんじゃないから。だから、中国もいちいち騒がないように。といいたいのだ、と私は勝手に理解した。

 ■実は、中国側も最近メディアに露出が多い清華大学国際問題研究所の劉江永副所長がさかんに「安倍首相はもともと公式参拝しないといっているが、宗教の自由にも触れており、私的には参拝するだろう」との見方を示しており、国民に、黙っていく私的な参拝ならいいんじゃないの、という刷り込みを開始している。中国側も、このあたりが落としどころとみているかもしれない、と私は予想。中国の左派世論がそれではダメだ、と騒ぎたてると、この予想はくるってくるが、左派は体制派だから、当局が私的参拝はいいのだ、というサインを出し続ければ結構納得するものなのだ。

 ■しかし、日本人記者としては、あらたな疑問が。小泉純一郎前首相だって、私的参拝だって主張していたじゃないか。歴史認識について安倍首相と小泉前首相とどんな違いがあるのよ!なんで小泉前首相はワルモノで、安倍は「話のわかる男」?それに、首相がいくら私的にこっそり参拝して発表しなくても、メディアは自力で参拝時間を探りあて、取材し報道するに決まっている。日本は報道の自由があるから、中国みたいに報道統制できないのだ。

 ■この質問は劉建超報道官の会見でも、日本人記者がこの質問をぶつけたが、こう答えていた。「今回の日本首脳訪中は、双方が政治的障害を取り除く努力をすることで一致した結果、実現した」。そう、聡明な読者は、お気づきだろう。これまで、日本側に政治的障害を取り除くよう要求していた中国は、自分側にも政治的障害があることを認め、それを最近やっとすこし取り除いた結果、今回の訪中が実現した、と説明したのだ。

 ■中国側の政治的障害とは、反日世論であり、政府内の反日派、すなわち上海閥(特に江沢民派)。江沢民派つぶしで今回の訪中が実現したが、来年の第17回党大会まで、中国の勢力地図が順調に団派に塗り替えられてゆくにつれ、かつての胡耀邦時代のような、日本好き好きムードが盛り上がり、安倍首相の個人的参拝くらい問題なくなってしまうのを、胡錦濤は期待しているかもしれない?「双方が政治的障害を取り除くために適切に対処」することで一致しているが、適切な対処の中味は、胡錦濤の権力闘争の結果次第、ということになるのかな。まだ、予測不可能。

 ■というわけで、今回の日中首脳会談、双方互角にいい勝負だったのではないか。とにかく「歴史を鑑に」式の中国のお説教から、きっちり逃れたのは、よかったと思う。

 ■もっとも、明日の中国報道が、どう書かれているか見るまで安心できない。朝貢国が宗主国さまにあいさつにきた、みたいな報道ばかりだったら、がっかりだよなあ。安倍首相の「適切に対処」の中味が、靖国神社参拝をあきらめる、という風に曲解されている可能性も。中国側の、安倍首相に関する認識のほどは、政府内部でもばらつきがあるようなのだ。

「安倍晋三、話のわかる男2」への21件のフィードバック

  1. ここぞというところでの深夜までご活躍、ご苦労様です。
    そして記者ブログでの情報提供、ありがとうございます。
    >朝貢国が宗主国さまにあいさつにきた、みたいな報道ばかりだったら、がっかりだよなあ。
    まったく目が離せませんね。
    私も福島さんの記事に目が離せません♪
    こちらの記事にもTBさせて頂きます m(_ _)m

  2. 古森記者のブログコメントにも書きましたが、小泉さんの置きみやげは大きい、安倍さんはそれに適切に乗ったと言うことではないでしょうか。中国内での権力闘争の分析も判断材料としたのでしょうね。(先日の「上海の大きい花火」というタイトルは、見た途端はその通りに受け取っていました、中身を見てありゃと思った次第です。(笑い))
    9日の各紙の朝刊がどう扱うか見物ですね。野党諸党、媚中派、朝日始め産経以外の各マスコミは大失点のはずですがそれをどうごまかすか。朝刊が楽しみです。
    だけど、これからまだまだ、先は分かりませんね。
    新聞では分からない貴重な情報、これからもよろしくお願いします。

  3. 福島さん。晩餐会のメニューは気になっていたので、私的には大スクープだと思います(笑)。
    宴会を欠かさないのも中国らしいですね。最近は白酒は飲まないのでしょうか?
    しかし、日本を昼間に出発して会談、晩餐会、翌日は韓国とは。日中の距離(地理的)の近さを再認識しました。

  4. おはようございます。
    福島さん、忙しい一日だったでしょう。
    それにしても日本の「産経」以外の新聞社のほとんどがカラマワリしていることが明白になりました。媚中韓の姿勢も見直しを迫られることでしょうね。
    余談ですが週刊新潮10月12日号の高山正之(帝京大学教授)
    氏の「変見自在」に中国の医療問題で、朝日の特派員が「良い医者にかかりたければ相応のカネを用意するのは当たり前だ」と北京市衛生局の判断を伝えた。それを産経の貴女(福島香織記者)の表現では「中国共産党幹部の850万人は医療費は免除、そのため一般の患者に重い医療費負担がのしかかる、都市民の7割、農民の9割以上が医療すら受けられない、急病で病院に担ぎこまれてもお金が無いので放置され死亡するケースもある(文中略)」というような事をを「産経」の貴女は書いている。朝日が絶対書かない中国の姿だ、と紹介されていました。
    嬉しかったですよ貴女の一フアンの老人としては。これからは取材も楽になってくるといいですね。しかし毅然とした上記のような態度で臨んで下さいね。

  5.  まだ胡錦濤側も、もう一回逆向きにさせるカードは持ったままか。これでは六韜と区別がつきません(>_<)  現在の反日政策に繋がる工作(安倍氏への置き土産としては反日日本マスコミ関連が優・半島関連が良・江沢民派でも可)の古文書発掘!!とか楽しいことやってくれれば胡錦濤側もある種腹をくくったのが分かるのだけど。

  6. >メディアは自力で参拝時間を探りあて、取材し報道するに決まっている。日本は報道の自由があるから、中国みたいに報道統制できないのだ。< ベタでそう思っておられます? 李登輝、ダライラマが来日した時、日本のメディアはそのニュースバリューにも関わらず、中国の要請を受けた政府、外務省の指示に唯々諾々と従い、黙殺したのではないのかな。  で、私が感じたのは、安倍氏の靖国参拝についても、中国はこれに倣って、国内で報道せず、無かったことにしてしまおう、という対応を考えているのかなと。

  7. 中国ネットちょっとのぞいて眺めて(読解力がないので)観ましたが、好意的ですよねぇ。ってQQのニュースと新華網しかみてないのでなんともいえませんが(しかも眺めただけ)。
    BBSも安倍さんに比較的好意的ですよね。刷り込み完了ってところでしょうか・・・・。
    でも、日本側も、「小泉より安倍がいい」みたいに「江沢民よりこきんとうがいい」みたいに刷り込みするのだけはやめてもらいたい。いいんじゃなくて、「まし」なだけ。

  8. お絵かきじいさん さま:ほんと、これからのことはわかりません。胡錦濤が本当に、農村改革を行い、いわゆる今の経済矛盾調整に着手しはじめると、表面的には経済は停滞し出すだろうし、やはり外資バッシングは続くと思うのです。その中で、日本は、技術移転を資金付きで迫られて、中国経済の失速を防ぐための下支えの役割を与えられるかもしれません。

  9. 福島様
    安倍総理、ちゃんと主張してるよなあという感想を持ちました。政治家というのはメッセージを出すタイミングが大事だと思います。
    総理就任の直後に訪中・韓は、それ自体がメッセージになり評価されると思いました。でも「韓」の方が心配…。

  10. sakuratou さま:あれ?そうへんですね。ワインでした。そういえば、メニューも、フレンチ風。プレスセンターに資料として、おいてあったので、晩餐メニュー思い込んでいたのですが、ちがったりして。でも燕の巣スープは、やはり国賓級のメニューだから、晩餐メニューだと思うのですが。確認します。

  11. くぼたさま:ありがとうございます。忙しいというより、なんかやたら時間の食われる日でした。待ち時間が長いんです。

  12. izu-chanさま:胡錦濤という人は、とっぽい顔をしていますが、上海汚職問題での手腕をみるに相当な策略家でしょうし、チベット弾圧とか結構、強硬な行動も躊躇しないタイプのようです。やはり落とし穴は常にあると思ってほしいですよね。

  13. riceshowerさま:すみません、よく覚えていないので、当時の記事、捜してみます。ニュースバリューの判断は、現地の記者と本社が判断するのでしょうが、靖国問題は国民の関心度が段違いに高いので、やはり抜き合戦になるのでは?ただ、中国は、メディアに対する考えが違うので、日本は当然メディアコントロールしてくれると思いこみますよね。そのギャップが、結構恐いですね。

  14. nhatnhan625 さま:掲示板は、誰か工作員が書き込みしているのかと思うほど、好意的なものが増えています。まだ強国論断とか、反日の巣窟掲示板をのぞいていないのでなんともいえませんが。

  15. kikuti-zinn さま:韓国の方はちょうど休刊日にあたりますね。なんか、韓国かわいそう。

  16. こんにちは。初めて書き込ませていただきます。私も「戦略的互恵関係」という言葉に注目しました。日中関係を「戦略的互恵関係」と称するのは、これが初めてではないでしょうか。これまでは「友好協力関係」とかいう言葉だったはずです。
    「戦略的互恵関係」とは中国側の用語で、中国は、自分達が重要とみなす国とのみ「戦略的互恵関係」を結ぶという方針です。つまり、戦略的互恵関係のほうが、友好協力関係より上なんですね。中国が戦略的互恵関係を結んだのは、アメリカ、ロシアを始め、イギリス、フランス、イタリア、ブラジル、メキシコ、アルジェリアなども含まれます。
    中国は、日本が戦略上極めて重要であるにも拘らず、メンツ上、戦略的互恵関係とはこれまで言わなかったんですね。私が今回「あれっ?」と思ったのは、戦略的互恵関係という言葉を安倍首相のほうから持ち出していることです。実は、以前、日本は日中関係を戦略的互恵関係にしようと中国に提案して拒否された経緯があるんですね。
    中国が日本との関係をどう表現しようが、中国の勝手であって、日本はこだわる必要はないと思うんですね。中国は、アメリカと戦略的互恵関係を結ぶ際には、無理矢理この言葉を共同発表にねじ込んで、「アメリカと戦略的互恵関係を結びます!」と高らかに宣言していたような記憶があります。
    日本が中国に認めてもらおうと必死になっているような気がして、余り良い印象がしません。これは、私の考えすぎでしょうか?

  17.  忙しい中、ありがとうございます。迅速カツ的確な再現会見の内容と、「勝手に理解した」と謙遜する福島eyesに、感謝。まさに、前菜からデザートまで食べつくした満足感で、たいへん、おいしゅうございます(岸朝子ふうに)

  18. ごめんなさい。共同文書を良く見ずに書いてしまいました。上に書いた文章は一旦取り消します。
    中国が結んでいるのは、「戦略的パートナーシップ」のほうですね。日本もこの言葉を使っていないし、さっき新華社のウェブサイトを見たのですが、やはり中国も使っていないですね。おそらく、戦略的パートナーシップ>戦略的互恵関係という間柄だと思います。
    両国とも、「パートナー」になるには、まだ開きがあるといった感じですね。
    (初めての書き込みなのに大変失礼しました。)

  19. horin さま:そうそう、戦略的パートナーシップ、中国では戦略的?伴ですね。私はパートナーシップより互恵関係の方がクールでいいと思います。共通の利益があれば手を組むが、ときには対立もあり得る。パートナーという熱い情の絡む関係でなく、お互い勘定高くいきましょうよ、という関係。

  20. 佐々木正明 さま:コメントありがとうございます。社会部ならば、急遽新聞つくることになって、休刊日返上で呼び出されているのでは?サブカルチャーネタも出していきますので、またきてください。

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